第51話 wine red-2
「う、嘘って・・・え、え?」
「予約空いてるから、今からでも頼めば宿泊出来るかも。どうする?」
「・・・・・・・・・・・・え、っと・・・・・・」
このまま?ここに?氷室くんと?
足湯が出来ると聞いていたので選んだ皺になりにくいフレアワンピースは、長時間の車移動でも苦しくないようにウエストを共生地のリボンで絞めるタイプのもので、爽やかなホリゾンブルーでお気に入りの一着。
洋服はオッケー。
化粧ポーチの中身は、リップ、リップグロス、ブレストパウダー、アイブロウ、マスカラ。
アイシャドウとチークはもうこの際諦めてもいい。
メイク落としや洗顔関係は売店でどうにかなるだろう。
肌は昨夜バスルームでいつもより丁寧にボディスクラブをすりこんだ。
つま先も踵もすべすべだし、肘も膝も問題ない。
肝心の下着は!?
移動時間が長いからとノンワイヤーのチャコールグレーの飾り気のない上下セット。
当然ながら新品では、ない。
しかもよりによって肌映りのよろしくないチャコールグレー。
肌映りのいいペールピンクを何で昨日付けちゃったかなぁ!?
「・・・・・・・・・」
思い切り黙り込んだ結の耳たぶを軽く引っ張って、氷室が意地悪く笑った。
「ごめん、嘘」
「っっっはあああ!?」
坪庭から見える綺麗な空に結の上げた素っ頓狂な声が吸い込まれて行った。
「泊まれるって言ったらどういう反応すんのかな、と思って、ちょっと気になってさ・・・・・・・・・迷ってくれるんだ?」
考えていたこと全部みごとに顔に出ていたらしい。
「すっっごい色々考えたからね!?」
「考えるってなにを?」
興味深そうに目を細めた氷室を睨みつける。
「今日の自分大丈夫かなって・・・服とか身体とか・・・い、いろいろ」
「気持ちじゃなくてそっち?結の気持ちは?」
「・・・・・・・・・き、もちは・・・・・・大丈夫・・・だけど」
嫌か嫌じゃないかと言われれば嫌じゃない。
出来れば下着は違うもののほうが嬉しかったけれど。
「・・・・・・そう」
小さく頷いた氷室が、身体を起こした。
途端、見えていた青空が氷室によって遮られる。
ぱしゃんと水音がして彼が半露天風呂から足を上げたことに気づいた。
あ、と思った時には氷室の親指が唇をなぞっていた。
「キスしていい?」
小さく尋ねる間も、下唇を擽るようになぞられて、頭の芯がぼんやりしてくる。
「・・・・・・うん・・・っ」
広縁に広がったワンピースを握りしめる結の手のひらを掴まえた氷室が、良くするように指を絡ませて来る。
一度確かめるように握り込んでからそっと解いて、何度も指の隙間を擽られた。
「っ・・・ん・・・ぁ」
くすぐったくてじれったい感覚でいっぱいになって小さく開いた唇の隙間を縫うように舌先が捻じ込まれる。
ちゅくりと耳元でお湯が跳ねるのとは違う水音が響いて、一気に頬が朱に染まった。
そうっと口内を巡った肉厚な舌が、舌裏を擽って、舌の付け根を優しく扱いてくる。
蕩けるような感覚に脳髄が痺れて何も考えられない。
震える唇を優しく食まれて、息を飲んだらまたキスされる。
優しく絡ませて時々舌先を吸い上げて、気まぐれに唇を啄む。
絡ませたままの指先が火照る。
手のひらを擽った指の腹が手首をくるりとなぞって来て、優しすぎる触れ方に身を捩った。
途端つま先が温かいお湯を蹴って、ぱしゃんと水音が立つ。
屈みこんだ氷室が結の手首に軽くキスを落とした。
反対の手のひらで肩を撫でられてそのまま手のひらが脇の下からウエストへと滑り落ちる。
腰を撫でた手のひらがワンピースの裾を軽く持ち上げた。
そっと膝裏を擽られて息を飲む。
そのまま濡れた脹脛を指の腹で辿られて、空いている手で氷室の腕を掴んだ。
「・・・真っ白」
社会人になってからは日焼けとは無縁の生活を送ってきたので、足はとくに白いままだ。
会社では膝丈のスカートは履かないようにしているので、こうして脹脛を氷室の目の前に晒すのは初めてのことだ。
日差しの降り注ぐ広縁で、お湯から持ち上げた柔らかい脹脛を撫でる氷室の横顔をとてもじゃないが直視できない。
ワンピースの裾がいまどうなっているのか想像して、死にそうになる。
え、待って、ほんとに、このまま?
いま何時でチェックアウトまでどれくらい時間があるのか冷静に計算しそうになる自分と、氷室が与えてくる熱にそのまま溺れてしまいそうな自分。
二律背反の気持ちで視線を彷徨わせていると、こちらに向きなおった氷室が視線を合わせてきた。
お湯で温まった指が髪を撫でる。
「・・・・・・やばい・・・・・・その気になって来た」
くるくると毛先を指に巻き付けて遊ぶ氷室の両の目には確かに情欲の炎が宿っている。
「っ、だ、だめ・・・じ、時間・・・」
喘ぐように進言すれば、氷室が座敷のほうを確かめて、ふうっと息を吐いた。
「んー・・・・・・・・・時間もだけど・・・・・・持ってない」
なにを、と言いかけて慌てて口を閉ざした。
この状況で持ってないと言えばアレである。
「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・あ、うん」
小さく頷いた結を抱きしめるように倒れ込んできた氷室が、耳元で大きく息を吐く。
「持ってきたらなだれ込むような気がして・・・・・」
首筋に頬ずりされて、愛しさで胸がキュンキュンする。
「・・・助かった?」
拗ねたような問いかけに、小さく小さく、そんなことないよ、と必死に答えた。
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