第65話 甘いポーションバケツと友達


 日課のトレーニング。

 それは、他人から見れば地獄のようなトレーニングであった。否、地獄である。


 魔力を大量放出し、一時的な魔力枯渇を起こして疲れ果てている【十二の魔法使い】達に、リオンからバケツいっぱいのポーションが並べられた。


「どうぞ、元気の源です」


 その光景を、俺はいつもの日常だと見ていた。

 だが、その時は違うことがあった。


 これまでポーションバケツを並べられたら、往々にして阿鼻叫喚が始まるはずだったからだ。

 

「うまい……! うまい!」


 その言葉に、俺は驚く。

 美味しいなんて初めて聞いた……ついに味覚が狂ったのだろうか。それともリオン先生の新しい洗脳方法……?


「リオン先生、何かしたの?」

「はい。近頃、魔力タンクが文句ばかり言うので、ポーションに工夫を凝らしてみたんです。薬学から勉強をし直す必要がありましたが、ポーション本来の苦みや臭みを消して、甘くなるよう作ってみました」


 なるほど。

 ポーションを不味いと言って騒がれるよりも、美味しいとご褒美的な感じに思わせようって作戦だろうか。


 リオン先生も彼らにそれなりに気を遣っているらしい。


「それに……いい加減、鬼と呼ばれるのは勘弁して欲しいのです」


 あっ、まだ気にしてたんですか。


「私は鬼ではありませんからね」

「そのことは俺がよく分かってますよ、リオン先生」

「ノア様……」


 リオン先生が感嘆の視線を向けてくれる。

 

 フレイシアが酒をかっくらうように、甘いポーションを飲み干した。


「ぷはぁ~! 甘いのって飲みやすいわね~!」

「ですねフレイシア先輩!」


 フレイシア先生からも好評だ。

 これなら、もう文句も言うこともないだろう。

 

「でも、これならお酒っぽいポーションもいけるんじゃない?」


 フレイシア先生の考えに、【十二の魔法使い】達が反応する。


「「「お酒……!」」」


 思いついたら吉日だ、と言わんばかりにリオン先生へ詰め寄っていく。


「お、お酒……!」

「お酒! お酒!」

「お酒味ポーション!」


 なんだろう、ダメ大人の集団を見ている気がするのは気のせいだろうか。


「却下します。仕事中に酒盛りはいけません」

「けち~!」

「や~い!」

「ぶ~ぶ~!」

「リオンの鬼ぃ~!」

 

 各々からブーイングが飛んで来る。


「では、苦いポーションバケツに戻します」


 フレイシア先生が飛びついて、リオン先生の足元を掴む。


「うわぁ~! 嘘! 嘘だから! これで良いから!」

「嫌です。苦いのに戻します」

「なぁんでよぉ~! ちょっとした思い付きだったんだってば~!」


 うん、良かった。いつもの日常だ。

 そうして俺は休憩中、自身のステータスを確認していた。


 木の下に座りながら、目の前にステータスを表示した。


 ───────────────────

 【ノア・フランシス】 レベル:160 年齢:16 性別:男


 体力 :SS+

 攻撃 :SS

 魔力 :SS

 素早さ:S+

 知能 :筋肉+

 

【スキル】スキル

『鑑定』      Lv Master+(限界突破可能)

『瞬歩』      Lv Master+(限界突破可能)

『気配察知』    Lv Master

『並列思考』    Lv Master

『刀術』      Lv Master

『空間魔法』    Lv Master

『錬金術』     Lv Master

『魔力耐性』    Lv Master

『観察眼』     Lv Master

『コピー』     Lv Master

『身体強化(特殊)』 Lv Master

爆発物ダンベル』    Lv Master

『脱衣』     Lv Master+(限界突破可能)

『虚空魔法』   Lv Master

『虚刀術』    Lv Master

『第六感』    Lv 6


 ───────────────────


 『第六感』以降、あれから新しいスキルは入手できていない。


 俺はずっと、ステータス上に表示されている限界突破可能が気になっていた。


 今のところは三つのスキルのみ表示が出ている。


 限界突破すると、何かあるのかな……。

 でも、やり方が分からないしなぁ……何かしら方法があるのだとは思うが。


 深く考え込んでいると、目の前に誰かの足が見えた。

 気配察知は常に使っている。


 それでもなお、目の前に来るまで存在を気付かなかった。

 思わず顔を上げると、無意識にスキルを使い、相手のステータスが表示してしまった。

 

 ───────────────────

 【ヴィンセント・レ・キルシュタイル】 レベル:? 年齢:16 性別:男


 体力 :S+

 攻撃 :S

 魔力 :S

 素早さ:S

 知能 :?

 

【スキル】スキル

『万物眼+』    限界突破

『帝国剣術』    限界突破

『並列思考』    Lv Master

『空間魔法』    Lv Master

『魔力耐性』    Lv Master

『第六感』     Lv Master


 ───────────────────


 限界突破……限界突破してる!?

 しかもステータスもかなり強い……。


 知能が分からないなんて初めてだな……。


 そいつはどこまでも深みがある白い双眸に、細見でありながら程よい肉付きが、どこぞの騎士を彷彿とさせる。

 それをより際立たせる帝国のような正装と銀髪に目を奪われた。


 ステータスだけでも驚きなのに、目の前に立っているヴィンセント・レ・キルシュタイルに見覚えがあった。

 知っていたとしても、思う。


 不思議な眼をしている奴だと。


 そうして遠くから、アーサーの声が響いた。

 

「あっ居た! お~い! ノア~! 俺もトレーニングに混ぜてくれよ~!」

 

 ゲーム内において、アーサーの敵役はノア・フランシスである。

 そして、物語やストーリーには必ず強力なライバルがいる。


 そのライバルは強ければ強いほど、主人公をより強く育てより高みへ連れて行ってくれる。

 そういったライバルは時にこうも呼ばれる。


 第二の主人公────。

 

「貴公がノア・フランシスか」

「あ、うん。よろしく」


 偶然にもこの場に、この世界の中心人物たちが集まっていた。


「おっ、なんだ? 客人か!? 俺ともよろしくな!」 

「うむ! 良い友になろうではないか!」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る