第25話 前夜———それぞれの夜。
その日の夜———。
オセロット家の屋敷の石室で俺はまた、頭を抱えたくなる事態に直面した。
「———ルーナよ。これはどういうことだ?」
「はぁ……どういうことかと問われましても……」
石室に並ぶ
「貴様は言ったな。造形術は得意だと」
「はい」
「
「はい……問題なくその任は
「任務を全う? これがか————⁉」
立ち並ぶ
血色のいい肌でとても作り物だとは思えない精巧な顔立ち。ルーナの彫刻技術の高さが
黒髪オールバック。そして細マッチョの体の上に真っ白な学ランのような制服を見に纏っている
———それが、五十体ほどいる。
皆———同じ顔。同じ姿。
「コレの何処が————俺の依頼を完了したと言えるのだッッッ⁉」
気持ち悪っ! 何十体もの自分の顔を見るの気持ち悪っ!
「誰が
「お兄様が……」
「
「————ッ!」
ハッとルーナは口に手を当てて何かに気が付いたようだ。
「そうでございました……お兄様に生かしてもらっているルーナにとってお兄様は神も同然も存在……それを人間とするなど、不敬で御座いました……申し訳ありませんお兄様……お怒りはごもっともでございます……どうかこのルーナに罰めを……」
「待て待て待て! そうじゃない‼ 話が脱線している!」
首を深々と下げて土下座をし始めるルーナに対して顔を上げるように言う。
しまったなぁ……もっと依頼は正確に伝えておくべきだった。
精巧な彫刻技術を持つルーナに依頼をすれば、勝手に
「こんなんじゃ……明日のモンスターハント大会で使えないぞ……せっかく生徒たちの中に紛らせて、使おうと思っていたのに……」
元々、
「ルーナ、今からこの
「————ッ! ……
ルーナはショックな様子で、「完成したお兄様の顔に傷をつけるのは心が張り裂けそうになりまするが……」と一筋の涙を流した。
そこまでか……?
なんかルーナからも好感度高いな……。
シリウスは兄であることをいいことに虐待している最低野郎だと言うのに……。
まぁ、このルーナはずっとシリウスに虐待されていて、まともな価値観がまだ養われていない段階だ。ロザリオと会うまではこのような状態なら、やはり彼女もロザリオといずれ引き合わせないとな……。
とりあえずはロザリオとアリシアの仲を取り持つためのモンスターハント大会だ。それに向けて今は全力を出さなければいけない。
「励めよ……」
今から修正するのは大変かもしれないが、やってもらわなくてはならなない。量産型シリウス・オセロットをモンスターハント大会で導入すれば、流石に
「はい……」
ルーナに声をかけて、石室を出ようと歩を進める。
ここで優しくなっちゃいけない。
他の生徒にヘイトを買う必要はないとは思うが、ルーナからはヘイトを買わなければいけない。彼女のシリウス至上主義の価値観は異常だ。流石にそれは正さないと。
だが———彼女の沈んだ声が、妙に心に刺さった。
「……………」
◆
ルーナとシリウスが石室で
聖ブライトナイツ学園本校舎の西側に普段寮住まいの学生が寝泊まりする学生寮がある。ブライトナイツ学園が元々このテトラ領を治めていた王族の城を改築したものであり、西の学生寮はその中の砦を改築したものである。
二つの対になっている塔がそびえ立つ砦。男子寮と女子寮とで別れており、それを結ぶ小さな小道が存在する。
月明かりに照らされたその道を、一人の少年が歩いていた。
「ふぅ……女の子たちのパーティに参加してたらすっかり遅くなっちまったな」
バサラ・モンターノだ。
人気者である彼は生徒たちから引っ張りだこで、中々解放されず、こんな夜遅くまで拘束されてしまっていた。
「あいつらと会うのも、もうすぐ終わりか……」
明日はモンスターハント大会。そこで優勝して、オセロット家から軍資金を貰い、バサラはロザリオと共に武者修行の旅に出る。そうなるとさっきまで会っていた自分を慕う女生徒たちの顔は見納めとなり、それは寂しを寂しく思っていたところ……、
ゴォ~ンッ……!
金属音。
「———ん?」
バサラの足元に巨大な〝盾〟が投げ捨てられていた。
グワングワンと回転し、やがては勢いを失くして制止する。
「これは———俺の〝盾〟じゃねえか……⁉」
寮の自分の部屋に置きっぱなしだった、バサラの象徴ともいえる巨大な盾。それがなぜか突然目の前に振って表れた。
「———ツカエ」
ひどく不快なくぐもった声が聞こえた。
「……誰だ?」
正面に人影が見える。
ゆっくりと自らの武器を拾いあげながら、バサラはその人影を注視する。
やがてその人影に月明かりが照らされ、何者なのかがわかる———と思ったが、
「な———⁉」
人影は———
屹立する黒影———そうとしか例えようのない姿をしていた。
全身黒ずくめでのっぺりとしたフォルム。人影がそのまま地面から立ち上がり、立体的に肉付けをされたような———
「———ヒロエ。ソシテ、カマエロ。ゼンリョクデコイ」
〝黒影〟は手に———これまた奇妙で真っ黒な棒を持っていた。大人の上半身ほどはある長さと、太さは太腿ほどの———棍棒だ。
六角形のきっちりした形状でスマートなもの。だが、鈍器を好むゴブリンやオーガが好んで使っているそれと用途は同じものだ。
「お前は一体、誰なんだ? いやそもそも人間なのか? 魔族なのか? それとも魔物なのか?」
大人顔負けの数の討伐クエストをこなしてきたバサラさえ、今———対峙している存在が何なのか、想像もつかなかった。
「———オレガダレデアルノカ……ソレハドウデモイイ、シルベキナノハ、オレガオマエノ———テキデアル。ソレダケダッ‼」
〝黒影〟が棍棒を振り上げて駆け出す。
「馬鹿が! 俺がこの学園最強の‶守護騎士〟だと知って挑んできているのか⁉」
バサラは盾を構え、
「———
どんな存在をも阻む、かつて破られたことのない障壁魔法を展開する。盾に魔力が宿り、緑色に輝き、薄いが絶対的な高度を誇る円形のバリアが盾から放射状に広がる。
あのサファイアドラゴンですら一切攻撃を通すことができなかった、バサラの得意魔法———、
パリィィィィィンッ!
「な————⁉」
障壁魔法ごと、盾が———破壊された。
あっさりと、‶黒影〟の棍棒に寄って、朽ちている木のように、たやすく破砕されてしまった。バサラの自慢の盾が、鉄の破片と化していく。
「————モウ、オワリカ?」
武器を失ったバサラに向けて、黒づくめは棍棒を振り上げて問いかけた。
「な、なめるなああああああああああああああ‼」
バサラは拳を握り、‶黒影〟に殴りかかっていく。
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