第10話 元王子とエレインのその後

 フォックス元王子は、騒動後に辺境に送られ鉱山にて強制労働になった。


 国費に手をつけていたことと、グラード公爵家や他の公爵家がアルステリア王妃を侮辱し貴族の矜持を踏みにじったことを許さなかった。


 何度も脱走を試みてはどんどん鉱山の奥に追いやられて、危険度も増していくので徐々に大人しくなった。

 労働者達に揶揄われ働く日々に屈辱を覚えながらもギリギリ命を落とさないラインで生かされている。

 

 エレインは平民でありながら、王家の婚姻を破談にさせたことと公爵家に泥を塗ったと言う罪は他の貴族に示しがつかないため消せないと言うことで極刑もあり得たが、アルステリア王妃は助命嘆願を申し入れ、生涯出られない厳しい修道院へ送られた。


 修道院で厳しいながら毎日規則正しく暮らしているうちにエレインは自分がなぜこうなったのかを考える。

 男爵家の愛人になった母は

「金持ちを捕まえな!そしたら幸せになれるのさ」

 そう言って男爵に強請ってエレインを貴族中心の学園に放り込んだ。

 最初の頃は苦労知らずの坊ちゃんや嬢ちゃんに苛立ちを感じていたが、自分もあちら側になりたいと思った。

 幸い勉強は男爵家で教師をつけられそれなりの成績を出せたので、あとは良さげな坊ちゃんを見つけようと探してみたものの、ほとんどの貴族にお相手がいた。

 家格や繋がりのこともよくわからないのでどこを狙うのがいいのか心底困っていた。


 学園では結局親しい友人も見つからず、一人庭園でお昼を食べることが多かった。

 そこがたまたま通りかかったフォックス王子と出会の場になった。その時は何も起きなかったが、その後度々庭園に現れる王子と少しずつ話すようになった。

 彼は顔が整っていて同年代から見ればまさしく王子様で綺麗な少年だったので恋心が一気に盛り上がってしまった。彼が王族でお金持ちとかそんなことはどうでも良くなってただ好きになったのだ。 


 王子も女癖の悪さと婚約者を蔑ろにしていることで高位貴族の令嬢には冷たくされ、半端な貴族達には利用価値ありと見られ息女達には下心満載で寄られるだけ。辟易としているところに裏表のない純粋な好意を向けられ、貴族らしさのないエレインに安心感を持ってしまった。


 母親に言われたお金持ちで、綺麗な王子なら幸せにしてくれるとエレインは深く考えず王子に恋をしていた。

 貴族と言うモノをよく知らずに。


 格差のある相手との価値観の違いがわからないまま修道院に入れられた。


 今もここにいる意味が理解できないけど、あの頃より余程心が楽で居心地がいい。


 元王子のことはまだ心に痛みを感じるけど二度と会えないから良い思い出だけ留める。


 母親の愛人である男爵は公爵家へ慰謝料を支払うのに財産が足りず、借金地獄に陥った。母親も男爵に少し柄の悪い者たち向けの娼館に売られた。


 エレインは男爵と母のその後を知らず修道院でそれなりに厳しくも暮らしている。






 ある日鉱山の管理者が気まぐれで新聞を持ってきた。

 毎日同じ作業をしている鉱夫にとって外の情報はちょっとした楽しみだ。

 どっとその場がどよめいて皆が笑い出す。

 慶事の際は軽犯罪者には恩赦がある。


 元王子もやっと新聞に目を通す。


 一面に国王夫妻の写真と王子達が載っており、第五子女児の誕生が発表されていた。

 父も元婚約者も自分が見たことのない優しい顔をしている。

 そして文面は国王の善政と王妃の外交手腕を褒め称える内容で王子達の将来が楽しみだと締められている。

 

 自分の存在がかき消されていくようで虚しい気持ちに押しつぶされる。

 王太子としての責務など周りがやってくれると放棄していた結果自分はついには要らないモノになった。

 自業自得であるとは気が付かないまま、鉱山の深部で虚しい日々を過ごしている。

 

 

 

 

    





 

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