第54話 激戦②



 複数人の【十二の魔法使い】による特殊なスキル、攻撃を回避しながら、ノアはミネルバを抱えていた。

 リオンのノアを移動させた影魔法は、何度も使用することはできない。

 

「しっかり捕まってて」

「は、はい……」


 ミネルバの頬が僅かに赤くなる。 

 リーダーであるオリヴィアを吹っ飛ばしたにしても、攻めに転じることは容易ではない。


 『気配察知』もまともに使えず、魔法も制限が掛かった状態では、肉体戦しかない。


 ノアが大きく飛んだ。


(複数戦で下手に接近は不利だ。まず、ミネルバをここから安全な場所に……)


 この空間は、スキルだけが封じられていない。ただし、スキル枠である【虚空魔法】だけは魔法に分類されるのか、戦闘でまともには使えないほど反応が鈍かった。

 

 【十二の魔法使い】達がノアを囲み、『黒縄』『阿鼻』『寒氷』………と、同時に全員がスキルを使用する。

 確実に仕留めるための攻撃、誰が巻き込まれようともノアだけは倒すという殺意に満ちていた。


 ミネルバが思う。


(いくらなんでもこの数は……!! ノア様でも!)


 そう思い、ノアに視線を向ける。

 だが、ノアは僅かに笑っていた。


 二つの声が響く。


「『虚空魔法』」

「『虚刀術』」


 パチン、と指が鳴る。

 剣の斬撃が走った。


 疑似『虚空魔法』×『虚刀術』……虚無斬術。


 無数の閃光が走る。

 【十二の魔法使い】の攻撃がすべて消し飛んだ。


 いがみ合い、殺し合っていた過去を持つ元魔王スオ、元剣聖ウィズの技が合わさる。

 時代が時代ならば……世界最強とも謡われた二人の合体技だった。


「なぜ我が貴様と手を合わせばならぬ」

「年老いた自分に言え」

「貴様も力が衰えとるから、我と合わせ技なんじゃろうが!」

「俺はまだまだ全盛期だ。夜の方だけどな」

「ふんっ、くだらん。だが、お互い年など取りたくないものだな」


 この場において、魔力制限を受けても問題のない人物たちが……援軍として現れていた。


「スオ! ウィズさん!」

 

 ノアが飛んで駆け寄る。


「ノア、少し遅れたか?」

「いえ、問題ありませんよ。スオも来てくれたんだ」

「我は暇だったのでな。ゲームの相手がいないのでは、退屈だ」

 

 おそらく照れているのだろう、と誰でも予測ができた。


「でも、スオは魔力制限を受けてないんだね」

「いや、受けておる」


 手のひらに小さな球体を作り出す。

 一瞬だけ現れ、すぐに弾けた。


「ほら、維持ができぬじゃろ」

「でもさっき使ってなかった?」

「それは────」


 すると、ノアの足に黒い縄が絡まった。


「スキル……『黒縄』。触れた対象の筋肉や動きを一定時間封じ……」


 【黒縄の魔法使い】が丁寧に能力を説明している間、ノアは平然と動いていた。


「ウィズさん、ミネルバのことお願いします」

「あ、あぁ……じゃがいも聖女のことか。分かった」


 ウィズがじゃがいも聖女を受け取る。


「な、何っ!? なぜ平然と動けている!? だが、これでどうだ!」


 黒縄が引っ張る。ピンッ、と張ったまま動くことはない。

 ノアが張った黒縄を掴む。

 

 綱引きのような形になる。

 

「これ……引っ張れば良いのかな。ほいっ」

「うわっ、うわぁぁぁっ!?」


 【黒縄の魔法使い】がノアに向かって飛んでいく。

 すれ違いざまに、ノアが顔面に向かって拳を振り下ろした。


 パァンッ!! と心地の良い音が響き、何回転かして落ちた。


「まず一人目」

「相変わらずえげつねえなお前……」


 スオが人間モードから九官鳥モードへと切り替わる。

 パタパタ、と飛んでノアの頭に乗った。

 

「我の話が途中だぞ」

「そうだね」

 

 合体した……と誰かが呟いた。

 緊張したこの空間で、上半身裸の男が、頭の上に鳥を乗せている。


 そんな男から一発でも喰らえば、先ほど殴られた【黒縄の魔法使い】のようになる。


 突如、オリヴィアが吹き飛ばされた方向で爆音が鳴る。

 その砂埃から、オリヴィアが現れた。

 

「何を怯える必要がある。戦え、正義のためだぞ?」


 【十二の魔法使い】達の退路はない。背後にはオリヴィアが居て、前にはノアがいる。

 強者の間に挟まれ、身動きなど取れる筈もない。

 

 スオとウィズが目を見開いた。


「ッ!! あれが……リーダー格か」

「ちっと、ありゃヤバそうだな……」

 

 スオの頬から汗が流れる。


「今の我では太刀打ちできぬな……相性も悪そうじゃ。巻き込まれぬよう我は他のところに……」


 そういって飛んでいこうとするスオと、ノアが捕まえた。


「ダメ、ちゃんと説明してから行って」

「わ、我鳥! 人間言葉不可!」

「説明、して」


 真面目な面持ちのノアに、ため息を漏らしながらスオが頭に戻る。


「仕方ない奴だ……我を守れよ」

「任せて」


 ノアが任せろと言った。それをスオは信用する。


「周りの雑魚共はどうするのだ?」

「一気に倒す」


 スオが頬を引き攣らせた。


「相変わらず脳筋だな……来るぞ」

「ああ」


 ノアが刀を横に構え、剣先を向ける。

 


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