第6話 回収作業 part3
僕にはやらなければならないことがあった。
他人からすれば、馬鹿げた目標かもしれない。
でも、やらなければならない。そう自分に言い聞かせて、ここまで来た。
覚悟をもってたどり着いた魔都は、はっきり言って拍子抜けした部分があった。
事前に聞かされていた小型の化け物…通称『ゴブリン』もいなければ、たまに出没する大型の化け物、『オーガ』も出てこなかった。
事前研修で散々脅され、その脅威を説明された化け物たちは、影も形もなかった。
ましてや、そんな化け物どもを蹴散らし、喰らうと聞かされた『頂点捕食者』とうわさされるそれ以上の化け物なんか、存在自体嘘なんじゃないかと思えるくらいに。
毒々しい油に包まれた合金を探し、丁寧にパッケージングして箱に詰めて持ち帰る。これをあと何回か繰り返せば、目標は達成できる。
借金があった。もちろん僕が作ったものじゃない。親だ。
魔都ができてから表向きの治安は良くても、現実問題日常ってものを維持するのはとても難しいもので、僕の父は日常を守るためにいわゆる闇金に手を出した。
そして、魔都の出現で簡単に言ってしまえばすべて吹き飛んだ。
父も、母も、父がどうにかして守ろうとした日常も。妹の心も。
日本国内五番目の魔都。旧釧路。
僕はたまたま部活の遠征で離れていた。
急いで帰った僕を待っていたのは、封鎖区域にあったせいで立ち入ることもできない家と、心が壊れて、あんなに生意気だったのに、4歳くらいに幼児退行した妹だった。
そして、そうなっても闇金の連中は僕らを逃さなかった。
妹を売り飛ばすかとか言いだしたあいつらに、僕は反抗した。
させるものか。絶対に。
期限までに金を作る。そして文句も言わせない。
恐らく提示額は今の借金を超えてくる。
それを黙らせるためには、もっと大きな額が必要だ。
安直な思考かもしれないが、こういう時はシンプルなのが良いと思った。
魔都での仕事で得られる金額はかなり多い。だが、それでも恐らくはぎりぎりだ。
だが、チャンスはあった。
さっき長野さんと話していた『未踏査区域』。
魔都の探索において、未だに発見されていない場所などを見つけると、ボーナスが出る。
そして、そのボーナスはかなりの額だ。
僕には、飛びつかないなんてできなかった。
長野さんに許可を得て、僕と風間さんで未踏査区域の調査に行くことにした。
幸い距離はそこまで離れていないので通信はできそうだったし、見つけた区域へ続く道も、そこまで入り組んでいるわけではなかった。
半ば、ごり押しに近かったが、長野さんは許してくれた。風間さんも何も言わずについてきてくれた。
「無理言ってすいません、風間さん…復帰したばかりなのに」
「いいよ、未踏査地区が見つかれば、僕らにとってはお金が入るし、後から入る人にとっては、危険度を見直す機会になる」
風間さんには少し暗い。以前の探索の際に一緒に組んでいた人が亡くなったと聞いている。そして、風間さん自身も手ひどい傷を負ったとも。
絶対に、成功させて無事に帰らなければならない。
今になって思い返せば、より冷静になるべきだった。
冷静であれば、気づいたのだろう。あたりに漂う奇妙な空気を。
冒険者には配布されている装備がいくつかある。
通信機、状況確認や報告用の情報端末…
端末には、写っていた。
僕と風間さんが向かう先に点滅し続ける動体反応。
つまり、『何かがいる』ということが、これ見よがしに。
「なんだあれ…」
少し複雑な通路の先には、広間のような空間が広がっていた。
そして、その奥にその奇妙な物体は鎮座していた。
最初からそこにあったように、毒々しい岩肌を削り取って形作られている。
「風間さん、あれ、何か知ってますか…風間さん…?」
「あ…あぁ…」
風間さんの様子がおかしいことに気が付いたのは、声をかけてから。
そして、その岩肌を削り取られて作られた何かから、こすれる様な音が聞こえたことに気が付くのは、風間さんの肩に手を当てて、少し揺さぶってから。
僕は、なにをするにも一手遅かった。
「風間さん、どうしたんですか…風間さ」
「巣だ」
「え…?」
Apex Area ~魔都へ挑む冒険者たち~ 久吉 龍 @armoredslayer09
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