恋人と婚約者って、どう違う?2

「ゴメンね、まこと」たえのマンションへの帰り道、彼女は今日何度目かになる謝罪をしてきた。


 勿論、俺はそれに対して怒ってる訳でも無いし悲しんでいる訳でも無かったから、苦笑いするしか無かった訳で……。取り敢えず拗ねた様な顔で俺に謝りながらも、決して僕の手を繋いだままのたえが可愛らしいなとか、考えていた。


「でもさ、何で兄さん達に言わなかったの?」俺の事を知らない人ならともかく彼らは、ある意味家族の様に暮らして来たんだ。喜んでくるだろうし、反対なんてしないと思うんだけど……。


「……」彼女は、俺から視線を外して、黙り込んだ。


「たえ……」俺は促す様に、たえの繋いだままの手を少し強く握る。


「……面倒臭い」


「んっ?」


「面倒臭かったの!!」フーンだ!!と、不貞腐れた様な顔をするたえ。


 あまりにもシンプル過ぎる答えに、俺は思わず笑ってしまった。


「そーやって、まことは直ぐに馬鹿にする!!」たえは、俺と繋いだままの右手で、横腹を「てぃてぃ」とパンチして攻撃してくる。


「こら、痛い痛い」手を離してくれないから逃げられない。


 しばらく攻撃して気が済んだのか、


「だってさ、お兄ちゃん達って、いっつも五月蝿く連絡してきてさ」家族や俺以外には決して使わない、ため口を唇をアヒルの様にして怒りながら可愛らしくわめく。


「何だ、まだ告白しないのか?とか、まことが都会の女に取られるぞとか、俺から言ってやろうかとか……もううんざり」大きくため息をつきながら俺の腕にもたれ掛かってくる。

「なら、付き合ったって言えば良かったじゃん?」俺からの言葉に小さく「ほら、言うと思った」と言って続ける。


「絶対、しつこく色々聞いてくるし、からかわれるし……」確かに、からかわれるだろうな。たえの上の兄さん二人は高卒で漁師や農業を営んでいる。そのせいだろうか青春って言葉に過剰に反応する所があった。特に俺とたえには、ヤキモキしているらしく。一年に一回位、急に電話が来たりする。


「まぁ、言われそうだよな」苦笑しながら、アカギ兄さん達が電話越しに茶化して来たのを思い出してうんざりする。そういう時は、大抵お酒が入っているのもあってしつこいのだ。結局の所、彼らはシスコンなので、 たえの事が可愛くてしょうがない。


 ゆえ姉さんが結婚する事になった今、標的はたえ一人に絞られたのだ。考えてみたら、凄く怖い考えになってしまった。


「今日は帰ろうかな?」半分冗談、半分本気の言葉がつい出てしまって、それを聞いたたえが、


「まことは変わってしまったって、有る事無い事言うの」


「おい」


「都会の風に染まってしまって、女の人と見れば手当たり次第に手込めにして、遂には嫌がる私も……」


「そういう、シャレにならない冗談止めろよ!!」冗談で言っているのは分かるが、本気でシャレにならんわ!!


 本当の事は、たえとそういう事になったって所だけじゃねぇか?まだ、人通りのある帰り道で何て事言うんだ。


 思わず辺りを見渡すと、何人かと視線が合ってしまい、その途端、目をそらされた。


「たーえー!!」彼女のほっぺたを両手の平で挟んで、ゴシゴシ擦る。


「痛いー、止めーて、肌が荒れるー!!乱暴にしないでー!!」段々、ふざけ始めたので一度、手を止めると、


「貴方は、何時もそう、無抵抗な私に無理矢理……」よよよっと言いながら芝居がかった口調を始めたので、


「痛いー、止めーて!!肌が荒れるー!!乱暴にしないでー!!」数分ノンストップでほっぺたをグニグニしてやった。


「フンフンフン♪」それでも、そろそろマンションに着く頃には機嫌を直した、たえは鼻歌交じりで歩いていく。


「何を歌ってるんだ?さっきのシーザーサラダの歌?」妙に鼻歌が気になって聞いてみると、


「ん?違うよ?まことの所で見た、変なロボットのアニメの歌。ほら、急に出てきてババーンって、何か面白かった奴」


「あぁ、あれか?面白かった?」このまえ、一緒に見た深夜アニメの歌だったのか?確かにあれは面白かったな?


「ん?良く分からない、でも、何となく面白かったかな?まことが笑ってたから、釣られて笑ったのかも?」笑顔のたえを見て答えなんかどうでも良かったんだな?何て思いながら、「まぁ、暇があったら、また見ようぜ?ほら、そろそろ着くからそっちの荷物よこせ。鍵出さなきゃだろ?」


「うーん、多分お兄ちゃん部屋に入って開けっ放しだよ?」


「ババーンってか?」そう言って笑うと、ニッと笑ったたえは、「うん、バーンって!!」一頻り笑った俺達は、マンションの部屋の前まで、二人でうろ覚えのアニソンを歌った。


 夜だから、少し控え目にね。


「只今……」「お邪魔しまーす」部屋のドアはやっぱり開いていて、俺達が部屋に入ると奥から、短髪、アゴ髭に日焼けしたアラサー位の男性が出てきた。たえのお兄さんの、アカギさんだ。


「おぅ久しいな、まこと!!」ガハハと笑いながら俺の肩をバシバシ叩いてくる?


「アカギ兄さん、お久しぶりです」


「おぅ、まことお前、道端で美女とキスしてたみたいだな?」アカギ兄さんは、笑いながらも、目が笑っていない事に気づいてしまった。


 ……一体、何の話だ?




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