第三章・基礎訓練「四式」
自宅へと戻る。
当然ながら春夏秋冬式織の戻る家は出雲郷家だった。
春夏秋冬式織のために用意された屋敷へと戻っていくと同時に春夏秋冬式織は背中に背負っていたランドセルを玄関に向けて放り投げる。
そしてそのままの格好で春夏秋冬式織は庭へと繰り出すと早速神力を操る訓練を始める。
春夏秋冬式織に与えられた新しい課題。
それは自らの属性を開花させその属性を付与した神力を操ること。
それができてようやく戦場に立つことが許されると春夏秋冬式織の父親は言っていた。
春夏秋冬式織は一刻も早く一人前になりたいがために1日たりとも訓練を欠かさず運動をするのだった。
「とりあえずは…このぐらいで終わっておくか、次、は…」
春夏秋冬式織は軽いウォーミングアップとしてストレッチを終えると、今度は神力を操作しての運動を行っていた。
腹の底に感じる神力。
それを身体全体に行き渡らせて外界へと放出させる者を開く。
その状態で春夏秋冬式織は出雲郷家の周辺をぐるりと回るように走り出す。
肩で呼吸をしながら荒々しく息を吐く。
この出雲郷家を一周するジョギングはかなり厳しい。
屋敷全体を回るので、常人であれば数時間は必要になってくる程に広い。
だからこそ運動するにはもってこいな、敷地の広大さ。
敷地内をぐるりと一周する、無論、神力を解放して動くので、相応の消耗量だ。
「ふぅ」
運動を終えた後。
春夏秋冬式織は自らの属性を開花させる為に訓練場へと向かう。
本日から、春夏秋冬式織の師が面倒を見ると聞いていた。
新しい技術を覚えられるのだと思うと、心の内で興奮している。
汗を拭いながら出雲郷家の敷地内にある訓練場へと向かっていく。
訓練場。
第一、第二、第三と、複数の訓練場があった。
その内、春夏秋冬式織に貸し出されたのは第一訓練場。
此処は、出雲郷家の血縁者しか立ち入りが許されない場所である。
其処で、春夏秋冬式織は婚約者として認められた為に、この訓練場の使用を許可されていた。
そういったわけで、春夏秋冬式織が訓練場に入ると。
訓練場の中心に、一人の女性が座っている。
黒髪で、白色の巫女服を着込んだ女性。
その巫女服は、動きやすく、改造を施された代物だった。
「咲来の姉ちゃん」
春夏秋冬式織は、その女性、咲来を見て言った。
立ち上がる、咲来は、じっと、春夏秋冬式織の方を見て言う。
「改めて、自己紹介を致します」
「私の名前は
そう言い放つと共に、仁万咲来はその手に握り締める木刀を揺らした。
「…分かった、咲来の姉ちゃん」
「…師弟の関係上、私の事は先生と呼ぶ様に、式織、それと、目上の人間には、敬語を使いなさい」
指摘された事で、春夏秋冬式織は頭を下げた。
自分に非があるとして、謝っているらしい。
「ごめんなさい、先生」
「宜しい…それでは、先ずは基本から教えましょう」
と、仁万咲来はそう言って、春夏秋冬式織に力の使い方を教えるのだった。
訓練場の真ん中。
普通の道場とは違い、地面はコンクリートだった。
正座をする仁万咲来に合わせ、春夏秋冬式織も正座をして話を聞く。
ひんやりとしたコンクリートが、肌に触れて少し冷たく感じていた。
「先ずは四式から教えます」
指を四本立てて、仁万咲来がそう話し出した。
その話を、春夏秋冬式織は真剣に聞く。
何にせよ、自分が強くなるのならば、どんな話でも、春夏秋冬式織は聞いて、それを厳守すると言う覚悟がある。
「基本的に、神力操作は四種類の発露にあげられます」
「…ん?」
そう説明されて、春夏秋冬式織は、何か違和感を覚えつつあった。
