第18話【ねえwww】同級生の女子に暗殺されそう( ̄∀ ̄)【聞いて聞いてwww】後編1

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二度目のドラゴン襲撃事件から三日後。

授業が再開された。

しかし、ユートはその日、全ての授業をサボった。

そして、無駄に本気を出して自分を殺そうとしている女子生徒を観察することにした。

もちろん、実況も忘れない。

というか、実況がメインである。

何故なら、その方が楽しいと思ったからだわ。


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1:魔眼保持者

そんなわけでー

俺を殺そうとしてきた女の子を、隠れて観察するよ!

なお、授業はサボった(๑•̀⌄ー́๑)b


2:名無しの冒険者

ちょwww待てwww


3:名無しの冒険者

それ、ストーキング行為www


4:名無しの冒険者

なにがお前をそうさせたwww

つーかwww授業wサボるなwww


5:魔眼保持者

いやさ、学園内でドラゴン出たじゃん?

結局、警察や学園側は真相に至っていないわけよ

ドラゴンに変身した生徒は、結局行方不明のままだし

まぁ、そんなこんなでこの二日間ほど授業は休みでさ

三日目の今日、ようやく再開となったわけ


6:魔眼保持者

でさ、わからないことばかりだし

負の感情を吸い上げる指環についても、ちゃんと魔眼で視ておきたかったんだ

そうなってくると、授業中はダメだ

女子生徒との距離が近い上、他の生徒もいるからバレちまう


7:名無しの冒険者

もうバレちまった方が、話早いだろ


8:魔眼保持者

>>7

だがしかし、趣味が続けられなくなる

それは困る


9:魔眼保持者

それに、俺がスネークとして、また、実況者としてどれくらい練度が上がったか

確認するいい機会だからな!!

(*・ω・*)wkwk


10:名無しの冒険者

自分を殺しにかかってきた奴で、練度確認すなwww


11:魔眼保持者

いやいや、これは自分が殺されないための準備だよ

わからないこと多いしな


12:名無しの冒険者

あー、変身のこととか


13:名無しの冒険者

人間が他の生物に変身する魔法って

たしか、禁呪扱いになってなかったっけ??

ほら、魔力をえげつなく消費する上に、めちゃくちゃ扱いが難しいし

習得するにも、何十年と修行しなきゃいけなかったはず

あ、だから、前スレで皆ザワザワしてたのか


14:名無しの冒険者

つーか元々、スレ主は、

研究施設→特殊訓練施設→暗部

って来てるから、スネークの練度としてはカンストしてるんだよな

だから、わざわざ確認する必要ってないというか

ただの口実というか


15:名無しの冒険者

わからないって言えば

なんで、ダンジョンで奈落に突き落とした奴の生存確認して、わざわざちゃんと殺してたんだろうな?

よほど運良くない限り、助かりっこないだろうに


16:名無しの冒険者

まぁ、普通は生きてても大怪我→失血死とかになるだろうしな


17:名無しの冒険者

特定班か、考察厨兼迷探偵が来てくれれば答えてくれそうだけど


18:名無しの冒険者

というか、今回の件ってやっぱり魔族が関わってるってことでいいんだよな?

ダンジョンで襲撃してきたの魔族だったんだろ?スレ主??


