第10話心霊スポット(*・ω・*)wkwk 前編

バスに揺られ、途中の街で一泊する。

こうしたプライベートで外泊するのも、ユートは初めてだった。


「予約無しでも宿って泊まれるのかぁ」


部屋さえ空いていれば、宿に泊まれるということすらユートは知らなかった。

そんな感じで、なにもかも初めてづくしなユートが、財布をスられたり、ぼったくりにあったりしないよう、スレ民が先々で助言した。

その甲斐あってか、ユートは実に有意義な時間を過ごすことが出来た。

とくに、宿での食べ放題プランなるものを体験してから、スレにそればかり書き込んで、スレッドを終わらせてしまうくらいには、楽しんだようだ。

アトラクションの方の城には、その宿の近くからバスが出ていた。

そのため、夜の食べ放題に続いて朝の食べ放題を堪能してからチェックアウトし、そのバスへと飛び乗った。

道中で、ウェブ記事更新のお知らせが届く。

暇つぶしに、その記事を読んでみた。

なんでも、墓荒らしが出たとかいう記事だった。

しかも、この近くで。

埋葬品の宝石などが盗まれたらしい。


「罰当たりだなぁ」


死者より生者の方が怖い、いい例だろう。

目的地に着くと、アトラクションの実況と、屋台の買い食い実況をして楽しんだ。

気づくと、日が落ち始めていた。

地図アプリに従って、徒歩で目的の場所へ向かう。

噂では、その道中でも怪異が出るという事だったからだ。

道は整備されていた。

なんなら、跡地までの案内図まで設置されている。

それらを確認しつつ進んでいると、他にも肝試し目的らしい一行が先を歩いている。


同年代か、少し上くらいの年齢の男女二名ずつの一行だった。

ユートは携帯端末を取り出し、新しく掲示板を建て、書き込みを開始した。


■■■


心霊スポット(*・ω・*)wkwk


1:魔眼保持者

もうすぐ目的地だから、新しくスレ立てた

あと、俺の他にも跡地に行く連中がいるっぽい

年齢は、俺と同じか少し上くらい


2:本当にあった怖い名無し

スレ建て乙


3:本当にあった怖い名無し

マジか


4:本当にあった怖い名無し

肝試しかな?


5:本当にあった怖い名無し

明日も平日だし、地元民かな


6:本当にあった怖い名無し

オカ板のスレ民か

もしくは、動画投稿者かもなぁ

うP主ってやつ


7:本当にあった怖い名無し

そういや、うP主って言葉も最近あんま聞かないよなぁ


8:魔眼保持者

んー、なんかチラチラ見られてる


9:本当にあった怖い名無し

ボッチ

心霊スポット

この二点が揃ってるから、自殺を疑われてる説


10:本当にあった怖い名無し

あー、心霊スポットと自殺の名所ってセットだったりするもんなぁ

場所によるけど

崖はだいたい自殺の名所


11:本当にあった怖い名無し

>>10

絶景を売りにしてる観光名所に謝れ


12:本当にあった怖い名無し

推理ドラマで、犯人が自白する場所もだいたい崖


13:本当にあった怖い名無し

崖っぷちにでも立たないと、秘密なんて打ち明けられないだろ


■■■


スレが何故か推理ドラマあるあるで盛り上がり始めた。

ユートはそれを読みながら、


(そういえば、ドラマも見たこと無かったなぁ)


今では動画サイトで配信もされているらしいので、今度見てみようかなと考える。

そんなユートに、先を歩いていた男女のグループが声を掛けてきた。


「こんばんは」


声を掛けてきたのは、グループのリーダーらしき少年だった。


「あ、どうも」


ユートも軽く返す。


「君も【慟哭の城】の跡地に行くの?」


「え、あ、はい」


【慟哭の城】というのは、ティリンドム城の別名である。

幽霊の嘆き悲しむ声が聞こえるとかなんとか。

そこからついた名称だった。


「ひとり?

