四者会談②
「…………は? 救、世……主?」
いきなりの予想外の単語の出現に今度こそ度肝を抜かれてしまったのか、あんぐりと口を開けて馬鹿面を晒してしまう騎士様。うんうん、わかります。救世主ってなんだよって思いますよね(経験者談)。正直、今のわたしだって、全然わかってませんからね。
「【
「なる……ほど。【
最後、一言付け加えたくなった気分はわたしにも共感しかないので、思わず頷いてしまった。一方、ユディスの話はまだ続いているようで、腕を組んで思いきり眉間に皺を寄せてしばし考え込んでから、少し躊躇いがちに口を開く。
「そこで、提案なのですが。あなたたちの目的地がセラムスだというなら、そこまで我らも同行させて頂きたいのですが、いかがでしょうか?」
「――まず、確認を。『我ら』、とは誰でしょうか。貴男に仲間がいるのは先程聞かされましたが、具体的に何人いるのか素性はどういったものか。その辺りを明らかにしてもらえなければ、『いかがでしょうか?』もなにもありません」
「ああ、道理ですね。私の仲間たちについてですが、ひとまずここアダンにいるのは他に四名ほどです。もちろん、本来はその十倍ほどはいるのですが、あちこちに散らばっているので同行することになるのはこれだけになりますね。彼らの素性については、基本は私と同じように王国の元騎士や兵士たちですが、中には彼らの妻や娘だったり、あるいは帝国に対して不満を持っている民たちが一部含まれていたりはします」
淀みない彼の説明を黙って聞いていたシアだったけれど、不意に口元を皮肉げに歪めると、
「それだけの人数を揃えているなら、相応の活動資金が必要なはずですね。さて、どのように資金を調達しているのでしょうか? よもや城からこっそり持ち出した王家ゆかりの財宝を売却していたり、なんてことはありえないでしょうから……そう言えば、
まさに魔女そのものの邪悪な笑顔で目の前の好青年(?)を威圧してくる。その様子を頼もしげに黙って見守っている【
「それは――参りましたね。痛いところを突かれてしまいました。ええ、確かに資金繰りは一番頭を悩ませているところで、仕方なく……ではありますが。盗賊まがいのことをして糊口をしのぐことが、ないわけではありません」
その威圧に負けたのか、苦渋を噛み殺すように眉間の皺をさらに増やしながら、自らの悪行を告白してくるユディス。彼はそこから、ですが――と絞り出すような声を吐き出すと、三度こちらに顔を向けてきた。
「アデリア様に誓って申しますが、罪なき王国民に危害を加えたつもりはありません。我らが襲ったのはあくまで帝国の商人、あるいは進んで帝国に
「……元より、ただひとり戦禍から逃れ無様に生き長らえただけのわたしに、あなたを責められる権利はありません。その上で、その言葉信じたいと思います」
「ありがとうございます、王女殿下。騎士として、その言葉嬉しく思います」
精一杯王女らしく振る舞うわたしに、ユディスがわざわざ片膝を突く
「……たとえ王女殿下には問題なくとも、私としては言いたいことがないわけではありませんが。まぁ、いいでしょう。そちらに問題はないとして、ではもう一度聞かせてもらいます。私たちが貴男たちの同行を必要とする理由があるのですか?」
「そこは、こう考えて頂ければよろしいかと。おそらく、セラムスまでの道中で悪党の仲間たちの襲撃があることが予見されます。その際お三方以外に対処できる人員がいれば心強いのではないかと、私としては愚考する次第です魔女殿」
「ああ、つまり貴男はこう言っているわけですか――」
くすり、と銀髪の魔女が邪悪な笑みを閃かせる。
「自分たちが護衛としてついていくから、その代わりに
「……解釈は好きなように。私としては、ただ真摯に同行をお願い申し上げるだけですから」
暴君に仕える騎士の鑑のような態度を取り続けるユディスに、やり取りを見守るだけのわたしも思わず応援したくなってしまっているのは、人として自然な反応だと思うのだけど果たしてどうなのか。永遠に答えの出ない問いだとも思うけれど、どうやら魔女様の方の答えは出たらしい。
「成程。では、私の好きに解釈させてもらうとしますが。それは兎も角、そこまで同行を願うというなら、構いません。好きにするのがいいでしょう。――【
「ああ、僕も特に問題ないからそれでいいよ。王女様も、問題はないよね……ですよね、じゃないとマズいのかな?」
「あ、はい。わたしもそれで異存はありません。……今更ですから、無理に敬語じゃなくてもいいですよ、【
わたしにまでお鉢が回ってきたのにびっくりしながら、素直に答えてみる。……いやまぁ、冷静に彼の素性とかを考えてみれば
「……ありがたきご厚情賜り、感謝いたします。それでは話もひとまずまとまったと言うことで、あまり長居するのも失礼ですし私はこれで失礼させて頂きますが。合流の手筈は、いかがいたしましょうか?」
「そうですね。それでは、明日の蒼の刻(※午前十時頃の意)に西門の前で、ということにしましょう。ああ、もし遅れるようならその時には置いていきますから、そのつもりで」
最後にシアが付け加えた宣告に、苦笑を浮かべながら了承の旨を伝えたユディスがそのまま――わたしに一礼してから――客室を出て行ったことで、四者会談は無事終了となったのだった。
つまりそれは、わたしに対する
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