第49話 藪の中
俺とルーナは班を離脱し、モンスターハント大会の運営、その裏方に回るとロザリオとアリシアには伝えてある。
実質、アリシアとロザリオの二人きりで『黄昏の森』というモンスターが蔓延る森を進むことになる。だが、それはいい事だ。
この世界は『紺碧のロザリオ』というロザリオを主人公とした世界で、俺、シリウス・オセロットはあくまでその世界のわき役、ロザリオの前に立ちふさがる悪役貴族なのだ。
アリシアはその世界のメインヒロインで、ロザリオと添い遂げるべき存在。
彼女と俺の仲は深めてはいけない。
だから、こうやって二人きりで協力して森の中を進むと言うのは、本来仲良くなるべき二人の仲が深まる、良いイベントなのだ。
「最初からこうしておけばよかったな……」
「あの、お兄様……」
「なんだ?」
「あの、この、葉のついた枝を持ってお二人の後をつけるのは……流石にらしくないかと……」
俺とルーナは、両手に葉っぱのついた枝を持ち、草葉の陰からこそこそと二人の後をつけて見守っていた。
そのマヌケな姿に流石のルーナもチクリと一言言ってくる。
「仕方があるまい。こうしておかねばロザリオとアリシアが何かあった時に対応できないのだから」
「
「あれは喋ることができず、細かい立ち回りができんだろう。それに……視覚を俺と共有することもできないしな」
この世界には監視カメラがない。当然のことだが。
だから、ロザリオとアリシアが何かあった場合、遠く離れていては俺は把握することができない。確かに、
ルーナには一応、この大会はアリシアとロザリオの仲を取り持つためのものだと説明はしているものの、〝どうしてシリウス・オセロットがそこまでしなければいけないのか?〟という理由に関してまでは細かく説明できていない。
そこまでロザリオとアリシアの世話を焼くのは、古代の魔王だったり、最強の魔法生物だったりを倒すためで、それを知る理由は俺が転生している現代人なんだよというのも説明しなければいけなくなりそうで、途中で面倒になった。
だから、ルーナにはただ単に「面白そうだから」という理由で伝え、ピンと来てないルーナはあまり乗り気ではなさそうだった。
いざとなれば、俺が直接介入しなければいけない。
「だが、はてさてこれからどうするか……アリシア、そしてロザリオも
ロザリオにアリシアを守る
「はい……恐らくですが……私たちのキャンプ地近くに配備させていた
「そうか……」
ルーナも昨日の夜、何があったのかは正確には把握していない。だが、状況証拠だけで何となくアリシアが危機に陥り、それを
「ならば、
やはり、第三チェックポイントにいるヴェノム・スネークに期待するしかないか。
魔物との戦いで、ロザリオに
確実性がない。
どうしたものかと頭を捻らせていると、ロザリオとアリシアの会話が耳に入ってきた。
「……昨日は悪かったな」
髪の毛をいじりながら、アリシアがそう切り出した。
昨日……ああ、ルーナの話によるとアリシアのテントは何者かに襲撃され、その後、
……待て、俺の知らないところでかなりいいイベントを発生させていたんじゃないか?
「いいえ、大丈夫ですよ。仕方がないですよ……男の人に襲われかけたんですから」
そう微笑みかけるロザリオ。
襲われた……⁉
不穏なワードが出てきて更に俺は耳を澄ませる。
ロザリオとアリシアの、どこか気まずそうな会話は続く。
「情けないところを見せた。君の胸で泣いてしまうなんて……その、悪いんだけど、あの時のことは師匠には言わないでくれ……!」
「それは別にいいですけど……どうして?」
「その……知られたくないんだ……師匠に、師匠以外の男の胸の中で泣いたなんて……そんな……それこそ
「会長は別に気にしないと思いますけどね」
「ボクが気にするんだ! ミハエルに襲われかけたことすら、彼には知られたくないんだ……ロザリオ、約束してくれ! 昨日起きたことは誰にも言わないって。ミハエルはボクを襲おうとなんてしていないし、ロザリオにすがって泣きもしなかった。そういうことにするって約束してくれ!」
「ええ、いいですよ。別に」
しっかり、聞いてしまった。
一番聞いちゃいけない俺が聞いてしまった。
気まずいなぁ……これからアリシアと顔をあわせたら知らないふりをしておかなければいけないのか……。
「なるほど……昨晩の謎が解けましたね。お兄様。ミハエル王子がアリシア王女を襲おうとしたそうですよ……!」
ルーナはなぜか「ふんすっ」と鼻息荒く、興奮した様子を見せるが———俺は、なんだかモヤッとした……。
「…………つまらん謎だったな」
ルーナへの返答もそぞろになる。
何だろう……なぜ、俺はロザリオとアリシアの仲を取り持とうと思っているのに、彼女がロザリオの胸で泣いたと言う事実に対して、もやもやした感情を抱いてしまったのだろう。
「やっほ……何やってるの……?」
「———む? 貴様は……?」
ルーナではない第三者の声が聞こえ、そちらを見る。
ぱっつんヘアーのロリ———『
「リタ。名字はないよ……ただのリタ……だよ」
大斧使いのリタは、俺達の真似をしてか、葉っぱのついた小枝を両手に持ちながら、ロザリオたちを見つめていた。
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