第26話最後の訓練

剣は一ノ瀬から教わり、魔法はニコやファナリスから学び、長かった地獄の訓練が終わる。今日の試練を卒業すれば

「にぃちゃんが翔さんですよね、僕、麻木 ミナトといいます。」

まだ小学生だろう子どもが話しかけてきた。初めて見る。

「どこから入った?ここは危ないぞ」

「大丈夫です、僕も試練受けますから」

いやに冷静な子だな。

それにあそこで隠れている奴は?

「あれは僕の姉です、なんか緊張して翔さんと話せないって」

やれやれ困った姉だといった感じで話す。

う~ん、まぁ別にいいが。

「集まったか?」一ノ瀬のおっさんが

現れた。持っていたリュック?を3つ投げて寄越す。

「これは食料とかだな、今日1日夕方までに俺がいる処にたどり着く事、当然その後俺に勝てば試練終了だ」

今さら外の様子なんて知る必要あるのか?正直2人荷物何だが?

「自己紹介したか?」

「いや、まぁこの子とはしたな、俺の事知ってるようだし」

「あんた、アホなの?自己紹介ぐらいしなさいよ」

おっさんの後ろからファナリスが現れて、また、小言を言い出した。

「来なさーい」

ファナリスが男の子と隠れていた女の子を並べて紹介してくれる。

「こちら麻木姉弟ね、この子はミナト君、それでこの子ハル、覚えるか分かんないけど前に迷子になってた子よ」

確かに、どこか見覚えがある。

「オ、覚えてるかな?」と恥ずかしそうに俺ではなく地面に向かって喋っている。

なんか前に見たよりおどおどしてないか?もう少し元気があったような。

「お前、何でココいるんだ?帰ったんじゃなかったか?」

何故か倒れた。倒れてピクピクしてる。

「ア、あんたね、女の子に冷たいしこの子もね色々あるんだから」

冷たかったのか?まぁ初対面で言い過ぎた?のか今度はなるべく優しく話しかける。

「悪い。あー、覚えてるぜ、まぁ、よろしく」

よろよろと立ち上がってくれた。

「時間がなくなる。いいか?これより行く場所では翔は魔法禁止だ」

「はっ?何で」

「試練だからだよ、魔法や権能使うなよ、足で歩けよ。じゃあファナリス頼む」

待て待てまだどこに行くかとか知らされてないんだが

「それー」とファナリスの声と同時に場所が一瞬で変わり森の中に飛ばされた。


あの妖精め。森に居た。

「どうするかな、2人は何か知ってるか?」

一緒に飛ばされた2人に話しかけてみる。

「知ってるよ」とハルって姉の方が返してきた。

「僕らは一応ファナリス師匠から聞いてます。この森を抜けて滝ヘその頂上に転移の陣があるようなのでそこへ行きましょう」

「オッケー、行こう」うん?何か変な事聞いたよな。

「あのささっきファナリスの事なんて?」

「師匠ですね」

「師匠?」

「ええ、僕とハル姉ちゃんの魔法の師匠です」

えーー、あのすんごい俺の事追い出そうとしてたファナリスが?あのうるさい妖精が?

「あ、えー、っと2人は魔法が使えるのか?」

「使えますよ、僕はガイア系統が得意で、砂とか岩とか飛ばしたり隆起させたり、でも一応全部の系統の初歩も使えますので」

「あ、あたしは治癒魔法と花の魔法が使える、ミナトみたいに色々は出来ないけど」

どういう事だ。全系統とか治癒魔法とか。俺はそんなの習った記憶がないのだが?あの妖精。何だ贔屓か?

