第23話 二人捕まえた
あれから、騒ぎを聞きつけ、筋肉集団に回収された俺は縛られていた。
屋敷の牢獄に戻され、凄く不満だ。一回脱走したのに、なぜ『私は街を壊しました』という看板まで掛けられねばならない。
「……むー」
「あ、あのセバスさん? ノアを許してあげませんか?」
「セシル様……ですが、街の一部を壊してしまったのですよ。せっかくノア坊ちゃまの悪評が減ってきたのに……これでは、また街でどんな噂をされるか」
「まぁまぁ、本人も反省してるようですし。それに、ノアのお陰でクレー様も助かった訳です」
セシルが優しい声音で手を差し伸べてくれる。
なんて良い子なんだ……最初に嫌われようとした俺が恥ずかしい。
すると、青髪の鎧を着た少女が言う。この王国の第二王女にして、薔薇の騎士と呼ばれたクレー・レオウルスだ。
「私からも頼む。その者は私を救った。本当であれば、表彰され貴族の地位を上げてもおかしくない功績なのだ。それこそ、侯爵になってもおかしくない程にな」
王女から出た言葉に、周囲が騒めく。
事実、俺が救った相手は一国の王女だ。偶然とはいえ、その功績は大きい。
クレーが俺の前に来て、跪く。
さらにざわついた。
「王女様が……」
「ノア坊ちゃまに……」
このクレーは、とても真面目なキャラだ。
王女としての道もありながら、騎士としての道を選んだ。
女を捨て、剣を取った。己が民を導くために。
「ノア・フランシス。私は貴殿のことを勘違いしていた。我が友セシルと悪行貴族が婚約したと聞き、もしや脅されているのではないか、無理やりされたのではないかと疑っていた。だから、会って値踏みしようとした」
深々とクレーが頭を下げる。
「そんな私を、貴殿は救い出してくれた。心の奥底から、感謝と謝罪を」
「気にしなくて良いですよ。本当に偶然です……それに、うちの領土で王女様が消えたとあったら、それこそ俺たちフランシス家が打ち首だ」
まさか、これが俺を消そうとしたイベントとかだったりしないよな……。
「いい男だな……お前は。少々セシルが羨ましく思うよ」
本当は俺を嫌ってるキャラが、なぜか俺を認めてくれる。
……これ、完全にシナリオブレイクだよな。
だって、王女を救うのは俺じゃなくて勇者だぞ……? はは……もうシナリオ守るとか諦めよ。
どうせ、俺が転生した時点でシナリオブレイクは見えてたし。良いんじゃね? いっそのこと、もうこのまま、どこまでぶっ壊れるか見てみたい。
でも、勇者が魔王を倒すという、超王道な話だけは崩しちゃいけない。それはこの世界の理だ。
今のままでは確実に、勇者は経験値不足。だから俺の頭に、一つの名案が浮かんでいた。
やっぱり、俺は天才かもしれない……前も同じように思って、碌な結果じゃなかったような気がするが。
「ノア、な、なぜ嬉しそうじゃないんだ……?」
「え? あ、あぁ……ちょっと考え事してて」
思考に耽っていたため、考えが顔に出ていたらしい。
諦めの顔をしていた。
「そうか。やはり褒美か」
「いや別に……」
欲しい物は既にあるし、なんなら自分で作る。全部筋トレ器具だけど。
「ふむ……爵位の格上げだけでは不足だな。良い案があれば良いのだが」
ふと、縛り上げられて魔法とスキルを封印されている【十二の魔法使い】が視界に入る。
フラマとリサだ。
どちらも俺に敗れ、拘束されて連れて来られている。
のちに王都から部隊がやってきて、クレー王女と一緒に王都で裁かれる予定だ。
「……あの、俺の功績は全消しで良いので、その代わりにその二人を貰えませんか?」
急遽派遣されたクレーの護衛役が、驚く。
「な、何を言っているんだ! コイツらは罪人だぞ! 王女様を誘拐しようとした大罪人だ!」
「そうだ! クレー様の護衛まで手に掛けたんだぞ! 他の余罪でも、死刑は確定している!」
クレーも困った表情をする。
「護衛はおそらく殺してない。でしょ? フラマ」
「うぐっ……! なぜ分かる……!」
「あんたは『服従』させることが好きだ。無暗に殺すよりも、手ごまにして自分の手札にする」
「なぜそこまで知って……!」
だって、ゲームの設定にそう書いてあったし。
収集家、今でいう所のフィギュアを集めるような感覚だろう。
珍しい魔物や人を『服従』させ、『空間魔法』に入れている。
「その人たち解放したら、助けてあげる。うちの屋敷に居てもらうけど」
「ほ、本当か!?」
セシルたちフランシス家の人々は、その言葉を聞いて顔を背けた。
「クレー様の許可もなく勝手に……!」
「待て。私としても居なくなった護衛が無事に帰ってきてくれるのなら、ノアの案に乗ろう」
「解放する! どうせ裁かれて死ぬくらいなら、ここで生きる!」
俺は思わず、ニンマリとしてしまう。
