第25話 受験です


 ついに、ついにこの時が来た。


 学園だ。


 慣れ親しんだフランシス領土に別れを告げ、俺たちが出て行こうとしたとき、昔のノアが迫害していた奴隷たちが感謝を述べに来た。

 どうやら、最初はノアのことを恨んでいたようだが、俺が転生して働く場所と住む場所を与えたことを、凄く感謝していた。


 だが、それは当然のことだからと言って、俺は感謝を受け入れなかった。逆にちゃんと謝りました。すみません。


 それから馬車に乗って俺たちは王都へやってきていた。ここが、これから俺らが住む場所だ。

 レオウルス王国の王都はかなり人口が多く、文明もかなり発達していた。フランシス領土は田舎だったから何もなかったけど、ここには見慣れない装飾品や現代っぽい道具もあったりする。


 ゲームの世界だから、完全な異世界ファンタジーではないのだろう。


 もちろん、執事や従者たちも全員連れてきた。【十二の魔法使い】も。


 筋肉集団の丸ごと引っ越しだ。


「セバスたちが一緒だと、俺も安心だよ」

「ノア坊ちゃまのお父様が王都にお屋敷をご用意してくださったのです。そちらでお住まいになれば、生活も前とそれほど変わらないかと」

「そっか。有難いね、あとで手紙送らないとダメか」


 面倒だが、父との関係は良好であるべきだ。会ったことないけど。

 他にも一緒に王都へ来てくれた人たちが居て、一緒に馬車から降りる。


「はぁ……腰痛いわ……これだから馬車って嫌いなのよねー」

「フレイシア、乗る前は『仕事じゃないなんて楽!』って喜んでいたでしょう」


 リオン先生とフレイシア先生だ。

 まさか二人も一緒に王都へ来てくれるとは思ってもいなかった。


 あまりに嬉しさに、俺は二人に屋敷の部屋を用意したほどだ。


「本当は私はこの仕事をもうやめるつもりだったのよ? でもリオンが『王都なら男性はいっぱい居ます。結婚できるのでは?』って言うから」

「アハハ……やっぱそっち目的か」


 察しは付いていたが、どんな理由であれ嬉しいには変わりない。


「私はノア様の偉業を見届けるまで、離れるつもりはありません」

「ありがとうございます、リオン先生!」

「いえ、それよりもノア様。そろそろ受験のお時間では」


 おっとマズい、すっかり忘れていた。

 この日のために、筋トレを休んで勉強をしたんだ。


 紆余曲折を経て、ついにこの日が来てしまった。


 思わず、ニヤリっとしてしまう。


 俺の計画はこうだ!


 ・まず、学園に入学する。


 もちろん首席でだ、セバスとの約束だし、なによりカッコいい。

 『学年代表! ノア・フランシス!』

 うおおお! 考えただけでテンションが上がる! 


 ・次に勇者と知り合う。


  そして【十二の魔法使い】と戦わせて鍛える。魔王が復活しようが、襲ってこようが、俺と勇者で叩き潰す!


 よし……完璧! 世界平和だ! 俺の破滅ルートも消える!


「ノア坊ちゃま! 頑張ってください!」

「うん! 任せてよセバス!」


 一緒に受験を受けるセシルと合流し、俺たちはアブソリュート学園へ向かった。


 そうして、そこで受験を受けた。


 *


 俺は庭園の日陰で、静かに体育座りをしていた。灰色になり、チーンとしている。

 

 終わった……紙の試験、何も分かんなかった……。


 セシル、セバス……ごめんなさい。俺、たぶん落ちたわ。


 王都の魔法教会の成り立ちってなんだよ。

 確か、セシルが言ってたような気はするんだけど、思い出そうとするとすぐに『筋肉!』『ダンベル!』『負荷!』と頭が支配される。


 なにこれ、終わってんだろ。


 なんの呪い?


「絶対『知能:筋肉』とかいう奴のせいじゃん……」


 最後にボーナス問題があって、あなたの特技や好きなことを教えてくださいとあった。だからそこにたっぷり筋肉愛を注ぎ込んだが……意味なさそうだよなぁ。


 ハハ……完璧な作戦だと思ったのに、踏み出してすぐ落下するとは。ドッキリか何かですか。


「ノア、元気出してください。きっと受かってますよ」


 いつの間にか背後に居たセシルが、慰めてくれる。


「うん……実技でなんとか頑張ったけど」


 ペーパーテストとか無理です。見てください、俺の上腕二頭筋が泣いてます。

 

 『こんなの筋肉の足しにならないよー! うぇーん!』


「俺もそう思うよ……」

「ノアは誰と会話してるんですか……」


 ごほんっと咳払いし、セシルが言う。


「大丈夫! 実技だけでも受かる生徒はたまにいるんです! ノアは他の貴族とは違います! お金じゃなくて、ちゃんと努力して受験したんです! 誇ってください!」

「セシルぅ~」


 思わず泣きそうになる。

 なんて良い子なんだ……! もう嫌われたいなんて言わないよ! 

 

「ありがとう、セシル」


 ほんまごめん……毎日傍に居て、勉強に付き合ってくれたのに。

 わざと胸元見せて着たり、パンチラしてきたりでかなり集中力削がれたけど。

 

「アッハッハッハ! この小説おもしろ! アッハッハッハ!」


 爆笑しているフレイシアの声が聞こえてきた。

 俺が落ち込んでいるからということで、今日の訓練はなかった。『やったー! 今日は休みヒャッホー!』と言って、フレイシアは俺の目の前で小説を読んでいる。


 この先生は全く……! 生徒が落ち込んでるのに慰めてもくれない!


 俺、フレイシア先生に悪いこと何もしてな……ない、ないか? あれ、ないんだろうか。傍から見たら酷い仕打ちって言われても文句言えないことしてるな。


「フレイシア。ノア様が落ち込んでいるのに何を笑っているんですか」

「え~、いいじゃないリオン、どうせ受かってるわよ」


 俺の不安をよそに、フレイシアは断言して見せた。


「あんたら、アブソリュート学園の連中らが馬鹿だと思ってるでしょ」

「そういえば、フレイシア先生は卒業生なんですよね?」

「そうよ? あそこには校長先生オババもいるし、受かってるわよ。だって、実技試験でノア……アレ倒したんでしょ?」


 ノアが落ち込んでいる間、アブソリュート学園は受験の後処理で大騒ぎであった。



 

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