どこから来たの??」


「えぇ、王都から来ました。

学校が休みで、小旅行をしてみたくて」


ユートは嘘ではない答えを返す。


「学生が一人旅?」


男女達は、怪訝そうに首を傾げた。

ユートは自信満々に返す。


「えぇ!楽しいですよ。

あ、自己紹介します?

俺は、ユートって言います。

王都の高校に通ってます。一年生です」


ユートの自己紹介に、男女グループの面々もそれぞれ名前を名乗ってくれた。


「俺は、フェン」


リーダーらしき少年の名前は、フェンというらしい。


「そっちのもう一人の男がククル。

で、女子の紹介だが。

茶髪の子がウリア。黒髪の子がルル」


「よろしく」


「はじめまして」


ウリアとルルがそれぞれ挨拶をしてくる。

勝ち気で気さくな方がウリアで、気弱で丁寧な物腰の方がルルだ。


「こちらこそ、よろしく」


ユートも二人に頭を下げた。


「旅は道連れって言うし、どうだ?

ユートも俺たちと一緒に、城の跡地まで行かないか?」


フェンがそう提案してきた。

他の面々も、とくに嫌がったりはしていないようにみえる。


「ええ、是非」


ユートは言葉に甘えることにした。

手早く、掲示板にこのことを書き込む。

すぐに反応があった。


■■■


38:本当にあった怖い名無し

その4人が怪異、幽霊の可能性


39:本当にあった怖い名無し

大丈夫?

お化けとかじゃないの?


