第5話
フードコートのカウンター席に座ってラーメンをズズッとすすっていると魚類さんがカツ丼を持って襲来した。
「結局、違うの食ってるわけか。まあいいけどよ。」
「仕方ないですよ。僕は麺が食いたいのに、魚類さんが米以外ありえんとか言うから。」
方向性の違いってやつ。
「おい魚類って言うな。」
魚類ダメなのか。そういえば今まで名前を読んだことがない気がする。てか知らない。
「じゃあなんて名前なんて言うんですか?」
「椎羅だ。椎羅。」
「あー。だからシーラカンスだったんですね。」
「あれはお前のねーちゃんのせいだ。実は昨日クローゼットを開けたら全部あの衣装に変えられてたんだ。」どんなホラー演出だ。
「途中で着替えればよかったんじゃないですか?」
「バカ、あんな格好で店に入れるわけ無いだろ。」
確かに。僕ならそんな自殺行為はしない。
「でも律儀にマスク被る必要はなかったんじゃないですか?」だってそうだ。明らかにおかしいのはマスクだ。確かにTシャツも普通ではなかったが、まだ着れるレベルだったはず。
「それはダメだろ。」
「どうして?」
「だって由梨さんの命令だぞ。私はたとえ他の服がクローゼットにあったとしてもシーラカンスを選んでいた自身があるぞ!」意味がわからん。
ちなみに由梨さんとは僕の姉のことだ。
「判断力皆無の太鼓判を自ら押す必要もないと思いますけど。」
「お前はいいよな。あんなキレイな人が姉で。羨ましいよ。」
確かにキレイではありますけど……あなたも負けず劣らずなのですが。それともあれか、隣の芝生は青く見える的なやつか。
残りわずかのラーメンをスープと一緒に啜ったせいかのどが渇いた。
魚類さんの文も合わせて2つ水を持ってきた。
「どうぞ。」
「おっ、気が利くじゃねぇか。」
魚類さんのカツ丼は残り3分の1。まだ少しかかりそうだ。ということで僕は一人でフラフラしておくことにした。
と言っても大して気になる商品はない。どこもお土産系の商品ばかりだから今買っても仕方ない。
暇だなぁと思いながら散歩していると、ガチャガチャコーナーに明らかに怪しい人物を見かけた。
緑色のリュックサックを背負った痩せ型のメガネをした男がガラスに顔を貼り付けていた。
「〇〇ちゃんごめんよ〜。僕の財力では君を助けることは出来ない。くっ!」と言いながら涙を流していた。やべぇ、やばいやつ見つけちゃったよ。以後彼をオタク君と呼ぶことにしよう。とか勝手なことを思っていると、目があった。
「は!」30年間信仰している神様と出会いましたみたいな顔で僕を見るオタク君。
「え?」嫌な予感が募って今すぐ逃げ出したい僕。
「えっと。なぁ君。少し力を貸してもらえないだろうか。どうにも私は無力でね。このガラスの檻の中にいる彼女たちすら救うことは出来ないんだ。」
やっぱり絡んできたオタク君は意外なことに僕と同じくらいの若さだった。
「ごめんなさい。僕は無宗教なのでそいうのはちょっと。」
「大丈夫だ。にわかオタク以外は大歓迎だ。」にわかオタクは駄目なのかよ。
あー。この人も話聞かない系の人かも。僕の直感がそう告げた。
5分に渡る不毛なやり取りは同じ言語話者かと疑うほどに噛み合わなかった。日本語って何だっけ?
まあしかし、言葉の節々というか先程の光景と合わせると……
「要するに美少女フィギュアがほしいけど、手持ちの財産が尽きてしまったから、見ず知らずの僕にお金を貸してほしいと?」
「まあそうとも言えるな。」そうとしか言えねぇよ。
「もちろん嫌ですよ。」神経の図太さには呆れる。こういう人が社会的に問題を起こすのだろうか。
黙って立ち去ろうとしたら。腕を掴まれた。
「くっ、待ちたまえ。分かった。等価交換だ。」
「君の3000円と俺の5000円の図書カードを交換しよう。本意ではないが仕方ない。これも美少女ためだ。」
うん?それは美味しい話じゃないか?
僕は脳内をフル回転させて損得勘定で計算を始めた。
僕は普段から本を読む。だとすれば、3000円がその場で5000円に化けるだけだ。2000円あれば小説なら3冊近く買えるわけだ。
「よし、君のその美少女にかける熱意に感動した。ぜひとも協力させてもらおう。」
僕は笑顔で承諾した。
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