第3話 【セバス】side


 私がお仕えした主は、とても醜い人間で嫌いでした。


 まさか、仕事の初日に『新しい奴隷を買って来い。丈夫な奴、この前のはすぐに壊れちゃったから』


 と命令されるとは思ってもいなかった。


 初めは老後の資金のため、羽振りの良い仕事だと喜んでいたが、人間の皮を被った非道な人間、権力に物を言わせ、人を人として見もしない。


 それが彼、ノア・フランシス様でした。


 だが、一度は受けてしまった仕事を放り投げることもできず、私は仕えることにした。


 いつか裏切る時が来るかもしれないが、その時まで我慢しよう。そう思っていた。


 その日も、奴隷を椅子代わりに座って、人を虐めるあくどいノアは転んで頭を打った。

 流石に死んでしまっては私の頸が飛ぶ……!と焦り、すぐに医者を呼んだ。


 幸いにも怪我は小さく、大事にならずに済んだ。


 だけど、問題が発生した。


「セバス。俺に隠れて奴隷を逃がすのは構わないけど、ちゃんとその後の面倒も見ているの?」


 私は虚を突かれた。

 心臓が止まったかと思った。


 誰にもバレない、気付かれないようにしてきた事実だ。


 この方、20年以上も暗殺業に従事し、この界隈では伝説の暗殺者として名を馳せていた。


 仕事は完璧、証拠も残さない。

 その私がした仕事を、この主は見抜いてみせた。


 どうやって知った? どうやって見抜いた?


 これまで斬首を命じた奴隷の死など、確認したこともないはずだ。

 私はそのことばかりが頭に浮かんでしまった。


 ノア様はそれから人が変わったようになった。

 

 魔法の勉強や剣術、体力づくりなどに精を出され、私にも朝一緒に走って欲しいとお願いされた。


 このお方は変わった……何かが変わった。面白い。

 その直感を信じて、傍にいることにした。

 

 この人は私が仕えるに相応しい人物に変わるかもしれない……どこまで努力をするのか、見てみたい。

 

 少しくらい……ノア様の傍に居ても良さそうだ。


 何がノア様をここまで変えたのか、知りたい────。


 少しずつ、毎日ノア坊ちゃまとのランニングする日常が、楽しくなりつつあった。

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