40:考察厨兼迷探偵

学生、もしくは魔眼保持者が書き込んだ容姿の幽霊が出る

なんて話は無いから、普通に生きてる人間だと思うけど


41:本当にあった怖い名無し

その4人の画像貼りつけろ

神官の知り合いにみてもらうから


42:考察厨兼迷探偵

しかし、この四人がここにいる目的が気になるな

ダブルデートかね


43:魔眼保持者

たしかに

ちょっと聞いてみる



■■■


「え、俺たち四人がここに来た理由?」


フェンが聞き返してきた。

答えたのは、ククルだった。


「送別会だよ」


「送別会?」


「そう、ルルの送別会。

今度、王都の学校に転校するんだ」


「転校……。ということは四人は、高校生?」


ユートの疑問に、勝ち気そうな少女ウリアが答えた。


「うん、君と同じ高校一年生。

で、生まれた時から一緒の仲良し四人組。

幼なじみなんだ、ウチら」


「へぇ」


そういった人間関係があるのは知っていたが、目にするのはこれが初めてだ。

もしかしたら、学園の生徒同士でもそういった関係の者達はいるのかもしれないが、ユートは他の生徒から嫌われているので確かめようがない。


「変だろ?」


笑いながらククルが言った。

なんのことか分からずに、ユートは首を傾げる。


「普通、送別会って言ったらカラオケとかゲーセン巡りとか、ファミレスでご飯とかそういうのだろ?」


「あ、なるほど、たしかに」


「でも、俺たちは昔からこうやって冒険ごっこをしててさ。

まぁ、その延長で肝試ししようって話になったんだ。

最後の思い出作りってやつな」


ククルはルルを見た。

ルルは柔らかく微笑んでいる。


「この跡地には、昔からよく来てたんです」


ルルはユートへ説明した。


「お化け探しと称して、頻繁に来てました。

あっちの、アトラクションの方とは違って、入場にお金が掛かりませんしね」


「なるほど、てっきりそういう場所に行って動画とか撮ってサイトに投稿する人達かと思ってました」


ユートの言葉に、場が笑いに包まれる。

彼らもそういった動画はよく見るらしい。

投稿はしていないそうだ。


「テレビよりおもしろいもんな」


フェンが言うと、ククルが頷いた。


「それな、わかるわかる」


続いてウリアが、


「ウチは、ホラーゲームの実況動画よく見てるかなぁ。

実況者の悲鳴とか上がると、すごく笑える」


なんて言う。

なかなか悪趣味な楽しみ方をしているようだ。


「私は怖い話の朗読動画をよく見ています。

おもしろいですよ」


ルルもそんなことを口にした。

和気あいあいと、道を進む。

話の流れで、跡地で幽霊を見たことはあるかと四人に聞いてみた。

返ってきたのは苦笑と、見たことは無いという返事だった。

話を聞いていて、ふとユートは気になったことを聞いてみた。

いや、イタズラ心が働いたと言う方が正確かもしれない。


「君らって都市伝説系も詳しかったりする?」


この質問に反応したのは、ルルだった。


「都市伝説、ですか?」


「そ、二日前の【死の谷デス・バレー】の件知らない?」


「あー、はい知ってます。

なんか色んな陰謀論で、物凄く賑わってますね」


ルルが楽しそうに答えた。

続いてフェンとククルが、


「知ってる知ってる。

あれだろ?

軍の新兵器で超巨大な蟻を駆除したってやつ!」


「うん?

俺は秘密兵器って聞いたけど。

軍は、兵器の使用を否定してるとかなんとか」


なんて言って盛り上がる。

それを見たウリアが、


「男の子って好きだよねぇ、そういうの」


苦笑した。

しかし、何かを思い出したらしく人差し指を顎にあてながら、こんなことを言い出した。


「そういえば、跡地にもあったよね?

都市伝説」


「幽霊話のこと?」


ユートが興味を惹かれ、聞いてみる。

ウリアの答えは、ある意味意外なものだった。


「違う違う。

そういうんじゃなくて、埋蔵金伝説みたいなそういうの」


「あー、あったね。

スコップやシャベル持って、探しに行ったよね。

懐かしい」


ルルが、本当に懐かしそうにそんなことを口にした。


「埋蔵金??」


その話を知らないユートは、首を傾げるばかりだ。

そんなユートにフェンが説明してくれた。

フェンの話によると、今から三百年前のティリンドム城で行われていた拷問行為。

その時に捕虜たちは金目の物をなにもかも奪われてしまった。

塵も積もれば山となる、とはよく言ったもので、そうして没収し城に蓄えられた財宝は莫大なものとなった。

そのほとんどが、文字通り軍資金として消えた。

しかし、一部は城のどこか、敷地内のどこかに埋められていて、今も尚眠っているのではないか、という話があるらしい。


「捕虜、虜囚の中には敵対国の貴族もいたとかで、その貴族から巻き上げた宝石とかも埋められているらしいですよ」


「へぇ、ロマンがあるなぁ」


ルルの説明に、ユートは心の底からそう言った。


「ま、見つかったって話はついぞ聞かないけどな」


ガハハ、とククルが笑う。

釣られて、他の三人も笑った。

ユートも笑った。

そのユートの内心はと言うと、


(魔眼で見たら、もしかして見つけられるかも)


というものだった。

ほどなくして、目的地までたどり着いた。

組み上げられた石の壁がわずかに残っている。

日は沈んだものの、まだ少し明るいから雰囲気はあった。

ほかの四人には気づかれないよう、注意しつつ魔眼で跡地を観察してみる。

幽霊らしきものはいないように見えた。

ただ、陰惨な出来事があった場所特有の暗さみたいなものは視えた。


「…………」


よく観察する。

やがて、ユートの口から、


「……ん??」


そんな声が漏れた。

何か、光る物が見えたのだ。

少し離れたところでは、地元民の四人が昔話に花を咲かせている。

それを確認して、ユートは今見えたものを確認に行く。

そこには、墓石が並んでいた。

だいぶ古い物のようで、彫られていたであろう文字は長い年月で雨風ですり減り読むことは出来なかった。

しかし、それだけでは無かった。

ユートの目に映し出されたのは、青白い火の玉がユラユラと浮かび、飛んでいる光景だった。


吸い寄せられるかのように、ユートは墓の中を、青白い火の玉が飛び交う中を歩く。

周囲から聞こえてくるのは、ユートの草を踏む音、わずかな風が木々を揺らす音。

そして、すすり泣きだった。

慟哭の城、と呼ばれる割には聞こえてきたのはすすり泣きなのである。

その声は、一番奥から聴こえてきた。

やがて、ユートの目の前に声の主らしき女性が現れた。

女性は歴史の教科書で見た事のある古いデザインのドレスを着ている。

一目見て、ユートはそれがこの世ならざる者だと理解出来た。

着ているドレスもそうだが、教室にいる【先輩】と同じ気配だったからだ。


「あの、すみません」


ユートは女性へと声をかけた。

その時、地面に穴があいていたらしくユートはそこへ滑りおちてしまった。

女性が驚いて、強かに臀を打ち付けたユートを見る。


『あなたは?

