第47話 顔合わせとネタ晴らし
俺とアリシアは沼の畔でひたすらルーナとロザリオの帰りを待っていた。
「こんなじめじめした場所……雰囲気も何もあったもんじゃないな……」
「そうだな……うん?」
アリシアは俺の隣に寄り添い、沼の濁った水を眺めていた。
二人とも小屋の破片を下に敷いてその上に座っている。ちなみに、ミハエルも草むらの中から救出し、破片の上に寝かせていた。大きく腫れた頬が痛むのか、時折「う~ん、う~ん」と唸っている。
「なぁ、師匠。そう思うだろう? もっといい雰囲気だったらいいのになって、君だって思うだろう?」
ただ、二人で並んで待っているだけに雰囲気も何もないだろう。何だか不穏なことを言っているが、アリシアはズズッと尻をこちらに寄せた。
肩と肩が触れ合いそうな距離になっている。
「いつかは綺麗な湖を一緒に眺めていたいな……」
「そうか……」
「誰と? とは聞かないんだな」
「聞いてほしいのか?」
「聞いてほしい」
コツンと頭をアリシアが俺の肩に乗せた。
———何だこれ……?
やっぱりまずいんじゃないか?
アリシアのこの態度……まるで恋人に対するような態度じゃないか。
まずいまずい、アリシアが完全にシリウスルートに入っている。
好感度を稼ぎすぎている……!
彼女を突き放してロザリオルートに入れなければ…………‼
「あのな、アリシア……」
「アリシアじゃない……〝ビッチ〟って呼べって言っただろ……」
そう言って彼女は俺の服の袖をギュッと掴んで、身を更に寄せて来る。
こいつ———完全に男に甘えて、本当にビッチ化していないか?
「あのなぁ……」
アリシアに恥をかかせてしまうと思い、今まで否定はしなかったが、いい加減に「ビッチ」の言葉の意味を教えてやろう———。
そう、思った時だった。
ガサッと草むらがかき分けられ、人が現れる。
「———え?」
ルーナ・オセロットだ。
俺とアリシアの姿を見て目を丸くし、
「おお、帰ってきたか……待ちかね、」
「お、お兄様とアリシア王女殿下は……そういう関係だったのですか⁉」
「え……あ‼」
アリシアを振り解くのを忘れていた。彼女はルーナが姿を現したのにも関わらず、俺の服の袖をつかんで離さない。
「これは違う!」
「……お、あんちゃんと王女様が何だって?」
ガサガサガサ……。
ルーナの背後の草むらがかき分けられて次から次へと人間が現れる。
ゲハルとリタを始めとした『
「ええええええ⁉ 王女とオセロット家のぼっちゃんがああああぁぁぁ‼」
「違う! そうではないと言っているだろう!」
ゲハルは驚いた顔をしていたが、ハッと何かを思い出したようなしぐさをして自分のハゲ頭をペチンと叩いた。
「あ、そうだ! 俺達は脅かし役として襲って二人の仲を取り持つ役だった……! 野郎どもいくぞ!」
ゲハルが他の構成員たちに号令をかけ、
「ヒャッハ——————————————————————————ッッッ‼」
「有り金全部おいていけぇ‼」
「……イイ女……連れてんじゃねぇかよ……にいちゃん……!」
『
「違うと言っているだろう! やめろ! そういうのはいいのだ!」
「はい」
俺が手を振り、止めるように指示すると、あっさりと『
「〝それ〟をやるのは、
アリシアに聞かれてはマズいと、ゲハルに顔を寄せて耳打ちする。
「……アリシアとロザリオの仲を取り持てと言ったはずだが?」
「あ、ああ……そうだった、すまねぇあんちゃん……でも、あんたと王女殿下の方がよっぽどいい雰囲気に見えたんだがな……」
「それは……流れでそうなっただけだ。それよりも、
「脱落者……? あぁ! ミハエル殿下!」
板の上に転がされているミハエルを発見し、ゲハルが心配そうな顔をして駆け寄る。
「何があったんで⁉ 大丈夫ですかい⁉ ミハエル王子⁉ 毒は⁉」
「心配ない。そいつは俺が殴り飛ばして気絶してるだけだ。ただ、これ以上の大会の続行は不可能だろう。すまないがそちらで……盗賊団で回収してくれないか?」
「殴り飛ばした⁉ あんちゃん……そんなことして大丈夫なんかい?」
王子を殴り飛ばしたと聞いて、ゲハルの心配そうな目が今度は俺に向けられる。
「問題ない。気にするな」
「気にするなっつっても……」
ガサッと再び草がかき分けられる。
「あれ……? これどういう状況です?」
ロザリオがやって来た。そして、大所帯になっている俺たちを見て、軽く驚いている表情浮かべる。
「おお、帰ってきたか。ミルカ班は?」
「それは……」
「無事……このルーナめが元のルートに戻して差し上げました」
赤い目をしたルーナが胸を撫でおろしながら答える。
そんなホッとした様子のルーナと違い、ロザリオは気まずそうに腰の黒い剣を握りしめていた。
「そ、そんなことよりも! どうしてゲハルさんたちがここにいるんです⁉ 野盗集団として雇われ……あぁ、そういうことですか……そういう体で雇われて、緊急事態の時は生徒の救助にあたる役……そういうことですね?」
「……理解が速くて助かる」
こちらが説明するまでもなく、ロザリオは『
これで完全に確定した。
ロザリオと『
「ロザリオ……ゲハルさんたちのことを知っているようだが……いい加減どういう関係か聞いてもいいか?」
「あ、あぁ……それは……」
ロザリオは一瞬だけ視線を左右に泳がせた。言い訳を考えているような雰囲気だが、やがては観念したように深い息を吐き、
「……僕も『
観念してそう言った。
「何ィィィィッ⁉」
ロザリオの告白に俺は驚いたが、そう言われたらすべてのことに納得がいった。
ロザリオは俺に助けられた後、しばらく行方をくらましていた。それは彼らの元に言って修行していたと言うわけだ……だったら、俺に教えてくれればいいのにと思うが、俺とロザリオが知り合い何てゲハルさんたちは想いもしなかっただろうから……今となっては後の祭りだ。
「な、なるほどな……」
顔に手をあてる。
いじめられた悔しさをばねにマフィアを頼る……どうして———こうもやることが極端なんだ……。
「まぁいい、全てが腑に落ちた。とにもかくにも、これからのことだ」
互いに全てがバレてしまったが、ここは『黄昏の森』のど真ん中———、
「モンスターハント大会を続行する、第三チェックポイントに向かうぞ!」
そう、宣言した。
「ってもよぉ……王子様はどうするんだよ?」
ミハエルを介抱しながらゲハルが問う。
「ミハエルはもう再起不能だろう。ルーナの治癒魔法で復活させられないこともないが、心が持つまい。いろいろあったからな」
視界の隅で、アリシアが気まずそうに視線を落としていた。
「
「ええ———当然です」
任せてくれと胸を叩くロザリオ。
「うむ、では、各々出立の準備をしろ!」
ロザリオとアリシアが荷物を抱え、ゲハルたち『
いろいろとルートは外れてしまったが———少なくともこの合宿の中で、ロザリオに
それだけは決意して彼を見つめていると、ロザリオはリタと話していた。
「…………しゅうは終わったよ」
「……そう……スッキリした?」
「だいぶ……! だけど、これで終われないよね……」
彼らとは距離があったので、内容は断片的にしか聞き取れなかった。
が———、
「———僕は、正義の味方だからね」
最後にロザリオ言ったこのワードだけはしっかりと聞き取れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます