第35話 父上
私はアレク・フランシスだ。フランシス家の当主であり、ノアやキアラたちの父だ。フランシス家は貿易で家業を成り立たせている。だから、隣国へ自ら出向くことが多くなってしまう。
私がいない間に、どうやらノアは大きく成長したようで、魔族を撃退した功績を上げたようだ。おそらくは手配してあった護衛たちが倒したのだろう。
彼らは強者だ。ノアを何があっても守るよう、命令を下している。
運良く功績を手にしたことで、前よりも調子に乗ってなければいいが……私の息子は、言いたくはないが愚か者だ。あの子がフランシス家を継ぐことを考えると、頭が痛い。
だから、ノアを支えられるであろう人物を探し、セシル・エドワードと婚約させた。彼女は優秀で先が見える人間だ。もしものことがあれば、ノアを殴ってでも正しい道を示してくれると信じた。
ふふ、ノアも変わっていれば良いが。
王都にあるフランシス家に到着する。
「ご当主様、到着いたしました」
「うむ、では行くか」
アレクが思う。
さぁ! 子どもたちよ! 父が会いにきたぞ!
お前たちの成長を見せてくれ!
フランシス家の庭園にアレクが入る。
「帰ってきたぞ! ノア、キアラたちよ────」
「キョエー! キョエー!」
「にゃあ“あ“あ”」
「筋肉! 筋肉! 筋肉!」
アレクが口を開けたまま黙る。
「……」
あれ、帰る場所を間違えたかな。
何あの鳥、それと猫……え、なんで筋トレしてるのあの人たち。
ここ、動物園?
すると、赤い髪の毛の魔法使いを引きずった男がくる。
「こんにちは。ノア様に御用ですか?」
「あ、あぁ……私はアレク・フランシスだ。君は……」
というか、この男はなぜ人を引きずっている。
え、こんな明らかにやばい人、私の屋敷に居たか?
リオンがパッと顔を上げる.
「あっ、ノア様のお父様でしたか。私はノア様の剣術講師を務めております、リオンです。以後お見知り置きを」
「あ、あぁ……ノアが世話になっている」
なんだ、意外と礼儀正しく真面目な人じゃないか。
そうか、ノアが剣術を……成長したのだな。
少しばかり、子どもの成長に感動する。
「では、ノア様のところまで案内しますね」
「た、助かる……ところで、君はなぜその女を引きずっているんだ?」
リオンが手を上げて、魔法使いを吊し上げた。
「私が隠していた甘味を勝手に食べたんですよ。それと屋敷から抜け出して婚活パーティーに参加、誰にも相手にされず泣きじゃくって泥酔……仕事をまともにせずに寝ていたので、お仕置きです」
何それ可哀想……!
「いや、そういうことなら優しくしてあげた方がいいんじゃ……」
「そうですね……ノア様のお父様が言うのなら、従いましょう。ほら、行きますよ、魔力タンク」
「あい……」
え、魔力タンク!?
こ、怖っ……何この人……ノ、ノアはこの人から指導を受けて大丈夫なのだろうか……。
「キョエ“ー! キョエ“ー!」
「……すまないのだが、あの鳥は一体……」
「ノア様のペットです」
ノア!? お前あんな不細工な鳥を飼う趣味あったか!?
い、いや……それよりも、なぜあんな叫んでいるのだ。
「少し煩いかもしれませんが、放っておいでください」
「え……?」
「毎日、ああやって外でつまみ食いして、喉に詰まらせてるんですよ」
大柄な男が、駆け寄ってくる。
わ、私の何倍ものデカさがあるな……! いつの間にあんなに強そうな人材を見つけてきたのだろう。
「スオ魔王様ぁぁぁっ! あれほどつまみ食いしてはいけないと言ったではありませんか!」
「キョエ! ダスケ! キョエ!」
私は歩きながら、眉間の皺に手を伸ばす。
……なんだここは。
私が悪いだろうか。数年もの間、家族よりも仕事を優先させてしまった罪か。
すまない、ノアよ、キアラよ。
まさか、屋敷がこんなことになっているとは思わなかった。
誰が、誰が屋敷にこんなことを……!
すると、リオンが口を開く。
「あと、あまり筋肉に興味を示さないように、話題に出すのもオススメしません」
「な、なぜだ……?」
「洗脳されますよ」
私はそれを聞いて、思考を止める。
反応してはダメだ。見たものを、そのまま受け入れるのだ。
そうだ、考えてはいけない。
その道中、私は大量の筋トレ器具や「わー、蝶々〜」と言って集まって倒れている魔法使い達。頭の悪そうな青年が笑顔で「わかんない!」と叫んでいる光景を目撃した。
屋敷の中へ入り、リオンが言う。
「こちらのお部屋です」
「すまないな」
「いえ、今後ともノア様の素晴らしき父であるよう、願っております」
素晴らしき父……か。
私が与えられたのはお金と婚約者だけ。愛情を与えることができなかった、父失格だよ。
毒親と言われても、当然のことだ。
だけど、せめて短い時間だけでも……子どもたちとの時間を大切にしたい。
私は勢いよく扉を開ける。
バンッ!
「ノア! 父が帰ったぞ!」
そこには、見事な肉体があった。
これまで生きてきた中で、これほどまでに美しく造形美溢れる肉体を私は見たことがあるだろうか。
いや、なかった。
その肉体の持ち主こそ、我が息子……ノアであった。
「あっ、父上」
その時、私は逃げるべきだったのだ。
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