第五章・そして現在

懐かしい夢を見ていたかの様だった。

春夏秋冬式織は昔の事を思い出しながら廊下を歩く。

外は雪だった、その雪が、桜の舞の様に見えた為だろう、だから昔を思い出した。


廊下を歩いていると。

眼鏡を掛けた女教師が叫んだ。


「冥児ィ!校舎にペットを連れ込むなァ!」


その言葉を受けて振り返るは、大柄な男。

腕の中には、子犬を抱いていた。


「おい先生、そりゃあ差別だぜ、オレはな、一度たりとも、ペットなんて思った事はねえよ」


「じゃあなんだ?家族か?有り触れた様な言葉を言うつもりかぁ!?」


ちっちっ、と人差し指を前に出して指を左右に振る峠之内冥児。


「俺が稼いだ金で俺がお犬様に餌を差し出し、お犬様が望めばボールを投げて散歩に連れていく…まるで王様と奴隷、…つまり、お犬様の方がご主人様ってワケじゃねえのか?」


その理論、否定をしようと口を開く女教師。


「ぐ、だ、…確かに」


ご主人様とペットの関係性に対して納得しそうになる女教師。

しかし、春夏秋冬式織がその口論に割って入る。


「その理論と、犬を学校に連れて来るのはまた違うんじゃないのか?」


「…そうだな、それもそうだ、冥児ィ!学校に犬を連れて来るんじゃねええ!!」


峠之内冥児の衣服を掴み、生徒指導室へと引っ張る女教師。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、先生さんよォ!」


峠之内冥児は連れ去られ、その尻ポケットから何かが落ちた。


「おい、落ちたぞ、冥児…あ?」


それは答案用紙だった。

真っ白な答案用紙、その端は何故か濡れている。

全部赤ペンでハネられた答案用紙には綺麗な丸が描かれている。

紛れも無い零点の答案用紙だった。


「…」


春夏秋冬式織は答案用紙を綺麗に折り目を付けて尻ポケットに入れると、そのままその場を後にする。


数時間後。

真夜中に置いて、その事について峠之内冥児が語り出した。


「あの先生、絶対、俺に気があるな」


腕を組んで頷く峠之内冥児。

春夏秋冬式織は歩きながら首を左右に振る。


「普通に、お前が問題児なだけじゃないのか?」


「いいや、あれはオレを誘う口実だぜ、あの視線、ほんのりと熱を感じたからなあ」


「普通に冷めた視線じゃないのか?それよりも…今日は十景が居ないんだ、気合を入れろよ」


春夏秋冬式織は、ポケットに突っ込んでおいた腕章を取り出した。

それと同じように、峠之内冥児も懐からバンダナを取り出す。

どちらも『十』の紋章が刻まれた代物。

春夏秋冬式織はその腕章を腕に付け、峠之内冥児はそれを額に巻く。


「巫覡に偽りのねえ仕事をしてやるよ、さあて、やろうぜ兄弟」


峠之内冥児は軽口を叩き拳で掌を叩く。

それと共に、峠之内冥児は神力を放出。

それに合わせ、春夏秋冬式織も神力を放出した。

周囲に散る桜が、峠之内冥児と春夏秋冬式織を包み込む。


「行くぞ、冥児」


「オレたちの最強を見せてやらあ!」


そう叫び、二人は神霊が出現したと言う土地へと向かうのだった。



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