手を上げて発現をする様に願うと、仁万咲来は春夏秋冬式織の手を確認して、頷いた。
「四式…、って、オリオリが教えた奴で、あってるのか?」
そ、そう言われて、仁万咲来は嫌な表情をした。
それは春夏秋冬式織に対してではなく、春夏秋冬澱織に対して不快感を表している様に見えた。
恐る恐ると、仁万咲来は春夏秋冬式織に聞いた。
「…澱織様はどの様に教えていたのですか?」
春夏秋冬式織は頭の中で、春夏秋冬澱織に言われた事を思い出す。
豪傑にして豪快な男が口にした言葉を、自分なりに纏めて仁万咲来に言う。
「えっと、単調発露と加工発露、単調発露には『生成』『循環』『放出』ってのがあって…」
その時点で、手を伸ばして春夏秋冬式織の口を塞ぐ。
仁万咲来は首を左右に振って、頭が痛そうにこめかみに指を添えている。
「…あのお方は、ごちゃまぜにして教えてますね、では、先ず最初に教える事は」
最初に教える事。
それは何か、と春夏秋冬式織は楽しみにしていたが。
「澱織様の説明は、一旦全て忘れる、と言う事です」
驚くべき言葉を聞いて、春夏秋冬式織は口を開く。
「え!?」
と、父親に言われた事、全てを忘れる様に、と断言された。
何故なのか、と言うよりも早く、仁万咲来が答えてくれる。
「あの人は特別です、出来ない事を出来る、一から十の順番を二から十、十から三、と言った様に順番通りでなくとも、常人よりも強く扱えるので…我々とは全然違います、なので、あの人の言った事は、全部忘れて下さい」
春夏秋冬澱織は兎に角特別な人間だ。
出雲郷家の人間でありながら、呪いと呼べる様な呪いが確認出来ていない。
本来ならば他者からの援助が無ければ肉体が滅びやすく、短命である筈なのに、春夏秋冬澱織はその宿命からも悠々としている。
故に特別。
その他、誰もがそう思った事だった。
「単純に神力を放出させるこの発露の仕方は四通りあります」
木刀を置き、立ち上がる。
実践して見せようとしているらしい。
「『
説明をすると共に、仁万咲来は自らの神力を放出する。
「上から順番に説明していきます。『
『流繊躰動』と呼ばれる神力発露を見せる。
この状態は、春夏秋冬澱織が教えた神力操作に似ている。
その状態から切り替える様に、今度は仁万咲来の神力が放出され、自らの体を覆い出す。
「次に『
『甲城纏鎧』の状態で春夏秋冬式織に打ち込んでみろと手招きする。
それに応じて、春夏秋冬式織は立ち上がると共に、彼女に向けて拳を放った。
「ッ、痛」
そして、その状態で傷ついたのは春夏秋冬式織。
彼女には、なんらダメージすら受けた様子はない。
「続いて、『
先程置いた木刀を持つと、神力をその木刀に与えた状態で投げる。
コンクリートの壁に向けて投げられた木刀は先端から突き刺さった。
未だに、仁万咲来の神力が流れ込んでいる、これが『教理別身』の持続性なのだろう。
そしてその木刀の方に視線を向けると共に、一瞬、仁万咲来の姿が消えた、かと思えば、即座に春夏秋冬式織の前に立つ。
彼女の手には、先程投げつけた筈の木刀が握り締められていた。
「最後に『
高速移動…それは最早、瞬間移動と言うに相応しい速度だった。
「これら四つを以て、四式と呼ばれています」
最後に彼女は締め括る様に、指を春夏秋冬式織に向けて言い放つ。
これが、本来の神力操作による単調発露の仕方であると教えた。
春夏秋冬式織は、これより、この四つを覚える事になるのだが。
それよりも、春夏秋冬式織には、教えて欲しい事があった。
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