第33話・話し合い
「ヴィルジール⋯⋯」
お、おいおい⋯⋯どこまで計算通りなんだよあの幼女は。
この男が、幼女が言っていたヴィルジール・バディストだって?米の到着を待つ為だけに案内された家の主が?
⋯⋯いや、待てよ?そうなると少し妙だな。
幼女は『この街に着いたら、彼に声を掛けろ』的な事を言っていたハズだ。つまり、俺の自己努力が必要ないこの現状の想定はしていなかった、という事。
⋯⋯ハクゲン、そうだハクゲン!
幼女は、この名前を出して的な事も言っていた様な?あの幼女の事だ、事細かに想定をしていたに違いない。
と言うことは、ヴィルジールと俺がこの瞬間に出会ったのは、俺の幸運⋯⋯ってことか。うほ、こりゃあすげえ。
「ちょ、ちょっとどういう事よ!」
「うむ、ここでは目立つ。入るぞ」
えぇ⋯そんな自分家みたいに上がっていいのかよ。
まぁ確かに、玄関先で解決する話題ではないとは思うが⋯⋯。仕方無い、どさくさに紛れて俺も上がらせてもらうか。ボインなお姉さん、困惑してるとこ悪いけどサンクイラちゃんの事よろしく。
「⋯え?アタシに?」
「グルァ」
うし、受け取ったな。
相槌はしたし、俺も早く上がらせてもらおう。
お邪魔しまーす。
「⋯⋯ガバン。確認なんだが、ソイツが例の増援という認識でいいのか?」
「あぁ。魔物を街に入れる事自体は、ゼクスの面々が揃っている現状として問題無いと見ていた。⋯⋯君が聞きたいのはソレでは無いだろう?」
「フッ、見抜いてくれる」
うーむ、ガバンとヴィルジールが何か話しているな。
なにやら俺の事を気にしている様で、会話の合間にチラチラと俺の方を見ている。少し気味が悪いが、まぁコレも美味しいご飯の為だ。無視無視。
⋯にしても、広い家だな。
本当に別荘か怪しいまである。今までずっと野宿だったというのもあって、かなり羨ましい。ここに来る途中の道で何度も鍛冶屋らしき店を見た。置いてある家具も相当な品質だ。
だが、幼女は錬金術が発展している街だと言っていたような?
見た感じ、職人の街っぽいが⋯⋯
「珈琲しか無いが⋯⋯いいか?」
「い、いや。私は遠慮しておく。⋯彼にでも振舞ってくれ」
⋯彼って俺の事か?
俺だって毎日の様に珈琲飲んでるし、ぶっちゃけ断りたいんだが。あとガバンの反応からして、評判悪そうな感じだろ。
野郎、ヴィルジールに気を使って自分の代わりに俺を犠牲にしやがったな?よかろう、俺がテイスティングしてやろうじゃないの。不味かったら、後でイチャモンつけてやるがな!
「珈琲なんて魔物に与えてもいいのか⋯?」
「問題無い。⋯珈琲自体はな」
ホラ、絶対に美味しくないやつじゃん。
普通、最後まで察せなくてブフォ!みたいな流れになるだろうが、コレは流石に気付くぞ?