私が見えるのですか??』


「言葉も交わせますよ」


ユートは臀をさすりつつ立ち上がる。

恭しく、ユートは女性へ頭を下げた。

そして、


「なにか悲しいことでもあったんですか?」


女性へ訊ねる。

女性から泣いていた話を聞く。

全てを聞き終えると、ユートの実況者魂に火がついた。

彼は、墓場の光景を動画に収めると、すぐさま掲示板へと貼り付けた。

念の為、幽霊の女性に許可を取った上で、貼り付けた。


■■■


130:魔眼保持者

美人な幽霊いたー

見てみてー(ノシ 'ω')ノシ バンバン

つ【青白い火の玉が飛び交う墓場の動画】


131:本当にあった怖い名無し

Σ(゜ロ゜」)」


132:本当にあった怖い名無し

待て待て待て、ちょっと待て


133:本当にあった怖い名無し

しばらく書き込まないなと思ったら

この数十分で、お前に何があったんだ!?


134:本当にあった怖い名無し

高校生四人が心霊スポットに来た理由聞いてたんじゃないのかよ?

なんで幽霊とエンカウントしてんだよ(´;д;`)


135:本当にあった怖い名無し

ねぇ、この女性誰??


136:本当にあった怖い名無し

え?


137:本当にあった怖い名無し

女性??


138:本当にあった怖い名無し

青白い火の玉は見えるけど、女性なんて写ってないだろ


139:本当にあった怖い名無し

え、ちょちょちょ、怖い怖い怖い

((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


140:考察厨兼迷探偵

とりま、なにがあった??

+   +

  ∧_∧ ∩ +

 (0゜´∀`)彡  wktk!wktk!

 (0゜∪⊂彡 +

 と__)__) +


141:本当にあった怖い名無し

_人人人人人人人人人_

> 突然の怪異!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


142:魔眼保持者

んー、まぁ、いろいろあったんだ


143:考察厨兼迷探偵

>>142

その色々について、はよ書き込め


  バン   はよ

バン (∩`・ω・) バン はよ

  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/

  ̄ ̄\/___/



■■■


なにやら、考察厨兼迷探偵がノリノリである。

ユートは、女性と遭遇するまでのことを手短に書き込む。

それから、今しがたその女性から聞いた話を書き込んだ。


■■■


163:考察厨兼迷探偵

ふむ、つまり

そのお墓が荒らされて、幽霊の女性の墓から埋葬品が盗まれた、と

それを取り返してほしいと頼まれたわけか


164:本当にあった怖い名無し

幽霊って頼み事できるんだな


165:本当にあった怖い名無し

え、待って

その墓はなんなん??

その女性って誰なのさ?


166:魔眼保持者

見た感じ、貴族だとは思う


167:本当にあった怖い名無し

わかんないなぁ

その城は、元々戦争してた頃の最前線基地で

捕まえた敵国の人間を拷問にかけて情報を吐かせてた場所だろ?

なんでそんな場所に、貴族の墓があるんだ?


168:本当にあった怖い名無し

特定班に聞けばいいんじゃね?


169:本当にあった怖い名無し

だな、こういうのすぐ調べてくれるし


170:本当にあった怖い名無し

おーい、特定班、いるかー??


171:考察厨兼迷探偵

いないか

仕事かもしれないな

まぁ、女性や墓については後回しだ

まずは、墓荒らしについてだな

いつ、どんな物が盗まれたか

魔眼保持者、女性に聞けるか?


172:底辺冒険者

そういえば、今朝のニュースで墓泥棒の記事をみたような??

ちょっと確認してみるでござる


173:魔眼保持者

>>171

聞いてみる

ちょっと待っててくれ

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