俺の考えた案とは、こうだ。
いっそのこと、うちの屋敷で【十二の魔法使い】を全員飼ってしまおう。あとは学園で勇者と知り合い、訓練として戦わせる。
そうすれば、勇者の経験値になる。
今のところ、捕まえているのはアルバス、フラマ、リサの三人だ。
ふふ、ふふふっ。俺の経験値にもなるし、一石二鳥だ。
それからフラマは条件を呑んで、捕まえていた護衛を解放する。
ダダダ! と足音がしたかと思えば、アルバスがやってくる。
フラマが反応した。
「あ、アルバス……! わが友よ! 生きていたのか!」
「フラマ……! まさか、お前も捕まったのか!?」
「そうだ。不覚ながらも、奴は強かった」
フラマは悔しそうにしながら、下唇を噛み締めた。
アルバスが肩に手を置いて、真剣な眼差しで言う。
「フラマ、悪いことは言わない! 王都へ行って裁かれた方がいい!」
「えっ? それだと私、死ぬんだが?」
「ここは地獄なんだ!! 気を付けろ……夢で筋肉が……あぁ、特にリオンには……鬼のリオンには気を付けろ!」
「アルバス……?」
アルバスが頭を抱えて「筋肉……夢で筋肉が追ってくる……リオンがポーションバケツを飲めと……」と支離滅裂なことを唸り出す。
クレーが首を傾げた。
「ノア。リオンとは、誰だ?」
「あぁ、さっき玄関先で赤い髪の毛の魔法使い引きずってた人ですよ。俺の師匠なんですよ」
赤い、というだけでフランシス家の連中は(絶対それフレイシアじゃん……)と思ったような顔をする。
「ほぉ、彼も強そうだったな。ノアの師匠か……手合わせ願いたい」
「クレー様、あんまりオススメしないです……あの人、おそらくフランシス家の中でもぶっちぎりでヤバいです……ノアの方がヤバいけど」
「そうなのか? セシル」
あれ? セシル、君俺の妻だよね?
ヤバいって……誉め言葉じゃないよね。
ちょっと俺が傷ついていると、クレーの従者が叫んだ。
「クレー様っ!! 大変です、【魔髪の魔法使い】リサが居ないですよ!」
「なに!?」
俺たちがアルバスとフラマに注目していた隙に、逃げ出していた。
「大変ではないか!」
俺は冷静にクレーを宥めた。
「大丈夫です。うちの屋敷からはどうせ逃げられないので」
「へっ……?」
忘れちゃいけない。
フランシス家の屋敷は、入るのは簡単だが、抜け出すのが難しい蜘蛛の巣なのだ。
*
屋敷を出て、庭園をリサが走っていた。
「はぁ……はぁ……! こんなところで死んでたまるもんですか!」
リサは駆け出していた。魔法やスキルを封じられて身体を縄で縛られながらも、生きてさえいればなんとかなる自身があった。
(私は綺麗なんだから、スキルが使えなくても生きていけるのよ! こんな状況、男でも騙せば!)
そう思い、リサがキョロキョロと視線を見回すとバケツを持った男を見つける。
「ねぇちょっと! そこのあなた!」
「はい?」
男が振り返る。
男はどこか落ち着いた表情をしていて、手にもったバケツは何かの回復薬だ。
(この男、真面目そうね。こういう男ほど、女にモテないからちょっと突けば落ちるのよ、ふふっ)
「お願い! この縄を解いて欲しいの! 乱暴されて、この屋敷に連れて来られたの……!」
「ふむ……外から部外者を連れてくるなんて、私とフレイシア以来ですね。ああいえ、アルバスが居ましたか」
「あ、アルバス……? ごほんっ! とにかく、なんでもするから! お願い、ねぇ?」
そう言って、リサはわざとらしく胸を寄せた。
本人は、自慢ではないが自分の胸が平均よりも大きいことを知っている。さらに、今は服装が乱れていて、かなりきわどいことも理解していた。
「なんでも、ですか」
「そう、夜の方も……寝るのが得意だったり?」
「夜……寝るのが得意。なるほど」
男は一切恥ずかしがる様子は見せず、淡々と言葉に納得していく。
(うわー、チョロそう。顔には出してないけど、きっと内心はバクバクね……やっぱり、男ってみんな馬鹿)
「あなた、魔法は使えますか?」
「へっ? え、ええ……かなり」
「では、何か特殊技能は?」
(なにこれ……なんで面接されてるみたいなの? あれ、なんかコイツ……よく見ると様子が)
「まぁ、そちらは良いでしょう。ちょうど探してたんです。きちんと夜は寝て魔力を回復できて、元気な魔力タンク」
「え?」
リサが話しかけた男は……ノアの師匠、リオンだった。
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カクヨムの読者方々は暖かくて好きです!
読んでいただきありがとうございます!
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