第4話 小日向視点

 恥ずかしくて、恥ずかしくて。今すぐにでも面の皮を剥いで、ほとぼりを冷ましたかった。木洩日くんにわたしの剥き出しをみられた。

 なのに彼は、その熱すら吹き飛ばし。日常を裏返してしまったのだ。


 いつかは会ってみたいとおもっていた魔法使いが、目の前にいるという事実に震える。


 やめてよ。期待しちゃうじゃないか。


 毎晩毎夜の夢想は、毎朝の憂鬱に殺され続けてきた。

 やがて願いは形骸化し、憧れの骨格だけが残った。求めは陰り、苔むしていった。


『どうか私を見つけてください』


 そこへ陽の光がパッと差し込むのだから、たまらず目を合わせてしまうのです。


 気恥ずかしさと感激はないまぜになって、涙にも似た発熱が表出する。


 でも、でもね。私みたいな人間は、つど落胆に怯えているから。


 木洩日くんは冗談をいっただけで。さっきの魔法は、トリックみたいなもんだと勘繰ってしまうの。


「ほ、ほかになにか、魔法をみせてはくれませんか!」

「黒猫に見える魔法」


 ぼふんと煙立つ。木洩日くんの像がたちまちに消えて、地には一匹のスレた黒猫。

 人はあまりもの感動に直面すると呑まれると知った。息の仕方をわすれて。うぅ、熱いよ。頭が熱いよ。


 私は。小日向は……。

 いつもを探していました。


「猫に見えるだけ、なんだけれどね」

 頬をつつかれ、黒猫に人を見出した時、彼の姿はいつものモジャモジャに戻っていた。


「あ、あなたは!」

 溢れ出すな。溢れ出すな。決壊しちゃう。溢れ出すな。


 ずっと願っていた。毎日祈ってた。毎晩呪ってた! だからどうか、この言葉だけは。


 しゃんと目を見て。ゆっくり、丁寧に伝えるんだ。じゃなきゃ死ね。


「私をここではないどこかへ、連れ出してはくれませんか」

「んー、ひとまずは、服を着替えに行こうか」

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