第50話 大斧使い——リタ

 大斧使いのリタ———『スコルポス』の構成員で、「紺碧のロザリオ」の敵キャラだ。


「ねぇ……何、やってるの……?」


 無感情な瞳で彼女は俺を見つめる。

 リタは「紺碧のロザリオ」というギャルゲーの世界において、女性キャラでありながらヒロインでもサブヒロインにもならない、アンルートでの敵キャラとして描かれる。というのも、彼女の性格が悪いとか、何か大きな悪だくみをしているとかそういうのではなく、単純に彼女が『スコルポス』の頭領———グレイヴ・タルラントに陶酔し、忠誠を誓っているからだ。


 ———アンと『スコルポス』は最終的には敵対する。


 アンはシリウスを殺し復讐を完遂するが、その復讐の補助をしたグレイヴには別の思想があり、実はアンを利用しある種の革命をグレイヴが企んでいたことが判明し、アンはそれを防ぐためにロザリオと共に『スコルポス』に立ち向かう。アンルートの大まかな概要というのはそういう———組織に裏切られ、自分の信念を信じて戦う孤独なヒーロー的なシナリオ展開になる。

 リタは、そのシナリオの中で自分を持たず、判断を常にグレイヴに求めていたがゆえに、アンと戦い命を落とす、悲劇的なキャラクターとなっていた。


「いや、少し、ロザリオたちを見守っていた」

「だったら……どうして、隠れる必要があるの……?」


 リタの質問に対してしどろもどろになりながら答えると、当然の疑問を口にする。


「それは……いや、それよりもどうして貴様がここにいるのだ? 『スコルポス』には討伐ランクSモンスターを監視したり、生徒の安全を確保したりといろいろ仕事があるだろう」

「今はここら辺を住処にしているドラゴンは寝ている時間……暇だったから様子を見に来た……ねぇ、どうしてロザリオと王女様を二人きりにしているの……?」

「暇、って……」


 暇なら、しょうがない。


「ロザリオに強くなってもらうためだ……」

「ロザリオ……に?」


 この状況を上手く説明できる気がしなかったので、正直に話す。


「ああ、ロザリオには自分でも気がついてない。真の力がある。それはアリシアの王家に代々伝わる力で———創王気そうおうきという名だ。それをアリシアから伝授してもらうために、こうして見守っているというわけだ」

創王気そうおうき……なるほど」


 リタは納得したようにあごに手を当て。


「そのことをロザリオに伝えた……の?」

「伝えているわけがなかろう。どうしてオレがそこまで親切にせねばならなん」


 シリウスとしてそこまで懇切丁寧に教えてやることはできない。


「でも……言わないとわからないんじゃない……」

「うぅむ……」


 そこが問題なんだよなぁ……どうやって、自然とロザリオが自分に創王気そうおうきがあると気づいてもらうのか……。


「任せ……て」

「え⁉」


 リタは突然、背中に担いでいた大斧を両手に持ち替え、草むらから飛び出していった。


「ひ、ひゃっは~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……!」


 そして、ロザリオとアリシアの前に立ちふさがる。


「お、おうおう……兄ちゃん、いい女連れてんじゃねぇか……よォ~~~~……あんたにゃ勿体ない……こっちにそのアマよこせやぁ~……」

「……えっと、あのリタさん。何をやってるんですか?」


 大斧をブンブンと振り回し、声量の足りない声で野盗の演技を始めるが、ロザリオは全くなんのこっちゃわからないと目を丸くしている。


「ちが……う……私はリタなどではない……名もなき盗賊だぁ~……いいからそのアマよこせやぁ~……! アマを取られたくなかったら……勝負せぇや~……コラァ~……」


 変装も何もせずに、セリフだけでゴリ押そうとしているリタ。

 ロザリオとアリシアは顔を見合わせる。


「ロザリオ、この人は知り合いか?」

「ええ、僕が世話になった組織の人で、僕に剣術だったり、武術だったり戦い方を教えてくれた……いい人ですよ」

「そうか……なんというか、敵役として出てきてているみたいだから、相手をしてやればどうだ? これもモンスターハント大会のイベントの一つなんだろ?」

「そう、みたいですね……リタさんがせっかく慣れていない下手糞な演技をしてくれているし、乗ってあげないと可哀そうですよね」


 ロザリオはそう言って、リタとアリシアの間に入る。

 さりげなく、リタはロザリオに「演技がヘタ」と言われたて、ショックで表情が固まったが、目的であるところのロザリオが前に出てくれたおかげで、気を取り直して斧を構えなおす。


「かかってこいおらぁ~……!」

「わかりました。そういうイベントなんですもんね。リタさん相手だから、本気でいきますよ……!」


 ロザリオはそう言って、黒い柄の剣———聖ブライトナイツ学園が支給している鉄の剣ではない、もう一本の剣の柄に手をかけた。

 あの禍々しい雰囲気を持つ剣……ずっと気になっていたが、とうとうその正体がわかるのか……。


 黒い剣を抜こうとしているロザリオに、リタは首を振り、


「違う……そっちは使うな……魔剣・バルムンクは……使わずに……普通の剣を使って、全力で来い」


 魔剣———⁉

 リタはさらっととんでもないことを言いだした。ロザリオが腰に下げているもう一本の剣が———魔剣⁉ そんな情報初めて聞いた。


「……冗談ですよ。お遊びですもんね☆」


 ロザリオは爽やかに笑うと、普通の鉄の剣の方を抜き、リタに向けて構える。


「そう———それで、いい。あとなんか……創王気そうおうき……? とか言うのがロザリオも使えるみたいだから……アリシア王女……様……から教わりながら……来い……!」


 な、何言ってんだ———⁉

 そんな———一から十まで全部正直にいう奴があるか⁉


「「————はぁ?」」


 案の定、ロザリオとアリシアは顔を見合わせて、疑問の声を出した。

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