珈琲自体は、と付け加えたという事は、珈琲の味自体は不味くは無いのだろう。⋯つまり、ヴィルジールの淹れる珈琲に問題があるのか。
「そうか、なら良かった。珈琲には自信がある。知り合いから貰ったんだが、コイツが美味いんだ」
「⋯あぁ、珈琲はな」
すげぇ、ヴィルジール気付いてねぇ。
ここまで遠回しに言われてて、よく勘づかないな。やっぱり、冒険者って変わり者ばっかだな。
「まあ、座れ。詳しい話はそれからだ」
「⋯ふむ」
ガバンが顎髭をさすりながら、案内された部屋を見渡す。
ここがダイニングというのは見てわかるんだが、食卓には、食べかけとみられる料理が並べられている。
まだスープから湯気が出ているのを見ると、どうやら食事の最中に訪問してしまったらしい。ガバンも少し申し訳なさそうな表情だ。しかし、かくいう俺はと聞かれれば⋯⋯
「⋯ゴクリ」
「なんだ、食いてぇのか?」
久し振りにちゃんとした飯を目の当たりにして、喉を鳴らしていた。転生してからというもの、調味素材を駆使して味付けをしていたが、やはり素人のクオリティ。
パンとスープ、そしてポークビーンズっぽい料理は、他人の料理に飢えていたと証明する様に、俺を釘付けにした。
れっきとした『料理』。
ヴィルジールは笑いながら料理を提供してきたが、ここでがっついては格好がつかない。⋯⋯と、自分に言い聞かせてなんとか堪えているが、コレはキツい。
「遠慮すんなってば。⋯⋯なんだガバン、ギルドから配られた情報より、ずっと可愛いヤツじゃないか」
「ハハハ⋯⋯」
くっそぉ!そんな温かい目で俺を見るな!
あー⋯もう、冷める前に食べてしまおう。うん、それが最善の答えのハズだ。
「いただきます」
よーし、食うと決めたからには遠慮しないぞ。
まずはスープから⋯
「ちょっっっ⋯⋯と、待て」
「⋯なんだよ」
「しゃ、喋れたのか?おいガバン!」
「おや、言っていなかったかね?ギルドから出した書類の中には、高度な知性を持つと明記していた筈だが」
「いや、確かに書いてあったが!」
あーもう、冷めるから無視して食べよう。
まずは玉子のスープからだな。具材は玉子の他に、玉ねぎと⋯⋯なんか葉っぱだな。イイ香りだ。
どれ1口⋯⋯
うーん、美味いな。少し塩気が強めに効いている気もするが、昼食というのもあるのだろう。濃いめの味付けでも不快感は無い。
この緑の葉っぱの役割も大きい。
芯の部分がスープを吸っていて美味い。おでんで言う所の大根みたいな感じだな。葉の部分もしんなりしていてイイ。
「どの程度だ、コイツの知性の高さは!?」
「ふむ、人間と同等⋯いや、自らの力で台車等の道具を作成しているのが確認されているのを含めると、人間より⋯⋯」
「⋯マジかよ」
お次は、ポークビーンズだな。
切り分けられた食パンが分厚いのは、冒険者の癖だろう。運動量が多ければ、必然的に必要食事量も増える。無意識にこの厚さに切り分けたと見た。
目測で⋯⋯そうだな、3cm程か。
まぁ俺の口の構造上、造作もなく食べれるが。⋯さて、ポークビーンズをパンに乗せてと。
う〜〜んまい。
「おい見ろ、スプーンを指先で使っているぞ⋯⋯」
「ほぉ、鉤爪を指の代わりにしているのか。器用な事だ」
この豆がホクホクでイイな。
500円玉程のサイズでかなり大きく、異世界飯っぽくて好きだ。肉も柔らかくて抵抗が無いし、調理者は中々の腕前だな。
さっきの蒼髪のお姉さんか、もしくはサンクイラちゃんか。
くそぉ、このヴィルジールという男、美女2人に囲まれてるなんて楽しそうな生活しやがって。
「ふぅー⋯サンクイラったら脱力しちゃって⋯⋯」
「おいシルビア見てみろよ、すげぇ光景だぜ?」
おっ、さっきの女の人だ。
シルビアって名前なのか⋯って、うわ、そんな目を見開かせなくてもいいだろ。
そもそも食事中の人を見世物みたいにジロジロ見るんじゃない。飯に集中できないだろうが。
「⋯⋯なに、この魔物?なんで人間みたいに食事してるワケ?」
「ハハッ、それだけじゃないぜ?なぁ、銀槍竜」
「どーも、シルビアお姉さん」
「ッ!?」
おー、エエ反応するのお。
後退りなんかしちゃって、反動で胸が揺れてるぜ。
「⋯ハァ、驚くのも疲れたわ。さっさと説明してちょうだい」
「なんだシルビア、話題の銀槍竜が目の前にいるんだぜ?もっと関心持てよ」
「うっさいわね、情報が多すぎて混乱してるのよ。一々反応してたら倒れちゃうわ」
「つれねーなー」
⋯うーん、夫婦かな?
