第五章・決着

差し出した手、それを見つめる峠之内冥児。


「喧嘩の後は、仲直りだ。それが常識だぞ」


「…それが、なんだって言うんだよ、おれは、…ッ」


今更、その手を握る事など出来ない。

そうする事が出来ない程に、峠之内冥児は誰かを傷つけ過ぎた。


「ああ、おれが勝った、おれが強い、だけど、本当の強さって言うのは」


春夏秋冬式織は、峠之内冥児に受けた傷、それらすべてを、この握手で帳消しにするつもりだった。


「自分がまけてないって、思う事だろ、おれは、オリオリと、お前の父さんから学んだ」


春夏秋冬澱織から聞いた、峠之内の父親との争い。

最後には、こうして握手を交わした、それが、男と男の決着の付けたなのだと。

そんな事を知らない、峠之内冥児は、思い出せぬ父親の姿を幻視して呟く。


「…おれ、の」


「この世には、負けの無い喧嘩もある。そこには、強さも弱さも無いんだ」


その喧嘩に勝敗など無い。

全ては、納得しか存在しないからだ。

納得をすれば、後は手を握る他無い。

それが、喧嘩の締めだから。


「おれが最強だって思う、オリオリが言うんだから、きっとそうなんだろう、そして…お前の父さんも、きっとそう言っていた筈だ」


「…けど、おれは」


「それでも、負けたって思うのなら、そう思えば良い、お前が最強じゃなくても…これから先は、おれたちが最強になれば良いんだ」


春夏秋冬式織の言葉に、峠之内冥児は、春夏秋冬式織を見た。

その言葉の真意を訪ねだす。


「…おれ、たちが?」


「そうだ、一人が負けても、もう一人が勝ってたら負けじゃない。最強で居られるんだ」


団体戦の様なものを考えているのだろう。

子供ながらの浅い知恵である事には変わりないが、春夏秋冬式織はそうであると本当に信じている。


「最強って言葉は、一人に与えられるものでもないだろ、だから」


この手を握り、全てを終わらせよう。

だが、峠之内冥児は未だごねる。


「…それ、でも、おれは、なにも無い、強さに拘って…それが消えちまったら、何もない、クズで、バカな、奴になる」


「別に、それでもいいだろ、気を張った顔するより、腑抜けた顔で笑った方が、何倍も良い、…もういいだろ?」


再び、春夏秋冬式織は手を出す。


「おれと一緒に、バカやろうぜ」


その言葉が、棘の生えた峠之内冥児を削いだ。


「…ああ、そう、だな。そんな毎日、出来たら、いいな」


ゆっくりと、峠之内冥児は手を伸ばす。

その手を、春夏秋冬式織は強く掴んだ。

上下に揺らして、息を吐くと共に笑った。


「するんだよ、おれたちで」


苦痛にも感じた峠之内冥児の呪い。

それが、この一瞬だけでも、緩んだかと思えた。

友情を育む二人の間に、白い男がやってくる。

宍道十景だった。


「じゃあ、ボクも仲間に入れてよ、シキちゃん、メイジー。三人でバカやろうよ」


笑って言う宍道十景に、二人は反論した。


「おまえ…メイジーって言うんじゃねえ」

「宍道十景、お前、おれの足刺した事、忘れて無いからな」


これが、後の物語。

最強たちの物語である。

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