第6話離別

[始、教えてくれない?]俺は誰も居ない事を確認して聞いた。

 あの時に近くに始は居なかった。しかも言い訳があり得なかった。前世の記憶がある俺達は普通の6歳じゃ無い。

 双子の感覚もあるのかも知れないけど遠くに居た気がした。

[翔、あれは母さんなのかな]そう、さみしい顔で言い出した。雪の中ある人と話したそうだ。街の外にその人がいて会いに行ってたと言う。

[待ってくれ、その男?か誰か知らないけど何でそんな事突然言うんだよ]

[あまりにも違うと思わない?昔の母さんだったら僕達が迷子になって見つかった時抱きしめてくれた]、疑問というより確信してる事をはっきりする為に話すみたいだ。でも、母さんじゃなきゃおかしいだろ。

[明日検診があるよね、一人ずつ、僕が帰らなかったら、その時は逃げるんだよ、翔]

[待ってよ、始、母さんはきっと俺達の事で、頭が一杯なんだよ]

 その後、始を説得しようとした。一緒に逃げればいいとも言ったけど、部屋に入れてくれなかった。

 次の朝は久しぶりに家族3人が揃った。母さんは朝からご機嫌だった、研究してた薬の試作品が出来たって、これで僕達の力が向上するからより早く目標が達成するそうだ。始は無表情だった。

 検診に行く始が俺の手に渡したのはミニのトランシーバーだ。検診中の音を聞かすつもりらしい。

 扉が空く音、閉まる音。緊張して聞いていると音が消えた。たぶん通信が切れた。

 会いに行こうかな、検診中は邪魔にならない様にするけど、そう思って部屋の扉の前に行く。開かない?いつもすぐ開くのに。扉は開かない。窓から出ようにも下までが高過ぎて出れない。でも、母さんがそんな事しない。俺や始に何か悪い事するなんて、あり得ない。そうだよ、この扉だって何かの故障とかで、心配しなくても。

 時計の針が気になった。突然また、音が聞こえた。声が聴こえるわけじゃ無い。何か大きな音がしていた。人が騒いでいる?嫌な音がなると切れた、それ以上わからない。

 部屋の入口に人が来た。俺は始が帰って来たと思った。母さんだった。急いで来なさい。

 俺は後を付いてく。部屋に入るといつもより大きな音がする広い場所だ。四角い透明な、いかにも何かを閉じ込める場所だった。そこに始が居た。裸でベッドに寝かされている。始の近くに駆け寄ると穏やかな顔で寝ているようにしか見えない。母さん?母さん!どういう事なの?何で始兄さんが死んでるの?母さんはこちらを見ずに作業を指示していた。

 母さん!!俺は叫んでいた。

[うるさい子ね]そう言った顔は俺達の知っている母さんの顔じゃ無い。別人だ。母の顔をした別人。どうして始を殺したの?

[実験に必要だったから]

 どうしてあんたは母さんの顔をしているの?

[その方が都合が良かったから]

[どうして前の生活を知っていたの?]

[晴香から聞いたのよ、でもね、色々細かく聞いてくるアンタ達にはウンザリしてた、だって私にはそんな記憶無いんだから]、そして指を鳴らす。機械が動き出す。

 大きな唸り声が聞こえ体が重くなる。

 綺麗な燃えるような結晶が下から上がって来た。

[ようやく、実現するわ、長い間待望んだ瞬間が、超次元体についになるの]女は喋る。[その結晶は始から取れたの、翔のも合わされば、忌々しい神さえ超えて]喋る、喋る。

 何もかも全て、母さんがこの世界に来た時、これはチャンスだと思った事、母さんの姿になり俺達を観察した事、始が自分の事を疑っていた事、馬鹿な子供が何も疑わず自分に付いて来た、そして今ここで、自分達の求める形になる事。

[始は母さんがどうして死んだか知りたくて付いて来た、俺は始がどうして行くか知りたかった]ただ知りたかった。家族だから。こいつ等は違った、優しい顔で人を騙す。直ぐにこいつら全員をぶん殴ってやりたい。何で理解出来ないのか。俺達は実験の為に生かされてた。

 結晶がひかり、その熱がどんどん大きくなる、いずれ灼かれる。俺は始を抱きしめる。一緒だ。音が猛烈な衝撃のように鳴ったとき、突然結晶が爆発した、とっさに背中を向けた、結晶が背中を突き刺す、激しく、鋭く、痛みと同時に俺の中にある感情がひきづりだされる。俺は怒っていたんだ。神経が爆発したように感じた。俺が火になった。周りにあった透明なボックスはまるで薄い氷が砕ける様に吹き飛び、猛烈な熱が身体から吹き出す、それは意思を持っているかのように周りに居た施設員全員に、焔の腕になり巻き付く、恐怖を滲ませた顔は炭になる、母の顔をした女は逃げようとして必死に扉を開けようとしている。さっきまであんなに優越感たっぷりで人を見ていたのに?コイツラは何なんだ?異世界人を何かの燃料としか考えてない。いや、薬の材料か。許す必要はない。全てを灼き尽くそう。俺が死んだとしても構わない、もう此処に母さんも兄さんも居ないんだから。紅い熱が拡散し施設を貫く、女の身体ごと。


 そして俺は神様と出逢った。






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