並の男女の距離の近さでは無いが⋯⋯。ハッ!?サンクイラちゃんて、そういうコトなのか!?2人の子供なんか!?
なんてヤツらだ!
見た感じ20代後半で、俺より少しだけ年上に見えるのに子供がいるなんて!⋯⋯あ、いや、バルドールの例を忘れていた。あの人、見た目より遥かに歳いってたし、この2人も同じかもしれん。憶測のみで判断するのは二流だな。
俺は一流のグレイドラゴンだぜ。
「ヴィルジール⋯⋯さん、とシルビアお姉さん。年齢は?」
「⋯何故、魔物のアナタがそんな事を聞くの?」
「え、興味⋯?」
「⋯変わり者ね。アタシは30、彼も30。⋯コレで満足?」
三 十 路。
こ、この2人が30歳?この見た目で?ちょっと信じられんなぁ。バルドールを経験しているので、ある程度は覚悟していたが⋯⋯やはり凄いな魔力って。
というかタメなのか、この2人。
シルビアの方が数歳下かなと予想していたが⋯⋯俺の洞察力もまだまだだな。
「⋯さて、雑談はこの辺で一旦中断もらおう」
俺が内心首を振ったタイミングで、ガバンが口を開いた。
先程と違い、真剣な表情で言葉を発したガバンを見て、シルビアもヴィルジールも同様に真剣な眼差しを彼に向ける。
俺は食事を止める気は無いので、食べながら話を聞く事にする。⋯というか、俺の事情の説明を行うのだから、俺本人が話に混ざる必要はあまりなさそうだな。米が来るまで居させてくれという内容だけだし。
強いて言うなら、さっきガバンが言っていた『大きな戦』につい話すくらいか?
「シルビア君。まず第一に、彼こそが、私の言った増援だというのを伝えておく」
「な⋯⋯特別監視個体とは言え、増援がグレイドラゴン1匹?冗談キツイわよギルドマスター」
「この場で冗談を言う私だと思うかね?」
あれま、正論。
ガバンもシルビアもどっちも正論だな。話を聞いた感じ、人間サイドの戦力はかなり少ない。増援が来ると期待させておいて魔物一体だけだというのは、許容しがたいよな。
ただ、トクベツカンシコタイ?
特別、監視、個体って事か?⋯俺ってば、人間の方では有名な魔物になっているのか。今のうちに人間に害は無いとアピールしておくべきだな。
でないと、冒険者が日常的に殺しに来る事態になるかもしれない。それだけは回避しなければ。なにせ、防衛の為のはいえ人間を殺すのは気が引けるし。テュラングルから力貰ってからというもの、俺は力の加減が上手くできないしな。
せめて、加減ができるようになるまで猶予期間は欲しい⋯⋯
⋯って、なんで敵対する前提で考えているんだ俺は。平和的にいこう、平和的にな。
「それにシルビア君。この銀槍竜を、グレイドラゴンの上位種程度だと認識しているのなら、その考えは改めてくれたまえ」
「⋯なんですって?」
「フフ⋯⋯私の口からどう説明しようが、君達の様な者には伝わるまい。つまるところは⋯⋯銀槍竜」
「⋯⋯?」
えっ、何その目は。
ヴィルジールも『成程な』みたいな表情で頷いてるし。話を聞いていた感じ、俺が想定できるのは─⋯
⋯─まさか、
「君の実力を示して貰おう。⋯⋯彼女を相手に」
「はぁ⋯そういうコトね。いいわ、加減はしないわよ」
な⋯⋯なな、な⋯ッ⋯⋯
「なんですとぉ──ッ!?」
かくして、銀槍竜対ゼクスの実力調査という名のガチンコ対決が、突如決定。当事者である俺の悲痛な叫びは、街の外で待機している虎徹を飛び起こしたのであった──⋯
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