第6話 父——ギガルト・オセロット
「ふぅ……」
日が沈み、俺は自室で一息ついた。
「つ、疲れた……悪役貴族として
シリウスというのは大変傲慢な人物でとりあえず偉そうに振舞う。その偉そうな言葉を考えるのがまず大変で何か一言喋るだけで脳を使う。
「もっと……態度をマイルドにした方がいいのかなぁ……ってなると恨みを買わなくなって、ロザリオの覚醒イベントに辿り着かないし……」
この世界の厄介なところは、ロザリオに強くなってもらわなければいけないということ。
今は気弱で貧弱なロザリオが、この国の王になるほど強くならなければ、いずれ来るラスボスを倒せない。
そのためには逆境が必要で、そのためには敵が必要だ。
その敵の
「まぁ、何かあったら修正してけばいいか………次のイベントは確か、ミハエルとの決闘だけど、結構時間がかかるよな……」
ミハエル・エム・プロテスルカ。プロテスルカ帝国の皇子でアリシアの婚約者。だが、彼女を隷属させたいヘンタイクソ野郎……だったと思う。
今後のシナリオ展開は、いじめられて泣いているロザリオとアリシアが偶然出会い、「男のくせに泣いているなんて情けない!」とロザリオを一喝し、アリシアがロザリオを鍛えようとする。そこで王家のみが使える肉体強化魔法をロザリオに見せつけ「似たようなことを庶民でもできるだろ」とアリシアは無茶ぶりする。だが、使えないと思っていたその王家専用のの強化魔法をロザリオが使い、アリシアは彼に一目置くようになる。
その後、アリシアはロザリオに対してことあるごとに話しかけに行くのだが、ミハエルはそれを面白いと思わず、アリシアを誘拐。監禁する。
ロザリオはアリシアを助けるために勇気を振り絞り、ミハエルに決闘を挑む。そんな話だったはずだ。
そして、そうなるまでにロザリオとアリシアが出会ってから一ヶ月の時間が経過する。
そこそこ、長い……。
「確か、シリウスって……その展開上、ミハエルの命令でアリシアを
と、今後の展開を確認していると、トントントンと部屋の扉がノックされる。
「入るぞ」
重厚で重みのある男の声だった。
そして部屋の中に入ってきたのは、
「え~っと……父上……でよろしんですよね?」
知らない顔だった。
だが、この状況……どう考えてもシリウスの父親だろう。
「何を馬鹿なことを言っているシリウス。この父、ギガルト・オセロットの顔を見忘れたか?」
偉そうに鼻を鳴らす、シリウスの父・オセロット家の当主、ギガルト・オセロット。
「い、いえ……失礼しました」
立ち上がり
俺は現実世界で『紺碧のロザリオ』をクリア済みであるが、こいつの顔を見るのはこれが初めてだった。なんせ原作ゲームが女の子を攻略するのが目的のギャルゲーだ。おっさんの登場人物なんかどうでもよく、立ち絵が用意されていない。テキストと声だけでしか表現されていなかった男の顔を初めて見ているのだ。見忘れたもくそもない。
「それで、何の御用でしょう?」
「プロテスルカ帝国から苦情が来ている。思ったよりミハエル皇子とアリシア王女の仲が深まっていないと……今週など、ミハエル皇子は一目もアリシア王女に会えなかったと言う話だ。それでシリウス。どうなっているのだ?」
「は?」
いや……どうなっているって聞かれても……。
「それは、アリシア王女は政略結婚を望んでいないのでありましょう、なら時間がかかるのは仕方がないのでは?」
「何を言っている! そうではないだろう!」
何を言っているはこっちが言いたいが、ギガルトは怒った顔で手に持っているクリスタルを俺の眼前に突き出す。
「この婚約の仲人を我がオセロット家が勤めれば、プロテスルカ帝国から大量の魔法石が流れ出る! そういう計画になっている! 私が進める魔法石を用いた
青色のクリスタル―――魔法石を突き出すギガルト。
そうか、だからか。
ギガルトはこのテトラ地方の領主で人間の命令通りに動く魔法のロボット、
「ふむ……」
「何がふむ、だ! ミハエル皇子はアリシア王女に避けられ、アリシア王女は下級貴族の娘とばかり行動を共にしておるそうではないか! シリウス! アリシア王女は王女とはいえ所詮は女。他家に嫁ぐことでしか役に立たん存在だ」
なんつう中世的な考え……そっか、ここは中世ファンタジーの世界だった。
現代でそんなことを言ったら一発でジェンダー軽視と総バッシングを受けるが、この世界ではまだ女性の立場が低く、そもそも平等なんて考え方がない。
特に家族や仲間、全て利用して成り上がってきたギガルトのような男は、女性を道具としか思っていない。
「いいか、シリウス。これは国王の
野望に満ち溢れているなこのオッサン……。
俺がシリウスじゃなかったら殺したいところだが、ギガルトの命令は間違いなくロザリオの覚醒の
だから……、
「了解しました。父上。では具体的にはどのようなことをすればいいので?」
「俺が知るか! 貴様が考えろ! 貴様は考えない犬か⁉」
この口調……本当にシリウスの父親なのだと実感する。
「ふむ……承知いたしました父上。では私なりにミハエル皇子とアリシア王女の間を取り持つ仲人をさせていただきます。そのためには多少、学園には目をつぶっていただきたいことや、一生徒の範疇を超える権限を与えていただきたいのですが。構いませんか?」
「構わん。なんのためにお前を生徒会長にしたと思っている。こういう時のためだろうが」
つまらないことを聞くなとギガルトは鼻を鳴らした。
「とにかく、今後プロテスルカ帝国の心象を損ねるような真似はするな! ミハエル皇子に従っておればよいのだ。そのためなら多少の無理は俺がもみ消してやる! いいな!」
念を押して、ギガルトは退室する。
バタンと音を立てて閉められるドア。
「言質……いただきました」
だったら……やりたいようにやらせてもらおう。俺なりのやり方で。
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