第20話

 四月、下旬――――。


 春が咲き誇り、うららかなる日々が過ぎていく。

 日本列島全域は無事に桜前線を浴び、それはそれは世界が注目するほどの美しい桜花を咲かせていた。

 彼岸屋では桜祭りが今宵開催される。その準備に勤しむのは、当旅館の若旦那である鳴と、付き添いの晴だ。



 どこからか迷い込んだ桜の花が一輪、晴の掌に乗った。晴は隣で祭りの準備を指示している鳴の耳元にそっとそれを差し込んだ。

 花のような笑顔が、晴の目を真っ直ぐ映した。柔らかい風がふわりと彼らの頬を撫でる。


「……んふ、なんですか、晴?」



 ――――綺麗だ――――。



 言うことはせず、ただ晴は柔らかい春の兆しのような微笑みを、鳴へ向けるのだった。

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