■■■


「あ、そのことも書いておくか」


ユートは、スレ民の質問を受けて現状わかっていること。

考察厨兼迷探偵や特定班には伝えてあることを、改めてスレに書き込んだ。

続々と反応が来るが、それらのチェックはいったん後回しにする。

ユートは、視線を向かいの棟へ向けた。

彼が今いるのは、図書室などがある別棟だ。

その別棟の屋上から、向かいにある普通棟――通常の授業で使っている一年から三年生の教室がある棟を見た。

今の時間は歴史の授業だ。

魔眼を使い、教室の中を見通す。

イーリスが、チラチラとユートの席を見ている。

そんなイーリスの姿を、羨望の眼差しで見つめる者がいた。

あの女子生徒である。


「恋でもしてんのかねぇ」


そんな表情なのだ。

しかし、それがユートを殺そうとしている動機ならひとまず納得出来る。

恋や愛は人を狂わせるもの、といつかどこかで読んだ気がする。


「いや、教わったんだったか」


とにかく、そういった感情が絡むと人は人を殺せてしまうのだ。

庶民だから気に食わない。

たしかにそれもあったのだろう。

学園の中でも憧れの存在であるイーリスと、低辺なユートが言葉を交わすことが許せない。

そんな嫉妬の感情も、たしかに女子生徒の頭の中を読んだ時に受け取れた。

でも、さらに奥にある感情までは魔眼でも中々読み取れないのである。

あくまで、ユートが魔眼で視ることが出来るのは表面的なものだ。

当人に恋をしてる自覚が無いのなら、それは別の感情に置きかわる。

それが、今回は【庶民のくせに許せない】という怒りだったわけだ。

しかし、この根本にあるのがイーリスへの恋心だとなれば、対処が少々変わってくる。

念の為に、ユートはこの距離で女子生徒の頭の中を読んでみた。

読み取れたのは、やはり恋愛感情であった。

今日はユートがいないので、ことさら女子生徒の機嫌が良かったらしい。

怒りなどの感情に邪魔されず、彼女の素直な想いを視ることができた。


「…………」


クラス替えを上層部に申請した方がいいかもしれない。

案外、そういうことでこの件はなんとかなりそうだった。

しかし、そしたらなんでそんなことを言うのか、と問い詰められるだろう。

そんなことになったら、魔眼を私用目的で使ったことまで話さなくてはならなくなる。


「うん、大人しくしてよ」


当面、イーリスを避けるのがいいだろうと結論にいたった。

それはそれとして、ユートはさらに女子生徒をよく観察した。

そして、見つけた。

彼女の指に嵌められた、細く真っ黒な指輪。


「アレか」


それを鑑定する。

どうやら魔道具であることは間違いない。

そして、人の負の感情を魔力に変換する機能もちゃんとあるようだった。

そうなってくると、さらに疑問が出てくる。

ドラゴンに姿を変えた子も、そしてあの女子生徒も、どこであの指輪を手に入れたのか、ということだ。

とりあえず、今日はまだはじまったばかりだ。

もう少し観察を続ける必要があるだろう。

いったん、ユートは教室から目を離す。

魔眼も一旦、使用をやめた。

携帯端末を見る。

そして、スレ民からの質問に答え始めた。


■■■


70:魔眼保持者

とりあえず、この時間の授業は座学だし

見た感じ、女子生徒が変な気を起こす感じもしないから

質問に答える


71:名無しの冒険者

お、そうか


72:名無しの冒険者

書き込まなくなったから

てっきりサボりがバレたのかと思ったぞ


73:魔眼保持者

んじゃ、さくさく答えてくぞ

>>18

>今回の件ってやっぱり魔族が関わってるってことでいいんだよな?


これなー

うん、そのはずだ

そうでなければ、魔族の、それも旧魔王軍のやつがわざわざ暗躍してたりしないと思う


>>20

>襲撃者、指名手配犯だったん??

これは、ニュースになったから知ってる奴の方が多いとは思うが、一応書いとく

そうらしい

俺が倒したけど、表向きは英雄ヴィンセントが、俺を助けに来た時に倒したってことにした

逃走中にダンジョンに逃げ込んで、そこで偶然落ちてきた俺と遭遇

顔を見られたこともあって、俺を殺そうとしてたってことにした


>>25

>指名手配犯の懸賞金はこの場合、誰が貰うん??

俺と底辺冒険者で山分けした

俺はいらなかったんだけど、さすがに全額は受け取れないってことでさ

上層部への報告書がめんどかった

上手い具合に言い訳書いて提出したけど


>>45

>つまり、今回の件は旧魔王軍の残党がウィスティリアに来てよからぬ事を色々やってるってこと?

まぁ、そういうことなんだろうな


74:魔眼保持者

さて、こんなところかな

他になんか聞きたいことあるか?


75:名無しの冒険者

聞きたいことっていうか

謎が多いな、とは思った

現状、なんで旧魔王軍の残党が人間の国で

さらにその子供を使ってこんなことやってんだろうな?


76:名無しの冒険者

>>75

(・ω・`*)ネー

なんか実験みたい


77:考察厨兼迷探偵

>>76

あ、やっぱりそう思うか


78:名無しの冒険者

あ、考察厨兼迷探偵だ


79:名無しの冒険者

やっぱりってことは

考察厨兼迷探偵もそう考えてるのか?


80:考察厨兼迷探偵

まぁなー

魔眼保持者からの話を聞く限り

俺の妄想も入るけど、なんとなく魔道具の【指輪】の実験っぽいもん

それも、すぐには解析や解除をされにくい新しい魔法技術の可能性高いし


81:名無しの冒険者

>>80

そうなん?


82:魔眼保持者

>>81

俺がドラゴンの変身解こうとしたけどダメだったしな

見たことの無い術式が施されてた

新しく開発されたものって考えた方がいいな


83:名無しの冒険者

なんで新しく開発されたってわかるの?


