第24話 勇者!筋肉!
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New!!
『脱衣』Lv1
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早朝のランニング中に、俺は新しいスキルに気付いた。
「なんだこれ、『脱衣』?」
スキルの詳細を確認すると、面白いことが書いてあった。
・着用している服を脱ぐことで、攻撃力と防御力を上昇させる。
え、マジで!?
これ、合法的に筋肉見せ放題じゃん……!
最近気づいたことなのだが、俺は人に筋肉を見られることが嬉しくなっていた。たまに横を通り抜けると、『ねぇねぇ今の人見た? すっごい筋肉だったよね?』って声が聞こえてくる。
あの時の愉悦はまるで『ねぇねぇ今の人見た? すっごいイケメンだったよね?』と相違ない。てか一緒。
つまり筋肉=イケメンなのだ。
筋肉集団が深々と頷く。
「ノア坊ちゃまも、ようやく服を脱ぐことに慣れてきたな!」
「うん……最初は恥ずかしかったけど、ようやく同じ高見に登れた気がするよ!」
「ようこそ……ノア坊ちゃま。流石は俺たちの当主だ」
そう言って、みんなは俺に拍手してくれる。
パチパチパチパチと音が鳴る。
「ようこそ!」
「筋肉最高!」
「やっぱり裸だよな!」
「服なんて息苦しいもんな!」
「服は破り捨てるもの!」
俺がスキルに気を取られて足を止めたが、次第に歩き出す。
「じゃ、走ろうか」
「おう! ノア坊ちゃま!」
少し後ろの方で、ようやく追い付き始めていたアルバスが叫んだ。
「置いてかないでぇ~! 待ってください~!」
最近はだいぶ追い付いてこれるようになったなアルバス! 頑張ってて偉いぞ!
俺が心の中で褒めていると筋肉集団の一人、セバスが叫んだ。
「甘えるな!! あなたは重りを持っていないではありませんか!! 見てください! 私はノア坊ちゃま特性、超硬化カチカチ魔石製で作ったウェイトベストを着ているのですよ!! これを着れるように頑張るのです! 羨ましいでしょう!」
セバス、おじいちゃんが孫にプレゼントしてもらった風に自慢するのやめて。
流石にダンベルを持って走り回る訳にも行かず、俺は特性のウェイトベストを作っていた。重量はなんと驚異の数トン。
正確な重さは測れていないが、人間の許容範囲を超えていることは言うまでもない。
作った本人が言うのもなんだが、これを着たくない……だって、裸にウェイトベストって、絵面がヤバいだろ。
「そんな~!」
半泣きになりながら、アルバスは立ち上がってゆっくり走り出す。
その遥か後ろで灰色になっているフラマとリサが居た。
「地獄だ……」
「もう走りたくないわ……」
彼らが他に何を思っているかは、言うまでもない。おそらく最初の頃のアルバスと同じだ。
「にゃ”あ”あ”あ”」
俺はふと、声がした方向へ振り返る。
不細工な猫が……いやあれ猫か? 猫っぽい猫が、鳴いていた。
珍しいな、ここら辺に猫なんていないのに。
「さてと、師匠が言ってた筋肉集団ってのは、どこかな! 一目見ないと!」
どうやら観光客のようで、俺たちが目当てらしい。
まさか、フランシス領土の名物的存在になってるのかな、俺たち。それってある意味、町興しに貢献してるってことになるよな!
凄い偉くないか!?
「あ、あの! 筋肉集団を探してるんですか?」
思わず、俺は声を掛けてしまった。
今まで俺たちを求めてくれる人はいなかった。筋肉の素晴らしさを分かる数少ない人かもしれない。
「えっ、もしかしてあんたらが筋肉集団!?」
「は、はい……」
俺は照れながら、えへへ……と笑った。
「確かに……凄い筋肉だ! 触ってもいいか?」
な、なんですと! セシル以外にも触りたいと望む人がいるなんて……!
「またノア坊ちゃまばかり!!」
「ズルいですぞ!! 我らも触ってください!」
「おうおう! 触る触る!」
青年は笑顔で受け答えし、ペタペタと触っていく。
この人……どっかで見たことあるような、気のせいかな。
うーん、何か引っかかる。でもまぁ、良いか!
ノアは特に気にすることもなく、筋肉を触らせていた。
そこから少しの場所で、【魔猫の魔法使い】は気づいてしまう。
「にゃ!? アルバス!? 貴族を殺しに行ったんじゃ……!」
「なっ! お前は……! ミーア! お前は勇者を殺しに……!」
そうして、二人の思考が合わさる。
((まさか、飼われているのか?))
衝撃の事実を知った二人だが、本当はまだ会ってはいけない自分たちのご主人が、筋肉で談笑しているこのカオスな状況を把握できる者は、誰もいなかった。
ノアはまだ気づいていなかった。
このゲームのシナリオが、既に半分以上壊れていることに。
その日もノアはランニングを終えて、魔法の訓練と受験の勉強をする。
ノアの楽しい日常はすぐに終わってしまう。
屋敷に
食卓も豪華になって、会話はいつも同じ話題で笑う。
「タンパク質!」
「負荷!」
「はははは!」
笑顔の絶えない良い屋敷になったと、ノアは思う。
(今日は初めて観光客にも褒められたし、これも全部、筋肉のお陰だ)
だが、誰も知らなかった。ノアたちの筋肉の裏で、勇者と接触していたことなど。
「お兄様……会話がもう、タンパク質と負荷しか……喋ってない」
そうして、ノアたちは王都へ拠点を移す日がやってきた。
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