僕のお姉ちゃんがキ◯ガイすぎる‼

庭くじら

第1話


始まりは突然であった。


朝は眠い。それは昼でも夜でも変わらないのだが、朝は眠い。

だからだろうか。眠りすぎたのだ。

時計の針がぐるぐる周り。起きた頃にはすべてが終わっていた。


「はえ?」

僕の間抜けな第一声。どこから出ているのかも興味がない。何なら僕かどうかも怪しい。

それはそうと、部屋の中に居た。知らない部屋ではないのだが、いつもと全然違う。

そう、物がない。

僕が寝ていたベッド以外のものがすべて綺麗サッパリ撤去されていたのだ。

冬は毛がフサフサだった生き物が夏になるとガリガリになっていたみたいな。

同じ生き物で知っているのだが、なんか違う。そんな感覚に陥った。


それは見事にもぬけの殻。UFOが襲来して家具全部もっていちゃったんだよ。と言われても信じられるほど突然だったし、数年ぶりに見るフローリングの床は思ってたより綺麗だった。


「まじかーーーーーーーーーーー。」

意外と低い声が部屋中に響いた。

なんとなくベッドの上の布団をはがして残されたものがないかさがしてみる。


安心だ。安心がほしい。なんでもいい。そうだ。スマホがあったはずだ。


枕をぶん投げ枕元から出てきたスマートフォンを両手で握りしめる。

良かった。こいつは無事みたいだ。

横っちょにおいてある有線イヤホンも無事だった。


「早速電源をつけ……」

充電のマークが赤く点滅して消えた。

「充電器は?」ない。

充電ケーブルはベッドじゃなくて床の上にあったから撤去されていた。

「スマホぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

それはゲームのラスボス戦にて、儚く一縷の希望を残して死んでいった仲間のようであった。


「あー寝ぼけてんな。」

頭をガンガン叩いて、まともに脳みそを回してみる。

もしかしたら夢かも?なんて希望はすぐに消え失せた。

塵一つないフローリングを虚ろな目で眺める僕の姿がそこにはあった。


それから数分後、すべてを諦めた目で1階に降りた。

そして、僕は更に驚嘆した。驚嘆して動揺した。

何もない。

自分の部屋だけだと思っていたら、1階の部屋にも物がない。


「あはは。民くん面白い顔してるね。飛び降り自殺を決意した中年と同じ顔だ!」


朗らかな雰囲気で全然嬉しくないことを言うこの女は僕の姉貴。

低めのサイドテールで印象は穏やかだが、危険思想の持ち主で何を考えてるのかさっぱりわからない。

部屋の中には姉貴の座っている机と椅子とコーヒーだけが存在していて、かなり違和感を覚える。

逆に言えばそれ以外のものがすべて撤去されていた。


「なんだよこれ。」

憔悴しきった僕は安心感を求めて姉貴を問いただす。


「ふふーん。気になる?」

「気にならないやつは姉貴同様に危険人物だ。」

「あらあら、ひどいこと言うじゃない。あっ、でもそれって反抗期の民くんなりの愛情表現なのかなっ!そうだよね!うん、そうしとくね!」


ひどく自己中心的な考えだ。これじゃ僕が何を言ってもプラスに捉えてしまう。ある種ドMなんかよりひどい症状だ。

一旦冷静になろう。


「じゃあ家族は?お父さんとお母さんも一緒に住んでたはずだけど?」

僕は一人暮らしじゃない。家族と住んでいたのだ。その家族すら居ないのは不自然すぎる。


「あぁ、これ。」姉貴は1枚のチラシを床に放り捨てた。その位置だと拾うには姉貴の足元まで行かないといけないんだけど……。


若干というかかなり怯えながら、チラシを見る。

「あなたも今日からマゼランに?!

 世界1週ツアーーーーーーー!!!!」

場違いなフォントでマゼランが見たら気が狂いそうなほど適当なチラシだった。

右端にミッ◯ーマウスのパチもんがいるのも気になる。


「それに私が招待したのよ。親孝行ってやつね。」

「でもよくうちの親が了承したな」世界1週なんて仕事はどうするんだろう。期間がわからないけど休みは取れたのだろうか?


「弱みを握って証拠をちらつかせたらすぐに了承してくれたんだよっ!」無理やりじゃねぇか。何が了承だ。

「お父さんなんか嬉しすぎて天井に輪っか作ってたんだよ!てるてる坊主でも引っ掛けるつもりなのかな?意外と可愛いとこあるよねっ☆」それ自殺用だよッ!お父さんそこまで追い詰められちゃったの!不憫すぎるよ!


「だーかーらー。今、私と民くんは二人っきりなんだぞっ!ドキドキした?」

うん、ある意味ドキドキだ。両親は無理やり海外に飛ばされて、一体僕は何されるんだろう。


姉貴が笑顔でニコリと笑いながら椅子から立ち上がり僕の目の前まで歩いて来た。

そして、抱きしめられた。

「え?何っ?何してんの?」

姉貴の高そうな服の繊維が頬に触れる。

「民くん大好きだよっ」

「は?」

予想外の展開に戸惑う。

「あ、姉貴っ?」

「じゃあ行くよ」

行くって何がだ?何をするって言うんだ?


すると次第に姉貴の力強くなっていった。

「えっ、ちょっとな、何っ。じ、じぬっ、苦しい、ぐるしいっ……」

僕は両腕で抱きしめられた。いや、正確に言えば絞め殺された。

肺が捕まれみたいに苦しくなって息をしようとしたら姉貴にキスされていた。


あれ、吸えない。やばい。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい、息が、いきが……


そうして僕は意識を失った。





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