第8話 陛下と私の婚姻式

「アルステリア、君は強いな」


 ぽつりと呟かれましたが強いのではなく覚悟がとうの昔に決まっているのです。


 貴族として生まれたからには責任と義務があります。王家に嫁ぐと決まっていたのだからその座に見合うだけの努力もしてきました。

 今更決める覚悟など必要なくて、私にとって良い選択肢が増えただけです。


 陛下にとって愛のない婚姻だとしても無碍に扱われることはないとわかっていますし、それなりに大切に扱ってくださるでしょう。あの王子と婚姻を結ぶより余程幸せになれます。


「・・・アルステリア、そなたは私と共にこの国を導く光となってくれるか?」

 私の手を取って片膝を付かれます。

「私は陛下と民の盾に、時には剣になりましょう。役割分担ですわ」

 陛下は目を丸くさせて、そのあとたいそう朗らかに笑われました。


 そして私の手にそっと唇を寄せて、

「グラード公爵は怒るか泣くかどちらだろうか?」

と真剣に仰いました。どっちもだと思います。


 こうしてあの王子との婚約破棄から陛下との婚約に漕ぎ着けることに成功しました。


 陛下がすぐに書簡を用意して婚姻の申し込みをお父様にしてくださいました。

 私が帰宅した時はお母様以外がお通夜のように静かに項垂れてましたわ。

「もう!私せっかく幸せを掴んだのにみんなが喜んでくれませんわ」



 

 そのあと貴族会や議会の承認などを経て半年の婚約期間を持ってから婚姻式を迎えました。


「そなたの真っ直ぐな目に私は囚われてしまったようだ。その瞳に常に写していて欲しい」

 愛とかを言葉にだされずとも十分なお言葉を頂けて嬉しいです。


 王城のバルコニーに出て国民に手を振ります。みなさまに見えますかしらね?


 この景色は王太子妃として見る予定でしたが今は王妃として見ています。

 当時は考えられなかったことですが、王子自ら予定を壊してくれたのでより良い今日を迎えられましたわ。


 大広間には家族や他の公爵家の皆様を中心に多くの貴族がお祝いに参加してくれました。お父様たちはもう虚無。可愛がってくださっていた公爵家のおじさま方は普通に祝ってくださっているのにいつまでもイジケて。


 渋好み仲間のミカエラとマリアは自分のことのように喜んでくれています。

「良いですわぁ♡ちょっとミステリアスでお疲れな感じ。激渋ですわ!」

って何故かうちのお父様をベタ褒めです。


「陛下はいい渋さでも高嶺の花ですもの~グラード公爵も手が届かない方ですが見てるだけなら良いですわよねぇ」

 でも聞こえちゃってますから、お父様は顔を覆って乙女のようにテレてましてよ。

 お母様は扇子で隠して大笑いです。


 王家の慶事は久方ぶりでしたので貴族も平民も遅くまで大騒ぎだったようです。



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