84:魔眼保持者

魔法の構成ってのは、国によって結構違うんだ

魔法陣だけでよかったり

呪文だけでよかったり

もしくは、その両方を使ったり

あるいは無詠唱だったり


で、これは術式を解析するとわかるんだけど

その国独自の癖みたいなものが、術式に反映されてる

今回の件は魔族が関わってる

つーことは、指輪も魔族側がよく使う術式構成になってなきゃおかしい

でも、俺は解析が上手くできなかった

さまざまな術式をハイブリッドさせて作った新しい術式だったんだと思う


85:名無しの冒険者

なるほど


86:魔眼保持者

だから女子生徒の観察ってよりは

女子生徒が持ってる指輪の観察ってのが正確かな


87:魔眼保持者

幸いというべきか

今日は、俺が授業出てないから

女子生徒の機嫌良いみたいだし


88:名無しの冒険者

でも、そんな物騒なもん持ってるのはな

今は良くても、明日から魔眼保持者が登校したら

また使うんじゃね?

ドラゴンの子の件もあるし


89:考察厨兼迷探偵

個人的には数日に渡って様子見した方がいいと思う


90:魔眼保持者

>>89

なんで?


91:考察厨兼迷探偵

たった一日でなにがわかるのかって話だ

いいか?

指輪を手にした時点で、その女子生徒は魔眼保持者を殺すってことが、日常の選択肢に組み込まれたわけだ

今は、魔眼保持者のみが標的になっているからいいけど


92:魔眼保持者

>>91

>今は、魔眼保持者のみが標的になっているからいいけど

良くねーよ

俺をなんだと思ってるんだ


93:考察厨兼迷探偵

まだ魔眼保持者なら、自分の身に降かかる火の粉を払えるだろって話だ

でも、魔眼保持者が消えたあと

ほかの生徒が標的にならない、なんて言えないだろ


94:名無しの冒険者

???


95:名無しの冒険者

どゆこと?


96:底辺冒険者

つまり考察厨兼迷探偵氏は、

その女子生徒の中に加わった選択肢は

さらに拡大解釈されて、ほかの生徒へ牙を剥くことになりかねない、と言いたいでござるよ


97:名無しの冒険者

ごめん、もう少しわかりやすく


98:特定班

イジメてた相手が逃げて居なくなったら

別の人がその標的になるってこったろ


99:特定班

たとえば、今回の件の場合は

魔眼保持者が、憧れの的である同級生と仲良くしてるのが気に食わないってことで起きてるよな?

じゃあ、ここで魔眼保持者が消えたとする

一時はその成果に満足するだろう

でも、また別に、魔眼保持者ほどじゃなくても

女子生徒より身分の低い生徒が、同級生と仲良くなったとする

その時、その新しい友人候補に対して指輪をつかわない

暗殺しようと思わない、なんて言えるか?

俺は言えないと思う


100:特定班

だって、現に今日魔眼保持者は授業を休んでる

これ、向こうからしたら

暗殺こそ失敗したけど、傷つけることはできた

魔眼保持者を目の前から消すことが出来た

っていう成功体験になっちゃってるんだわ


人間、悪いことでも良いことでも

一度成功体験しちゃうと、また次もやっちゃう生き物だからな


101:考察厨兼迷探偵

俺も特定班と同意見だ


■■■


特定班と考察厨兼迷探偵の書き込みを読んで、ユートは困った顔になった。


「サボるのは、早まったかもなぁ」


しかし、もうサボっている。

女子生徒に成功体験を与えてしまったわけだ。

しかし、これで今日出席していたら、それは失敗の体験を与えてしまうことになっていただろう。

この学園に通う生徒は、基本優秀な生徒ばかりだ。

挫折や苦難もそれなりに経験してきただろうとも考えられる。

でも、それは自分たちより高位の者から与えられるものばかりだったはずだ。

だからこそ、下にいるはずの、劣っているはずの存在が同列かそれ以上の存在として扱われることを、忌避しているようにも感じられる。

そうでなければ、人は哀れみという見下しをする存在だからだ。

ユートは、再び魔眼を使用して教室を見た。

授業を受けている、イーリスを見た。

イーリスは親切だ。

基本、誰にでも優しい。

身分が低く劣等生でもあるユートにも、隔てなく接しているように感じられる。

でも、それは無意識からくる見下しで無いと誰が言えよう。

自己満足ととってもいいかもしれない。

あるいは、捨て猫や捨て犬を飼うことはないけれど、捨てられてる場所に自己満足で餌をやりに来る子供と一緒だ。

人は、なにかしら自分にとって利益が無ければ動かない生き物だと、ユートは思っていた。

少々ドライというか、ひねくれている考えだという自覚はある。

しかし、ユート自身がそうなのだ。

彼が趣味を続けているのは、自分が楽しいからだ。

その趣味の過程で、たとえば人を助けたり、悪者を倒すことがある。

その時の手柄を他人に譲るのは、謙虚でもなんでもなく、趣味が続けられなくなる可能性が高いからだ。

人は、利己的な生き物だ。

ユートはそれを、他ならない自分自身で実感している。

だからこそ、イーリスの自分に対する行動をそのように受け取ってしまっているのだ。

ユートがイーリスのことを、ガールフレンドとして見ていない理由である。

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