第31話・勘違い。
「アレが─⋯」
8月10日、ついに目的地であるベルトンを発見した。
まだ1km程距離があるが、今日中には到着できるだろう。適当な木に登り、高い所から周囲を確認したかっただけだが、既にここまで歩き進んでいるとは思ってはいなかったな。
⋯⋯にしても大きな街だ。
木の上に登っていたお陰で、街の全体図がなんとなく見える。街の周囲が壁に覆われているのは、魔物の侵入を防ぐ為だとして、それを除いてもかなりの広さだ。
どうやら楕円の形状に創られている街らしく、平たい山の様に中心が盛り上がっている。そしてその中心には、城の様な建物が立っているっぽい。⋯⋯見た感じ、3階建てか?
あーゆー建物があーゆー位置にあるという事は、王様でもいるのだろうか。⋯⋯イイね、中々異世界っぽい。
「ふーむ、問題もありそうだな」
「クエッ?」
街へ入る為の門の所に、人影が見える。
竜の視力ならこの位置からでも目視は可能なのだが、門の前に、武器を持った衛兵らしき人間が2人居るようだ。
加えて、街を護っている壁の上部に大砲が設置されている。
つまり、あの壁には人が入れるスペースがあるという事か。⋯もしもの事を考えて、衛兵の総数を確認して起きたいな。
⋯だがまぁコレは後ででもいいか。
問題は『もしも』が起こった場合だ。人間に危険因子と見なされれば、どう説明しようが街へ入る事はできないだろう。
衛兵を倒してしまっては、余計に危険視されてしまう。
⋯なにより、あれだけデカい街だ。そりゃあ居るだろうな、冒険者。
基本戦闘力は分からないが、仮にバルドール並の冒険者が数人いた時点で、俺は撤退を余儀無くされる。⋯⋯というか、逃げる前に殺されそうだが。
「⋯⋯ハァ仕方ない」
あんまりしたくないが、ここは徹底的に媚びるか。
出来るだけ動物的に⋯⋯。いや、理性的な方がいいか?
兎に角、雑魚っぽい雰囲気出して接せればいけるだろ。
街に入っても即座に対応出来るって思わせとけば、イける気がする。
⋯⋯フッ、日本のリーマン舐めんな。
社会に出てから、俺がどんだけ頭下げてきたと思ってる。衛兵なんてチョチョイのチョイよ。
〖チョチョ⋯?〗
「余裕のよっちゃんってコト」
〖ふぇ???〗
⋯⋯伝わらんのか、コレが。
ったく、異世界なんてのは愉快で退屈な所だな。⋯⋯まぁ全部引っ括めて気に入ってるけど⋯⋯なッ!
木の頂上から飛び降りて、俺は台車に手を掛けた。
着地と同時に、虎徹が荷台にバウンドして乗るのを見ると、大分肝が座ってきた様だ。
前までは、頭に乗せて少し速度を出しただけで悲鳴上げてたからなぁ⋯⋯
「よ〜し、よしよしよし⋯」
〖アッ、それズルい〗
お前は実体ないだろ。
あったら虎徹みたいに撫で回してるわ。
〖ホント?〗
「⋯⋯勿論だが、実体になれるなんて言わないよな?」
〖うん、なれない。⋯⋯けど、うれしい〗
おぉん。
仮にコイツが美少女だったら惚れてるんだがな〜⋯。いや、ショタも嫌いじゃないが( ◜ω◝ )
「さぁ、進むぞ。いざベルトン!待ってろよー」
〖えっ、なに今の顔〗
よーし、細かい事な気にするな。
楽観的に行くとしよう。⋯美味い飯とかかんがえながらな。
まずやるべき事は、金銭の入手だな。
うし。テュラングルの鱗、有効に活用させてもらうぜ。
〖む、無視しないでよ!なにさっきのキモい顔!〗
「いくぞーーー」
NOW LOADING⋯
「⋯⋯⋯よォ、白龍」
魔王は静かに口を開いた。
彼の視線の先には、全身に血が滲んだ
「チッ、手こずらせやがるぜ」
「⋯⋯悪いね♪」
幼女のジョークに、魔王は『フン』と鼻息をした。
下らないが、それ以上に目の前の存在が気に食わなかった。まるで朽ちた大樹の如き有様になりながらも、生にしがみついて離さない彼女に、怒りが大きく増す。
だが、魔王も理性を持った生物。
一時の感情に左右される程、矮小な器の持ち主では無かった。
「お前とは、いずれ決着をつけてやる。⋯⋯だが、今ではない」
「フフ、勿体ない。チャンスなのに」
再び舌打ちをしてから、魔王はその場を立ち去った。
その内心は怒りに満ちていたが、それとは別に、彼は思っていた。
─本当にチャンスだったら、既に殺っている─
魔王は溜息を零しながら、右手をかざした。
何も無い空間にかざされたその掌から、黒い霧を生成。その霧は、意思があるかのように蠢いて形を成した。
それは、門。
魔王は、暗闇の中へと消えていった─⋯
「⋯─やれやれ」
残された幼女は、地面に仰向けに寝転んだ。
空は見えない。眼前に広がるのは、真っ暗な闇だけ。
それはまるで、自身の行く末を暗示するかのような⋯⋯
「う〜ん!もうっ、らしくないぞ!私!」
勢い良く身体を起こした幼女は、全身から出血をした。
しかし、幼女が目を瞑ると、瞬き一つをする間に傷は塞がり、血で赤黒くなっていた肌と髪は、元の美しい白さを取り戻していた。
これは魔法では無い。
ただ純粋に、彼女が回復に意識を集中させただけだ。だが、それだけで全身の傷は完治していた。
「⋯⋯おや、もうベルトンについたんだ。⋯いよいよ私の運命の分かれ道って所かな」
独り呟くと、幼女はその姿を龍へと変える。
繊細な輝きを放ち、神々しくも力強い覇気を持つ純白の龍は、ゆっくりと羽ばたいたのだった──⋯
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