第4話 ステータス


 その日も同じように訓練をしていると、不思議な物が見えた。


 目を凝らすと透明な板のような物だ。

 触ろうと手を伸ばすも、空を切ってしまう。


 ……なんだこれ?

 

 これまで、こんなものは見えたことがない。

 ゲームに存在する物だろうか。


 はて、そんな物はあっただろうか。クリアまでやったが、ステータスくらいしか……なかった気がする。


「どうしましたか? ノア様」


 剣の先生……リオン先生から声を掛けられて、顔をあげる。


「あぁいえ……ちょっと気になったものが見えて……」


 よく目を凝らすが、やはり薄っすらとしか見えない。

 ふむ……何かすればいいのだろうか。


「身体強化魔法の続きをしてもよろしいですか?」

「ふぅ……身体強化」


 今、俺は身体強化の魔法を習得中だ。

 魔力を身体全体に流し、瞬発力を上げる。


 攻撃力や防御も上がったりと万能だが、集中力が必要で難しい魔法だ。


 ……魔力を目に集中させてみよう。


 すると、しっかりと見えてくるようになった。


「……っ! ステータス!?」


 ──────────────

 【ノア・フランシス】 レベル:4 年齢:14 性別:男


 体力 :C

 攻撃 :C-

 魔力 :D+

 素早さ:C

 知能:不明

 

【スキル】スキル

 『鑑定』Lv2

 ・物の価値を知ることができる。


 New!!

『瞬歩』Lv1

 ・素早く距離を縮めることができる。


 ──────────────

 

 は……?


 数か月前まで見ることが出来なかった……いや、無いと思ってた物が存在していた。

 ゲーム内では分かりやすく表示してくれたが、この世界では目に魔力を集めて見るのか。


 ゲームの最高だとSSSとかだった気がする。最低はDだ。生まれた才能で最初からAとかBもいるらしいし、それを考えるとやっぱりノアのステータスって低すぎ……。

 レベルも終盤だと3桁以上が当然だったっけ……それを考えると、ノアってこのレベルのまま終盤まで居たんだな……。


 てか、俺は『鑑定』スキル持ちだったのか。あー……何となくわかるかも。


 ノアの家系、フランシス家の設定は貿易から伸し上がった家系だ。ノアも幼い頃から価値の高い物を見て育ってきたから、物の価値が分かるのか。


 ただそれを意識的に使えるかどうか……って話なのかな。


 まさか、ノアがスキル持ちだったとは……知らなかった。

 

 試しに、今手に持っている木剣を『鑑定』する



 木剣:質の良い物。訓練用の剣。



 ふむ……こんな感じか。


 人にも使えるだろうか……。

 そう思って相手に『鑑定』を使用する。


 使用不可。Lvが足りません。


 なるほど……ステータスの表記だとLv2になっている。まだまだなら、使ってレベルを上げたりすればいいんだな。


 よし……一番気になっていた『瞬歩』だ。

 

 いつの間にこんなスキルを習得していたんだ。


 毎朝、ランニングしまくってた成果だろうか。


 ゲームだとSPを振り分けてスキルを取得、使用して習熟していく仕様だったが、この世界だと違うらしい。


 ……ともかく、まずは使ってみるに越したことはない。


 ちょうど今は訓練中だ。


「ノア様、身体強化のまま動けますか?」

「はい。リオン先生、そのまま模擬戦をしても良いですか?」

「えぇ、動けるのでしたら。身体強化は制御が難しいですし、体を動かなさないと実践でも役立ちませんからね」


 そう言って、剣を構えてくれる。

 

 よし……このままうまく……あれ。


 身体の関節がぎこちない。

 うまく動かん……! ぐぬおおおっ……!


「やはり難しそうですね……無茶はいけませんノア様」

「す、すみません……」


 ぐぬっ……集中力が足りてない訳じゃなさそうだ。

 かと言って魔力不足かと言えばそうじゃない。


 問題はそこではなく体の慣れだろう。


 錆びたネジを回しても上手く回らないように、体も同じだ。急に魔力を注ぎ込んでも、関節が慣れてない。


 はぁ……『瞬歩』はまた後で使うか。


「謝ることではありませんよ、ノア様は十分に頑張ってます」


 優しい言葉に思わず嬉しくなるが、社交辞令だろう。

 リオン先生は優しい人だ。教えてくれるのがこの人で良かった。

 

 ふむ……ランニング中に身体強化を使って走ってみるか。


 それなら訓練とランニングの両立が出来る。


 そのことを提案してみると、リオン先生から軽く叱られた。


「そんな高度なこと初心者には絶対無理です! 学園入学までに習得できればいいんですよ!」

「アハハ……」

 

 学園入学までか……それじゃ遅い。

 俺が学園に行くのを防ぐこともできるが、それではゲームと大きくズレてしまう。


 勇者が魔王を討伐せねば、世界が滅ぶ。それがこのゲームだ。

 

 俺が魔王を今すぐ倒す!とかやればいいんだろうけど……いや、無理。だってレベル3桁の相手とか倒せるビジョンが浮かばない。


 この状態じゃ特にだ。


 だから俺は、せめて頑張らなくちゃいけない。

 

 もうゲームのノア・フランシスじゃない。もしも勇者が……魔王を倒せないのなら、俺が倒すしかないんだ。


 守りたい人だっている。


 俺はその日から、ランニングに身体強化を使って走ることを繰り返した。


 初日は筋肉痛が酷く、まともに足を上げることもできなくなってしまった。セバスに風呂前や寝る前にマッサージを頼んで少しは良くなった。


 数日も経つと、筋肉痛はしなくなったし動きもスムーズになった。ランニングの速度も上がって、セバスが少し速度を上げていた。


 いつも早朝のランニングでセバスは余裕そうだから、これでどうだ!と思いっきり走ったが、余裕で抜かされた。挙句の果てに『もう少し早く出来ますぞ? ノア坊ちゃま』などと煽られたから、少し頭に来た。

 コイツ……暗殺者にしても、相当な実力者だっただろ……。


 それから一か月もすれば、俺は身体強化を完全にマスターした。

 

 ランニングも相当早くなったし、前の何倍もの速度で周回できるようになった。


「セバス、今日こそ本気で走ってくれよな」

「ハハハ……それは坊ちゃまの足次第でございます」

「じゃ、勝負ね」


 俺とセバスは何事でも勝負するようになっていた。

 出会った頃に感じた無意識の壁はいつの間にか薄れ、完全に無くなっている気がする。

 

 気が付けば、俺のステータスに新たにスキルが加わっていた。


 ──────────────


 New!!

 『瞬歩』  Lv2

 『気配察知』Lv1

 『並列思考』Lv1


 ──────────────


 

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