第70話 大技の衝突


 決闘を観戦しようと集まった観戦の保護者席に、リオンの姿があった。

 他にも現在の校長先生やノアの担任シノが居たり……ヴィンセントの保護者に当たる人物、フェンもいる。


 偶然にもリオンはフェンの隣に座っていた。それは他人からみれば氷のような空気であったのはいうまでもない。

 お互いに仕えている主が戦っている中、沈黙を破ったのはフェンからだった。


「リオンさん、と言いましたか。お会いするのは二度目ですね」

「あなたはヴィンセント様の従者の方ですよね。フェンという名であったことを覚えております」


 二人の会話は礼儀正しく、されど言葉の裏に何か潜んでいるような怖さがある。

 

「あなたのような方に名前を憶えていただけているとは、光栄です」

「ご謙遜を。帝国でフェンの名前を知らぬ者などいましょうか」

 

 フェンがヴィンセントの次に優秀な人物であることは、帝国での功績が教えてくれている。

 帝国の学園を首席で卒業し、軍の試験も首席、その後皇帝陛下から直属の部下として重用され、のちにヴィンセントの配下となる。


「ヴィンセント様ほどではございません。リオンさん、あなたも弟子があそこまで優秀だと、さぞ誇らしいでしょう」

「そうですね。やや危な気ないところも多くありますが、ノア様は私の誇りです」


 リオンはノアを褒められたことで、少々笑みが零れる。


「フェンさん、ヴィンセント様も優秀な方だと存じますよ」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。ヴィンセント様はとても凄い方なのです。ふふっ」


 それはまるで、自分の子どもを褒め合うような関係に見える。

 

「まぁ……ヴィンセント様には少し自重を覚えて欲しいのですけどね。そういう所はありませんか?」

「そうですね……自重はしなくて構わないのですが、服は着て欲しいですね」


 観戦席から見ていると、ノアが服を脱いだ。

 フェンが唖然とする。


「……服を、脱いだ」

「自分の主人がいきなり服を脱いだら、困るでしょう?」

「……」


 フェンは言葉が浮かばず、脱いだ理由を聞かなかった。

 その代わりに、今思っていることをリオンに言うことにした。


「はっきりと申し上げます。ヴィンセント様はノア様を欲しています」


 強い人材が欲しい、というのはヴィンセントが最も望む所であった。

 リオンは狙いを分かっていたため、驚くことはない。


「しかし、私はそのことを反対しているのです」

「……なぜですか?」

「あなたのノア様は優秀なお方です。ですが、いや……優秀だから、ヴィンセント様を喰う恐れがある」


 組織に輝く星は一つで良い。

 そう言わんばかりの口ぶりで、リオンを見た。

 

「フェンさん、あなたはこの決闘に反対したんですね」

「ええ、あなたもでしょう? リオンさん」

「はい」


 ノアとヴィンセント。

 この二人が衝突するには、少し早いとリオンは思っていた。


 子ども同士の喧嘩といえば可愛げがあるだろう。


 しかし、目の前にいるのは世界最強になりえる二人だ。


 その二人が本気でぶつかった。


 それが大きな成長に繋がるか、果たして才能を壊す事になるか。どちらになるか分からない。


「リオンさん、できればあなたとは戦いたくないものですね」

「ええ、私も同意見です」


 似た者同士、そうであるが故に子のように弟子を想う気持ちをお互いに理解できてしまった。


 *


 帝国は過去、道具によって世界を支配していた。銃、剣、農作業の道具など……様々なものを作っていた。そして、衰退したのちでも武器の開発に勤しんでいた。


 その一つが、銃であった。


 『帝国剣術』とは、剣と銃を兼ね合わせた戦い方である。

 いくつかの剣戟を繰り返したのち、次第に攻撃は激しさを増していった。


 魔力を込めた弾丸を放ち、銃口をノアへ向ける。ヴィンセントは照準の先にいるノアと目が合った。


「帝国式魔法……一弾式」

「ほいっ!」


 銃弾を躱すと、木が何本も貫かれて倒れていく。


(銃って矢より早いな)


