早撃ちロシアンルーレット!

 人通りの無い道を歩いていた。

何か目的があったわけじゃなくって、ただ静かに歩きたかった。

冷たい空気が肺を埋める感覚を感じながら歩く道は随分と広く見える。

「ね、お兄さん」

ほけほけと歩いていると、少女の声が聞こえてきた。

声の方向を見ると、三つ編みにしたおさげで遊んでいる少女がいた。

体は少女であったが、双眸は随分と挑発的で、随分とませているように見える。

「なぁに?」

嘲笑うような色を含んだその瞳に視点を合わせると、少女は私の胸に何かを押し付けてきた。

慌てて受け取ってみると、橙と青で塗られたおもちゃの銃がてらてらと日光に当てられて、目を潰しそうな程眩く光っている。

「これでね、あの人撃ってほしいの」

「へ?」

 少女が小さな指で指した方には、また随分と目の死んだ、そしてボロボロの服装の青年が道の反対に立っていた。

彼が両手でこちらに向けているのは、私と同じおもちゃの銃。

だが彼の肩に入っている力は筋肉を限界まで緊張させていて、私の目からでも震えて見える。

「どっちかの銃には弾が入ってるの。当たった方が負けね」

 困惑する私を置いて、立つように催促する少女は相変わらず鈍く炎を映す瞳で私の方を見てくる。

諦めて青年の方を向くと、急に乾いた発射音が私の耳をつんざいた。

「え、なに?」

 処理の終わらない程の情報量に、きょろきょろと周りを見渡すと、自分の胸が急に痛んだ。

青年の銃から白い煙、私の胸から青い痛み、胸を触った手の赤色。

「あー、早いよぉ」

 遠くの方から少女の声が聞こえる。

これはなんなんだ、とかおもちゃじゃないのか、とかいろんな言いたいことが脳の中を反芻していく。

そしてそれを超えるほどの痛みが思考を塗り替えた。

 仰向けに倒れた私の視界には、もう青い空しか見えない。

続く激しい痛みと、手につく多量の血液。

段々と染みていく赤色が、もう背中の方まで浸してしまったみたいだった。

 青年は私を撃った後どんな顔をしていたんだろうか。笑っていたんだろうか。

 血液はヘモグロビンが酸素の多い肺に行くことで血液中に酸素を入れることができるらしい。

血管に血を戻さないと、なんてすでに酸素のない馬鹿な思考で、無理矢理胸を掻き血を小さく開いてしまった穴にしまおうとする。

だがそんなことは不可能で、脳の裏から始まったじわじわと底冷えていく感覚が、全身に回っていく。

「死にたくないなぁ」

案外喉はまだ動くみたいだった。

 もう少女の声も青年の荒い息も聞こえない。

 ふと自分の手を見ると、深い赤が私の視界を灼いて、黒々しく見えるような感覚さえしてきた。

空の雲は全く動いていないみたいだ。

遠くから救急車の音が聞こえてきた。

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