ありがとうを何度でも1

 新幹線と電車、そしてバスを乗り継いで降りた所は、俺達の故郷だった。風と潮の匂いが強い街。終着のバスの営業所で降りると、8月のひりつく様な暑さが襲ってくる。汗が流れて辛そうにしていると、たえが何故か嬉しそうに俺の汗を拭ってくれる。

 少し恥ずかしそうにしながらバスのステップを降た先には俺達を待っていてくれる人達が笑顔で迎えてくれていた。


 俺達は彼らに向かって小さく手を降る。


「楠木!!柊さん!!」俺の声に手を降る楠木と優しく微笑む柊さん、楠木の後ろに隠れるようにして、そこからそっと顔を出すポニーテールの小さな女の子。多分あれは楠木の長女のつくしちゃん。俺達が会ったのは生まれたばかりの頃だったから、何年前になるのだったかな?もちろん俺達の顔なんか覚えている訳もない。こちらを覗き見ては、不安そうな顔を覗かせている。

「お帰り、そんでもってお疲れ様」拳と拳を合わせるグータッチをする俺と楠木。


 たえと柊さんはキャーキャー言いながらハグをしている。よほど嬉しかったのか、何故か、たえが泣き出してしまい、柊さんに抱き締められながら「本当に良かったね?」と頭を撫でられていた。


 少し落ち着いた後、楠木がつくしちゃんに俺とたえを紹介してくれた。

「良いかい、つくし?こっちがパパのお友達のまことお兄ちゃんとたえお姉さん」

「知ってりゅ!!パパのお友達のまことと、たえちゃんね!?」少しだけ恥ずかしそうに舌ったらずに話してくれた、つくしちゃん。

 うん、俺は呼び捨てか~?いや別に良いんだ、良いんだよ楠木?


 たえの方を見ると、顔が緩みきっていて、今にでも、抱きつきそうで、「たえ、急にだきついたりすると嫌われるぞ?」と牽制すると、「もっ勿論分かってるわよ」ふーんだと、少しだけ悔しがりながら俺に向かって舌を出した。


 恐る恐る近づいてきた、つくしちゃんは、

「パパや先生が言ってたよ?たえちゃん可愛いって」そう言って、にぱっと笑う。


「つくしちゃん、駄目もう、離してあげない」たえは、ぎゅっとつくしちゃんを抱き締める。まずい、つくしちゃんが補食されてしまう。


「こらこら、待て待て!!つくしちゃんを絞め殺す気か!?」慌ててたえを止めようとするけど、うっとりとした顔をしながら、つくしちゃんを抱き締めて頬擦りするたえは、幼女を離そうとしない。


「たえちゃん、くーしーよ苦しいよ」つくしちゃんの言葉に慌てて離すまでの数分、抱き締めていた、たえの脳天に軽くチョップを入れて、つくしちゃんの頭を撫でる。


「大丈夫かい、つくしちゃん痛くなかった?」


 とたんに、トテテと慌てて俺の手から離れて楠木の後ろに隠れるつくしちゃん。


 俺、軽く凹む。


「パパが、まことはすぐに女の子の頭を撫でりゅ。あいちゅはタラシだ。って良く言う」


 凄く警戒した顔をされた……しばらく立ち直れないかも?

「ねぇパパ?所でタラシってなに?」たえと柊さんがそれを聞いて爆笑していて、楠木がバツの悪そうな顔をしている。


「楠木……後で話あるから……」楠木のその時の顔から察するに、俺はかなり怖い顔をしていた様だった。


「後で、覚えとけよ」我ながら、どこのチンピラだよと思った。



「それはさておき、どうするんだ?この後」出来れば、さっきの事はさておきにして欲しいらしい楠木は、にこやかにひきつった笑顔で話しかけてくる。


 それをジト目で見ながら、

「取り敢えず、俺の実家に行くつもりだけど……まぁ、二人とも忙しい中迎えに来てくれたんだからな、礼を言っておくよ。ありがとうな」


「まぁ、久しぶりに会う友の為だ、これくらい何でもないさ」そんな風に言われれば、いつまでもグチグチ言ってられないか?

「喉が乾いたな?何か飲みたいなー!!」ニヤリと笑って楠木を見ると、両手を上げて、「おー、何か飲もうぜ?みんな何飲みたい?」察しが良い友で助かるよ?

「おぅ、俺はコーラな、みんなは何飲む?楠木の奢りだぜ」


「良いの?楠木君じゃあ私はお茶で」

「良かったねたすく許してもらって、じゃあ私もお茶かな?」つくしちゃんとじゃれていた、たえと柊さんがつくしちゃんを連れて俺達の方まで来た。

「つくしは何飲みたい?」「んーとね?桃のジュース」「よし、じゃあパパと買いに行こうか?」「あっ、私も行くね?」楠木達三人は仲良くジュースの自販機に向けて歩きだした。


 たすくかぁ柊さん、楠木の事名前で呼ぶんだ……。


 そう言えば楠木も柊さんの事、あおいって呼んでたな?


「あの二人、仲が良さそうね?」たえが俺の隣に寄り添う様に近付く。

「俺も思った」


 遠目からでも、楽しそうにジュースを買う三人を見て何となく嬉しくなってしまい、表情が緩んでいたのかも知れない。


「まこと、嬉しそうだね?」ニコニコしながら、俺の顔を覗き込むたえ。

「お前もな」そっとたえの頭を撫でると、遠くから、


「まこと、また頭撫でてりゅー!!」幼い可愛らしい声に慌てて、たえの頭から手を離すと、ジュースを抱えた三人がこちらを見て、笑っている。

「つくし見てろ?今にあの二人キスするぞ!?」


「なっ何言ってんだ!!楠木!!」たえと二人して、顔を赤くしていると、援護射撃は意外な所から飛んで来た。


「キスって、パパと先生みたいに?」


 形勢逆転、今度は楠木と柊さん達が顔を真っ赤にする番だった。


 慌てて、言い訳をしようとする楠木と柊さん。


「楠木!!後で詳しく教えて貰おうか!?」


「柊さん、私達の間に隠し事は無しよね?」


 結論、子供には勝てないと心から思う大人達だった。

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