 スオが嘴で俺の頭を突いた。


「ノアよ、なぜ躱す? 躱さずともお主の肉体ならダメージは受けんだろう」

「え~」


 ノアはこの攻撃は当たるべきではないと思っていた。


「たぶん、当たらない方が良いよ。これ」

「なぜだ?」

「弾が正確すぎるんだよ。ヴィンセントの持つ『万物眼+』で、俺の弱点を狙ってるんだと思う」

「何っ!?」


 当たっても問題はないが、それが積み重なるとここぞという場面で体が動かなくなる。


 木の裏に隠れて、どこを狙えばいいか分からないように動く。

 しかし……


「隠れても無駄だと分かっているだろう、ノア」


 バンッ! という音と共に、弾が跳弾してくる。


「そんな芸当もできるのか! 凄いな!」


 手数が豊富な銃に、接近戦もできる剣技までヴィンセントは持っている。


 ヴィンセントは深い森の中を見て、少し不満げな顔をした。


「ふむ……また隠れられてしまった。『万物眼』で探すのも良いが……こうしよう」


 剣を地面に突き刺し、銃の弾を変え、カチャカチャと何かをする。

 そうしてリロードのようなものが終わると、ノアがいる大まかな方向へ銃口を向けた。


「弾けろ────プロメテウス」


 それを遠くから観戦していた生徒たちは、一同にして眼を見開いた。


「なんだあの攻撃……!?」

「やばくね……!?」


 バァァァンッ────!! と、激しい爆発音と共に森林が薙ぎ倒されて行く。


 ヴィンセントからの攻撃を躱した後、ノアは土埃の中から魔法を選んだ。


「スオ、魔法をオーバーヒートさせるから補助を頼む」

「魔族使いの荒い奴め……」


 スオの役割とは、ノアの魔法を底上げさせ、爆発的な威力を叩き出すことにあった。


 スオが深く集中する。


 生半可な魔法では、『魔力耐性』を貫通させることは不可能なことを分かっていた。

 ノア単体ではその威力を出すことは難しい。


 筋肉による攻撃であれば違うのであろうが、ヴィンセントは接近戦も得意としている。

 

 むやみに距離を縮めれば、銃や剣による『帝国剣術』の餌食になる可能性が高かった。

 

「魔法で怯ませて、一気に距離を縮める」


 砂埃からノアが飛び出す。


「貴公なら飛び出すと思っていた!」

 

 ヴィンセントはノアの考えを予測していた。そして、出てくる場所も分かっていた。


 それゆえに、銃を構えて待つことができた。


 スオが素っ頓狂な声を漏らした。


「ひょえっ!? なぜバレておる!?」


 銃口はノアに向けられている。


 今から逃げることはできない。

 空中では回避も難しい。


 さきほどの攻撃が今度は直撃コース。


 ノアは思う。


(回避するつもりなんかない)


 ぶわっとノアの体から魔力が溢れ出す。

 ヴィンセントが嬉々として構えた。


「来るか!」

 

 スオによる補助、スオとの同時魔法発動。


「「『虚空魔法』」」

 

 それは、一時的とはいえ膨大な魔力であった。

 そして、『虚空魔法』の威力を上げるだけに留まらず、スキルそのものをさらなる高みへ押し上げるには十分だった。


 まだこの世界において、誰も見たことのない『虚空魔法』の上達。

 一時的な『虚空魔法++』への上昇であった。

 

 そして、ノアはさらに技を重ねた。 


 ────『虚空魔法++』×『岩魔法』。


「虚岩落石」

 



────────────────────

とりあえず、目標にしていた年内までに20万字を更新することができました。

次はちょっとストックが足りていない陰陽師の更新に専念します。


人生の中でも幸運なことに、この筋肉のコミカライズが決定した年でもあり、来年からはより一層と筋肉を世の中に汚染できればうれしいです。

読者の皆様が絶対に楽しめる作品になるよう、私自身も微力ながら努力させて頂いております。


コミカライズ続報は筋肉を洗ってお待ちいただけると嬉しいです。


あとカクヨムでやってる別作をまだ読んでないよ~って人がいたら陰陽師どうぞ。

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