第59話 三人の王
魔法教会のトップと会話をし、アルが帰り道を案内する。
屋敷の内部は複雑で広く、迷子になっては困るから、ということであった。
今日、聖遺物破壊の罪を、ノア・フランシスは問われることはなかった。
あれは元聖女オリヴィアによって持ち去られた物で、壊れた状態でも、とにかく回収できたことで感謝を述べられた。
魔法教会が大事にしている聖遺物を壊したことで、敵視されるのではないかと身構えていたリオンだが、意外にも対応は軽いものだった。
拍子抜け、とまでは行かないが『こうもあっさり許して貰えるものなのだろうか、何か裏があるのではないか』という疑問だ。
セシルも同様に疑問を抱いていたが、リオンほど深く悩みはしなかった。
「ノアの敵が増えないなら……今日は良しとしましょうか」
「でさ、どう? 僕の王様、良い人だったでしょ?」
「……え、えぇ。素敵な方だったとは思いますが。ノアには届きませんね」
「そんな素敵な人なんだね、ノアくんって」
現剣聖、アル・アタッシュフェルトはふ~んっと笑う。
それを疑問に思ったリオンが問いかける。
昔からアルを知っているからこそ、今の行動に疑問を抱いている。
「……アル、あなたは誰かに従うような人間じゃないはずです」
「人は変わるんだよ、リオン。剣を極めて、それで世界一になるよりも、もっと凄いことを見つけたんだ」
「凄いこと……?」
「秘密。君たちのノアくんも、僕の王と同じ立場になれば、教えてあげる」
セシルとリオンが不思議に思う。
彼は一体何を言っているのだろうか。
王、王と言い続けるアルに、一種の狂気を感じる。
セシルが疑問を口にした。
「あの、なぜ王と連呼するんですか……? 魔法教会のトップの人は、どこかの国の王ではないですよね?」
「そうだよ。僕の言っているのは、国の王様のことじゃないんだ。僕の王っていうのはね────世界を統べるに相応しい王だよ」
リオンが何かに気付き、双眸を鋭くする。
「アル。あなたまさか」
「ハハ、リオンだって知ってるだろ?」
アルは、屋敷の扉を開く。
外の光が入り込み、眩しく室内を照らした。
眩しくて、ついセシルが顔を逸らした。
「国王とか、由緒正しき血族の王とか……そういう偽物じゃない。本物の、三人の王を決める戦い」
リオンは知っていた。
過去に……太古の昔、三人の王が世界を統べていた。
それはウィズや剣聖といったこの世界の均衡を保つ者たちのみが本当にあった出来事だと知っている。
それは数千年前から続き、現在に至っても続いている。だが、そんなものは御伽噺に過ぎない。
ノアからすれば、桃太郎、浦島太郎……それに近いような昔の御伽噺である。
普通の人は実在しないと思っているし、王を決める戦いは数百年も起こっていない。
だが、その名残りは、今も存在する。
三人いる王のうち、一人の名を────【魔王】と呼ぶ。
「ノア・フランシスに伝えておいてくれよ。君も、王候補の一人だよって。だって、王の権利を持っていた元聖女オリヴィアを倒したんだから」
いつか、この男……剣聖アル・アタッシュフェルトとも戦うことになるかもしれない。
リオンがそう予期させるには、十分させるほどの言葉だった。
王との戦い。
「……ノア様を、そんなことに巻き込むつもりはありませんよ」
「リオンは相変わらず真面目だね~。僕はそういうところも好きだよ」
「これほど嬉しくない告白も久しぶりです」
「アハハ! 不愛想な所も変わらないね! だから彼女が出来ないんじゃないかい?」
「恋人は既にいます」
「…………え、ガチ?」
「あのリオンが……? 鉄仮面のリオンが……?」と衝撃を隠せないようで、眼を見開いて驚いていた。
セシルにも確認を取ったアルが、事実であると納得する。
「マジかよ~! あのリオンが!? 信じられね~!」
「なんですか」
「リオンも変わったんだな~って……驚いてるんだよ。あの、人を人だと思わないような鬼に恋人……はぁ~……リオンを変えたノアくんって無茶苦茶凄いな……!」
「あなたには会わせませんよ。ノア様は凄い人なんですから」
「べた惚れだねぇ」
アルが馬車の扉を開けてくれる。
「いやぁ、今日は楽しかったよ。またおいでよ」
「出来れば出向きたくありませんね。セシル様も、こちらには一人で来ないように」
「え? どうしてですか? 危険なことなんて……」
「敵ばかりですよ、ここ」
「流石リオン。そうだよ、セシル嬢。君のような可憐な子は、あまりここには来ない方が良い」
ここは、魔法教会の本部である。
聖遺物があり、セシルが知っている元聖女オリヴィア、現聖女ミネルバのほかに……まだ知らない他の聖女たちがいる。
彼女らが必ずしも、友好とは言えなかった。
「あぁ、そうだ。セシル嬢、確かミネルバちゃんと戦うんだよね?」
「はい、そうですが……剣術大会はまだ続くみたいなので」
「じゃあ、負けても仕方ないよ。次があるさ、だから負けても落ち込まないでね」
負けることを前提として言われているようで、セシルが少しムッとする。
「ご忠告、ありがとうございます!」
バンッ、と自ら馬車の扉を閉める。
アルが目をぱちくりと動かし、唖然とする。
「ありゃ……嫌われちゃった?」
セシルは頬を膨らませていた。
(戦う前から、慰められるなんて……腹が立つ! 私だって、ノアから直々に筋肉の指導をしてもらったんです……! 筋肉パワーです!)
ふんっ、ふんっと鼻を鳴らして、力こぶしを作っていた。
それを隣でリオンが半眼で眺める。
「……あなたも少しずつ汚染されてますね」
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