「翔さんは光の力を使えると聞きました。凄いです。空とかとべるんですか」

「あぁ、光の眷属だから」

「カッコイイ」

その後もなんだかんだ話ながら自分たちに出来る事を教えあいながら森を抜けて滝の下まで着いた。

「ここまで何にもないな」

「ですね」

試練というのだから何か出てくると思っていたが。あとは滝の上にある陣まで行くだけ。

「ねぇ、2人共何してるの?」危ないよ。

「何って川を渡ってん…」

動かん。足が。ミナトの方も動けなくなっている。滝の上から流木が落ちてくる。とっさに剣に光の力を込めようと。

「魔法禁止だ」

どうするか、落ちてくる流木ぐらいで死にはしないがそれは俺ならで、ミナトは無理かもしれん。剣で切るにも魔法が使えない今の剣の届く範囲じゃミナトまでカバー出来ない。

「ミナト魔法でなんとか出来ないか?

「すいません何故か、魔法が使えません」

「任せて私がなんとかしてみる」

ハルが呪文を唱えると周辺の草や木が急成長して流木の落下を防いでくれた。

「助かった」

「ありがと、姉ちゃん」

川にハルが手を当てると足も動くようになる。

「どうして動かなかったんだ?」

「トラップがあったんだと思う。川の動きが何だか縄の様に見えたから」

とにかく助かった。ここまで何もなかったのは油断を誘っていたのか、その後は注意しながら進み、いくつかトラップを避けて歩いた。

「へぇ?速いじゃねぇか」

「2人のお陰でな」

滝の上にあった魔法陣の先に進んだ場所で待っていた。

「さて、全員で向かって来るか?」

「いや、俺だけで倒すよ」

「魔法禁止のままで俺に勝てると?

「そんな分けない。2人にはたっぷり魔法バフかけてもらってる」

「そりゃ、いいな」

30メートルは優にあったハズの距離。

でも、声は後ろから聞こえる。とっさに前に。

頭があった場所に鋭い剣が疾(は)しる。

あっぶねー。殺る気まんまんかよ。

「どうせ、ここで俺を止めらんない位なら早う死んだ方がましじゃろ?教団やら、戦争の神さんとやらにも直ぐに殺されて終わりよ」

言葉が後ろから、右から左から聞こえる。その度に剣の空を切る音が聞こえる。こっちもバフをかけてもらってるお陰でおっさんの動きにも対応出来る。

「避けてばかりでイイのか?」

と言葉で煽ってくる。だが俺は無視。

「翔何で剣で防がないの?」

「それは防げないんだよ」

「どういう事?」

「あの人は剣の神、たぶん打ち合えば一撃で武器が壊れる。今翔兄ちゃんは魔法を禁止されてるんだ。とてもじゃないけど無理だ」

「じゃあ、どうするの?」

「今の状態で1本取るしかない」

そういう事。ミナトのいう通り。打ち合えば終わり。かといって倒すほどまではいかない。1本取るしか道はない。

避ける度に剣の鋭さが増していく届く距離が近づき、全身に刃が迫ってくる感覚でゾワゾワする。隙なんてあるわけがない。次が最後。

その瞬間に叩き込む。と同時に持っていた剣が弾け飛ぶ壊れた残骸が顔に傷をつける。構わず正拳を出す。

ほぼ玉砕覚悟の俺の突きは入るかと思ったが。

「ふっ、当たるかよ」と簡単にいなされ地面に投げられた。

「よし、合格」

「なんで?」

「最後の一撃はいいもんだった。その後の正拳もな」

「とりあえず合格よ合格」

またまたひょっこりファナリスが現れる。どこに居たんだよ。

「まぁ、こんなもんでしょ、老いたとは言え剣神の一撃も受けて更に前進したアンタにしては悪くない」

「もう、良くやったって言えばいいのに」ニコが居る。だから何処に居たんだよ。

「旅の準備は出来たかな」

「2人もよ」


何がなんだか解らず試練は終わった。

前祝いとか良く解らない豪華な会が始まった。

「明日から僕の変わりに世界の粛正の旅に行くけど、準備は?」

「何の?」

「心の?」

「リアルタイムで監視される準備か?

「うるさいなぁ、三人共世界に降りてないんだから案内は必要でしょ」

「案内ねぇ、まぁいいけど」

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