第40話 突撃


「ノア様、随分とお疲れのご様子ですね」

「まぁ、ちょっとありましてね……」


 あれから俺は、キアラとミネルバの争いを宥めていた。最もその時間が、転生してから辛かった……途中からセシルまで参加して朝まで戦いは続いた。


 恐るべし、じゃがいも聖女……。


 リオン先生たちが恋人同士になったことは知ったのだが、関係は相変わらずのようだった。


 実際、フレイシア先生が『前と何も変わってない! ポーションバケツ嫌!』と嘆いていた。身内贔屓しないのは、流石と言ったところだ。


 てか……リオン先生、恋人って意味分かってるのかな。


 あとでそれとなく確認してみよう。


 俺の頭に乗っていたスオが、口を開く。


「ノア、ここら辺なら問題はなかろう」

「分かった」


 リオン先生は九官鳥がスオであることを知っている。


 俺は自身のステータスを確認した。


 ───────────────────

 【ノア・フランシス】 レベル:110 年齢:15 性別:男


 体力 :SS

 攻撃 :S+

 魔力 :S+

 素早さ:S

 知能 :筋肉

 

【スキル】スキル

『鑑定』       LvMaster

『瞬歩』      Lv Master

『気配察知』    Lv Master

『並列思考』    Lv Master

『刀術』      Lv Master

『空間魔法』    Lv Master

『錬金術』     Lv10

『魔力耐性』    Lv10

『観察眼』     Lv9

『コピー』     Lv6

『身体強化(特殊)』 Lv2

爆発物ダンベル』     Lv7

『脱衣』      Lv8

『虚空魔法』    Lv1


 ───────────────────


 スオが九官鳥から、人型に戻る。


「ふぅ……」

「なんだ、戻れるんだ」

「我を何だと思っている……人型だと、不都合が多いのだ。九官鳥であった方が、人間どもを誤魔化せる。それに食事も少量で済む」


 意外と利点を多く見つけているらしく、スオは九官鳥にそこまで不満を抱いていないようだ。


「……ノアよ。筋肉集団どもに言っておけ。我を鳥肉として見るな、怖いのだ。タンパク質と連呼されながら追いかけますのだけはやめてくれ」

「き、気を付けておくよ……」


 今のフランシス家の屋敷において、スオはかなり力が弱っている。そのため、リオン先生が相手をしても簡単に負けてしまうだろう。


 筋肉集団に狙われないよう、自分の巣を作ってそこで隠れることがスオの習慣だ。


 俺もたまに非常食として見ているとは言えない……。


「それで……ノアよ。『虚空魔法』であったな」

「うん、うまく扱えはするんだけど……『虚空魔法』」


 俺は掌に、小さな球体を作り出す。

 

 触れた物を消滅させる強力な魔法だ。だが、これ単体ではそれほど恐ろしくはない。


「俺がスオの虚槍に触れても、無事だったことあるでしょ」

「あぁ……あの頭のおかしい……」


 スオは遠い眼をする。


「つまり、魔力耐性のある人間に対しては効かないんだ」

「まぁ、その通りではあるな。そんな人間数えるほどしかいないだろうがな」


 いや、そうでもないはずだ。

 そもそも、スオは俺と戦った時点でかなり弱体化していた。

 

 おそらく、ゲームの本編だったら、どこかの時点で勝手に退場していたのだろう。


「そこで、うまく色々とやりたいんだけど……『虚空魔法』×『刀術』、無数斬術」


 空間魔法の上位に当たる魔法であれば、さらに強力な技を放てると思った。


「せいっ!」


 バチンッ!! と目の前で弾ける。

 軽く火花が散っただけで、無数斬術のような攻撃が発動しない。


「……おい、普通は『虚空魔法』は単体で使う物だ。発想が凄いな……」

「だって、面白そうだから!」


 スオが頬を引き攣らせる。

 リオンが静かに拍手する。


「流石ノア様、妥協しないその心、とても素晴らしいです」 

「貴様らを凄いと素直に褒めて良いのやら……」


 俺は悩む。

 普通はこれで技が発動するはずだ。

 

 どうして出ないのだろう。


「何がダメなのか、ずっと考えてるんだけど分からないんだ。『虚空魔法』のレベル不足とかかなぁ」

「違いますね、おそらく『刀術』の方です」


 ふと顔をあげる。

 リオン先生が真剣な眼差しで、手を構えた。


 剣を握っていないのに、剣術の姿勢を取っている。


「『虚刀術』なら、組み合わせることができるかもしれません」

「なんかすげーカッコいい……!」

「私のお師匠様が使ってます」


 そういえば、リオン先生がかなり前にお師匠様がいるって言ってた記憶がある。

 刀の使い手だから、俺の参考になるだろうって。ただ性格がかなり変わっているらしく、リオン先生も少し渋っていた。


「リオン先生の師匠か……」

「私から見ると、最悪な人ですよ」


 どんな人なんだろう。

 リオン先生と同じで規律に厳しく、真っ直ぐな人かな。でも最悪って言ってるから違うのだろう。


「『虚刀術』……か。確かに、同じ虚という上位スキルであれば、可能かもしれんな」


 スオが『虚空魔法』で刀の形を作る。真似をしているようだ。


「スオも知り合いなの?」

「昔手合わせをしたことがある程度だ。奴は苦手だ」

「どうしてさ」

「奴は、元剣聖なのだ……」


 俺は悩む。

 元剣聖……か。やっぱり凄い人なのだろうな。


「魔族の天敵を好きという奴はいないだろう」

 

 スオが苦手とするのは分かった。ただ……『虚刀術』に興味がないと言えば嘘になる。


「場所は知ってるの?」

「まぁ……我の気配察知はノアよりも広い。覚えているか、豪華客船の位置を把握したのは我だ。特定の魔力周波を探すのにおいて、我は特出している」


 確かに、あの豪華客船は特別仕様で位置が分からないように作られていた。

 それを搔い潜って正確な居場所を見つけた出したスオは、かなり凄い。


「奴の魔力は覚えている。それを辿れば居場所は掴めよう」

「よし、じゃあ……行こう! リオン先生はどうする?」

「私は結構です。師匠からは卒業した身です故、死に際まで会わぬと約束しています。でなければ私が斬ってしまうので」


 本当にどんな人なんだろう……。


 それに珍しい。てっきり付いてきてくれるのかと思ったのに。

 まぁ行かないって言うなら良いか。


 俺は頷いてスオを抱え、地面を蹴る。

 

 面白そうな剣術を使う人がいるのなら、ぜひ教えてもらいたい!


「ノア様……お気をつけて。元とはいえ、お師匠様は剣聖でしたから……」


 リオンは思う。

 性格がどうであれ、彼は間違いなく、世界最高の剣士と呼ぶに相応しい人物であった、と。

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