第10話

 食堂には湯川と玲香ちゃんと椎羅さんと姉貴が集まっていた。

 食堂は天井の高い豪華作りで宝石みたいなシャンデリアが上から吊り下がっている。

 テーブルクロスは真紅の赤でどこかの貴族にでもなった気分だ。

 僕らが入ると大きな横長のテーブルにいる湯川に「紀平、ここ座れ」と促される。

 僕は湯川の隣の椅子に腰掛けて、秋名さんは僕の向かい、玲香ちゃんの隣の席に座った。


 テーブルにはカレーが置いてあった。「なにカレーか分かるか?」と湯川が聞いてくる。僕は普段からよく食べているからすぐに分かった。「鯖カレーだ。姉貴はサバが好きなんだ」

「さ、サバっ⁉」玲香ちゃんが鯖カレーにうろたえる。苦手なのかな。

すると湯川が「あ、そうだ。みんなに言っておこう、先ほど佐山のあだ名の候補が上がった」僕が途中でリタイアした『玲香ちゃんあだ名会議』をあれからもずっと続けていたのだろう。呆れるほどの暇人だ。

「といっても候補が3つほど出てな。まず一つ目がミジンコだ」定番だなみたいな空気感が漂う。

 僕はもうツッコミをいれる気にもならなかったのだが、秋名が「え?それって悪口なんじゃ……」と動揺していて心の底から共感した。かつては僕も通った道です。


「2つ目がサヤマンボウ」ははは、おもしろーい。(自我崩壊中)

「ま、マンボウは壁にぶつかっただけで死ぬ雑魚だからねっ!私は壁にぶつかっても死なないからマンボウよりは強いんだよっ!」玲香ちゃんが力説する。ちなみに発案者らしい。もうなんか不憫すぎるよ。


「3つ目がポイポイだ。これは言わずもがなだが、先週まで俺が飼ってた金魚だ!」おい、やめとけ!どっかで炎上するぞ!

 とか思ってたら玲香ちゃんが「雑魚って魚の漢字があるよねっ!」とか嬉しそうに言い出す。だから何だよ!皆まで言うなよ?もう収集つかないから。

「そうね。魚って弱いイメージが強いのかしら。マンボウも金魚もあまり強い気はしないわね」と秋名。

なんかお前キャラ薄いな。いや、良いんだよ?むしろ助かるんだけどさぁ……キャラ薄いな。

 そんな不毛な会議は姉貴の一声で終わった。

「はい、みんな揃ったかな?あれ、金子ちゃん達がいないわ……まあいっか、あとで部屋の前にカップ麺置いときましょう!」それは悲しすぎるだろ。

 姉貴の斬新すぎる思考回路はそのままに僕らは鯖カレーを食した。ちなみに佐山玲香のあだ名は『玲香ちゃん』に決まった。というか僕がそうした。初日からこんなだ。前途多難とはこのこと……。


 僕は普段食べ慣れているのもあって、割とすぐに食べ終えた。食事中は無言でなんか気まずかったというのもある。僕らが無言なだけならまだしも、姉貴と椎羅さんが二人っきりで談笑(いちゃいちゃ)していて気まずかった。


 お通夜みたいな空気の食堂から出て、すぐ部屋に戻ろうと思ったら声をかけられた。

「なあ、一緒に行かないか?」湯川がメガネをクイッと上げながらそう言う。

「いいけどさ、絶対それやる必要ないだろ。」

 湯川はニヤリと口角を上げて歩き出す。

「そういえば、ちゃんと紀平と話したことなかったな」

 確かに。僕から見るとゲームコーナーに張り付いて泣いてた変人のイメージしか無かった。あれ、全然間違ってない。全然間違ってない!

「急に話は変わるが、お前の部屋のエアコン無事に動いたか?」

本当に急に変わるな。

「エアコン?動いてたけど」

 特に気にもしなかった。自分の部屋をまるごともってきてたから全然気にならなかったのだ。強いて言えば、エアコンの型番まで完全に揃えてあって、姉貴のこだわるところはズレていると思ったくらいだ。

「何?本当か」

 やけに食いついてきた。

「湯川は?エアコン動かなかったのか?」

「いや、動いてはいるんだが、まあ来てくれ。そっちの方が早いだろう」

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