灰色の天井
教室の天井は灰色いのだと、ふと思った。
硬い凸凹した床に倒れ込んだ自分には、こんなちっぽけなことにも気づけなかったんだな。と一つ心が背伸びする。
大きく肺が上下している。手足の先が痺れる。思うと自分は随分とここで過呼吸を起こして倒れていたようだ。
金縛りにでもあったかのように動かない体は、自分の矮小さを頭に叩き込んでくるような薄汚れた灰色のみを視界に入れてくる。
思えば、自分は何が駄目だったのだろうか?
何に、忌避感を抱いていたのだろうか?
酸素が減って逆に冴えてきた頭が自分の過去を反芻させる。
何年もの付き合いの友人と、出会って間もない知り合いのように理解が出来なかった。掛け違えた心のボタンが、自分の首を一段と苦しく詰めてきた。
スマホに出るメッセージのポップアップに恐怖を抱いたのはいつだったか。トーストの一口目を酷く醜いものだと思ったのは....
呼吸の薄く切れるようなか細い音だけが自分の耳を通る。
「ここで反応してほしかった」なんて自分の感情への愚鈍さがまざまざと映されるトーク画面が未だしっかり見れない。私にはあなたの気持ちは分からなかった。
消された会話。忘れた会話。謝罪で終わった会話。
重々しく無機質なそれらが自分の肩を抱いて話してくれない。
酸欠で碌々動かない体をどうにかして動かそうともがく。体の揺れに合わせて涙が散った。
肺が大きくへこんだ。無理矢理呼吸をしようと体が勝手に咳き込む。
天井は未だ灰色く鎮座している。
その灰色は帰り道の自分の視界みたいだった。
天井は、墓場の塀の色で公園の影の色で自分のリュックを重くする圧の色みたいだった。
涙が頬を通り、耳を過ぎ床に着いたようで、頭がじんわりと暖かくなってくる。
呼吸は依然として浅く深くを繰り返し、手足はあいもかわらずモザイクのようにジリジリと自分の体の形を隠している。
白目を剥いた自分の視界には、もう天井ではなく薄らとした灰色だけ。
半端に開いた口からあ、ともか、ともつかない音が漏れた。
閉じた瞼の裏では、懐かしい同級生が倒れた自分を囲んで何か話をしている。
もしかして私は授業中に倒れたんだろうか?
気がついた時には灰色と対峙させられていた身だが、もしかしたら瞼を閉じた世界はただの学校生活なのかもしれない。
そう、信じて目を閉じた。
「先生ー!こっちです!倒れちゃったみたいで」
思惑どうり、瞼の裏の世界で私は倒れたようだ。
何人かの生徒が少しこちらを伺いながら机に向かっている。私の足元には倒れた椅子が転がっていた。
教員と生徒が走ってくる音が聞こえる。
意識が戻ったのに、倒れ込んだままなのもバツが悪いなぁと上手く力の入らないてに力を入れ起き上がる。
「もう大丈夫ー!」
そう言いながら自分の右腕を見た。
目があった。
私の右小指を掴む赤子の
黒い瞳孔。
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