第三章・カレーライス
傷は癒えている。
しかし、春夏秋冬式織の悩みは消え去らない。
何故、出雲郷凛天の攻撃が自らの肉体を貫いたのだろうか。
その事ばかり、考えていた。
もしかすれば、この悩みを解決した時、自分はまた、新たな成長をするのかも知れない。
だから、この疑問を解消しようとしていたのだ。
そう考えている内に、扉を叩く音が聞こえてくる。
布団の上から立ち上がると共に、春夏秋冬式織は玄関へ赴き、扉を開けた。
「お疲れ様です、式織様、本日より、式織様の付き人として仁万咲来が身の回りの世話を担当致します」
と、仁万咲来が頭を下げた。
つい先刻まで、春夏秋冬式織と訓練をしていた先生の姿は、今ではどこにも無かった。
「あ、先生」
「…式織様、既に師弟関係の時間は終わりました、ですので、今まで通りの呼び方でお願いします」
公私を分けている様なものなのだろう。
春夏秋冬式織は分かった、と頷いた。
「何か用事…です?」
しかし、無理やり叩き込まれた敬語は中々に抜けなかった。
「はい、身の回りの世話を、と言う事ですので、お食事などをご用意致します、本日はどの様な料理が宜しいですか?」
春夏秋冬式織は頭を悩ませた。
ただでさえ、出雲郷凛天の事で頭がいっぱいであるのに、どの様な料理、と言った事は更に頭を悩ませる。
うーん、と唸る春夏秋冬式織に、仁万咲来は笑った。
「少し、お疲れでしょうし、あまり頭が回らないのも仕方がありませんね、では…今日はカレーライスにしましょう」
殆どの子供が好きな料理だろう。
それを言われて、今日は何を食べたいか考えていた春夏秋冬式織の悩みが即座に解消された。
「うーん…こんくらい簡単に悩みを解決できればなぁ…」
台所へと向かい出す仁万咲来は、春夏秋冬式織の言葉に対応する。
「悩みですか?訓練の事ですか?」
そう言われて、春夏秋冬式織は頷く。
「うん、でも、教えない、俺の必殺技になるかも知れないし」
くすり、と仁万咲来は微笑んだ。
子供ながらの発想に、無邪気だと思ったのだろう。
そうして、仁万咲来はカレーライスを作り、春夏秋冬式織の前に出す。
「どうぞ、式織様」
料理を出されたので、春夏秋冬式織は合掌をして、そのままスプーンを手に取り、口に運ぶ。
余程腹が減っていたのだろう、噛まずに飲み込む様に喰らっている、それを見た仁万咲来は注意をした。
「式織様、きちんと噛んで飲み込んで下さいね、たかが料理と言えども、肉体を作る為に必要なもの、神力の生成にも関係します。集中して食べて下さいね」
「ん…分かった」
と、春夏秋冬式織が頷いた所で、ふと、彼女の言葉と、春夏秋冬澱織の事を思い出す。
最初に、春夏秋冬式織に単調発露を教えた時の事、春夏秋冬式織を背負って移動した時、春夏秋冬澱織は神力の放出面積を絞っていた。
そうする事で、推進力と加速力を増強していたのを思い出し、更に、仁万咲来が言っていた、集中、と言う言葉、出雲郷凛天は無意識ではあるが、口に力を集中させていた。
「…もしかして」
食べる手を止める、春夏秋冬式織の脳内に仮説が生まれだしていた。
次の日。
学校から帰って来た春夏秋冬式織は軽く肩を回して、仁万咲来の前に立つ。
「今日も稽古です、始めましょう」
そう言われた所で、仁万咲来が木刀を構えた。
春夏秋冬式織は、手首を片手で抑えながら息を吐く。
「すぅ…はぁ…よし(『流繊躰動』)」
神力を肉体の内部に循環させ、身体能力を向上させ地面を蹴る。
それと共に、仁万咲来の方へと一直線に駆け寄った。
「(また懲りずに真正面から…いや、式織様が何も考えずに、一度は効かなかった攻撃を再度する筈が無い)」
即座に脳内で春夏秋冬式織の行動を訝しむ。
春夏秋冬式織は手首から神力を放出させた。
四式の『天飛上落』である。
春夏秋冬式織が苦手な放出を行う発露である。
春夏秋冬式織は放出量を間違えやすく、すぐにガス欠になってしまう。
手首のみ限定的に門から神力を放出させる事で何をするのか。
それで高速移動など、出来る筈が無いと言うのに。
だが、狙いが違うのだろう。
その腕を、手首を、指を、仁万咲来に向けた。
対象の攻撃から発生する衝撃を分散させる様に神力の性質を砂に変える。
これによって、春夏秋冬式織の攻撃は無力化させる筈だったのだが。
「(ッ『甲城纏鎧』が破れるッ)」
春夏秋冬式織の突きが、仁万咲来の『甲城纏鎧・砂』を貫通しようとしていた。
その為、仁万咲来は春夏秋冬式織の手首を掴んで攻撃を無理やり止めさせる。
『天飛上落』は神力を放出する事で飛翔、浮遊が可能となる。
その発露の正式な方法は、神力を放出する事で推進力と加速力を得る、と言うもの。
この四式の性質は、神力を放出する門の面積を縮める事で密度を高める。
面積が小さければ小さい程に、放出される神力の推進力と加速力も増加していくのだ。
つまりは『天飛上落』を使役し、神力を体外から放出するその面積を手首を限定的にすると、放出力の圧によって防御力を上回る貫通力を得たのだ。
言うなれば
無意識に活動していた出雲郷凛天は、自らの歯牙に神力を集中させ放出させた事で、春夏秋冬式織の『甲城纏鎧』を超えたのだ。
カラクリが分かれば後は簡単だ、春夏秋冬式織は自らの神力を腕部に集中させ、放出させ、ガスバーナーの様に噴出する『天飛上落』にて、仁万咲来の『甲城纏鎧』を貫通させたのだ。
「…成程、『天飛上落』の応用ですか」
「もう、其処まで分かったんだ、ですか」
関心する仁万咲来。
四式の応用を、独自で編み出した春夏秋冬式織に感服しつつあった。
「…貴方は、本当に、…努力を惜しまなければ、強くなれますね」
「うん、俺は、オリオリみたいになりたいからな」
春夏秋冬式織は、絶対になる、とそう断言した。
仁万咲来も、春夏秋冬式織の成長を、この先どうなるかを、楽しみにしているのだった。
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