第2話


姉貴と僕は8歳ほど離れていたためあまり兄弟喧嘩はしたことがない。

僕は常に姉貴が堕落した日々を過ごしている姿だけを見てきた。

やることなすこと後回し。ゆとり教育が生んだ堕落の悪魔。食っちゃ寝してるだけのダメ人間。母親の小言をのらりくらりと避けるのがうまいやつ(残りの不満が全部僕に来てた……)

そう思っていたのだが、なんかすごい成功して帰ってきた。

なんとなく就職して、なんか年金ガッポガッポで旨い肉食ってるらしく、そんな楽に成功してるやつもいるのかと理不尽に思った。でも何故か結婚だけはしておらず、こうして僕にちょっかいをかけてくる。その辺のいい男捕まえてもう早く結婚したらいいのに。少なくともそっちの方が僕も姉貴も幸せだよ。


僕はといえば人生において殆どを失敗に費やしてきた。

姉貴の駄目な部分ばかりを真似してどんどん堕落していった。むしろ何で姉貴が成功出来てるのか知りたい。僕は学校こそ登校していたが、部活も入らず、家で怠惰に過ごしてきた。そのどうしようもない微妙な人生の映像が脳内で流れてきた……。


「てかこれ走馬灯じゃんっ!」

全身汗だくな状態で復活した。危うく半分程あちらに生きかけたぞ姉貴よ。

動悸が激しく、肺がキャパオーバーになっていて、呼吸が苦しい。

「ぜーはーぜーはー。」

多分僕が絶妙に走馬灯を見るように調整していたに違いない。

どうしてそんな事できんのか知らんが。姉貴ならあり得る。あの人はもう何でもありだ。


それはそうと、その姉貴がいない。倒れていた床から立ち上がり。軽くめまいのする頭を押さえる。

床はきれいになっていて、時計を見る限り僕が気を失っていたのは30分くらいだろうか。軽く伸びをして、視線を下に向けると机上の一枚の紙が目に入った。


『民くんへ。

気がついたかな?私の加減だと30分で起きるはずだけど。起きなかったらゴメンね。』


いやいや、全然笑えないが……。


『君には試練があります。RPGみたいでドキドキだねっ!

まずは、玄関に旅行カバンと変なお姉さんがいると思うから、その人について行ってね。

もし、逃げ出したりしたら制裁だぞっ☆(腕パン、腹パン、鳩尾、星になる、etc……)』


怖すぎる。本当に死にかねない。

あと最後の星になるって何?

死んだら星になるっていうけど……えっ?


『あと最後に、民くんにはちょっと頑張ってもらうけど、多分君ならできるからふぁいと!だよ。』


舐め腐った文章に意味不明なくらい上手いモナ・リザが書いてあった。

吹き出しでガンバレーとか言ってる。

姉貴は美術もいけるらしい。


はぁ、もうため息しか出ない。

「それで、なんだっけ?

変なやつが玄関にいるんだっけか。

そんなやつ玄関に入れんなっていう正論はおそらく通じないんだろうな。」


トボトボ歩きながら。玄関を目の当たりにして絶句した。


「へっ、へ、へ、変なのがいるーーーーーー‼」


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