恋人と婚約者って、どう違う?1
「ねぇ、まこと今ね……幸せ」静かに流れる時間と淡い暗闇の中、我が恋人であり婚約者の忍野たえは俺の胸の中にいる。
俺達が婚約をしてから二週間が過ぎた。彼女が言った通り、結果的には彼女は妊娠をしてはいなかった。それでも一緒に産婦人科に行ったり少し生理不順と過労の傾向があるとの事で、薬を処方して貰ったり、慌ただしく日常は過ぎていく。
俺は出来るだけ彼女の側にいる様にしたくて残業は無い様に調整したし、少し無理もした。別に押し付けがましい事をしたい訳じゃ無かったけど、たえの為に何かしたかった……と言うか、何かしたくて堪らなかった。
今日は、デパ地下で惣菜を買って二人で家飲みをする事に、たえは料理を作ると息巻いていたけど、二人でのんびりする時間を増やしたいんだと言ったら、赤い顔をして小さく頷いた。
「ねぇローストビーフと焼豚どっちが食べたい?」焼豚の甘じょっぱい匂いと切られた断面が鮮やかなピンク色したローストビーフ、どちらも美味しそうでしばらく考え込む。
あまりに真剣そうに見えたのか、たえがプロポーズの時より真剣そうだよ?と大笑いで小分けにして両方とも買った。
「ねぇサラダ位なら作っても良いでしょ?」たえは、どうしても何か作りたい様だったので、
「いや、サラダ位だったら俺が……」と言ったら、素で機嫌が悪い顔をしてきたので言葉に甘える事にした。
「ロメインレタスとカリカリベーコン♪」機嫌良く歌いながら、俺より前にデパ地下を歩くたえ。材料からするとシーザーサラダなのかな?
今日は、二人で家飲みだから色々楽しみたかったし、少し無理してお酒が弱いなりにも付き合おうと思っている。
この際だ、少し面倒な揚げ物や煮物も買っていこう。二人で、角煮美味しそうとか、イカリングフライは鉄板だよね?だとか悩みながら、デパ地下を散策する。
少し、ぼっとしていると左手の甲に温かさを感じて、視線を送るとたえの右手が何度か当たっていて、たえの顔を見るとほのかに赤くなっているのを見てしまった。
なんだよ、うちの婚約者は可愛いかよ!?
そっと、優しく包み込むように右手をにぎってみる。
一瞬、柔らかい彼女の手が緊張している様に固く感じて、すぐ柔らかく温かくなった。
「えへっエヘヘ」たえは、うつ向いてはにかむ様に笑って、指と指を絡ませて来た。俗に言う恋人つなぎって奴だ。俺が軽く握り返すとこっちを見て、たえは恥ずかしさをまぎわらす様につないだ手を大きく振った。
隣を通ったカップルらしき二人が、「あれ、凄いですね?」「ああいうのをラブラブって言うのかね?」「真似します?」「イヤイヤ流石に無理だって、それにああいうのは美男美女だから絵になるんだろ?君ならともかく僕は、とてもとても」「貴方だって格好良いと思いますよ?」「……」最後には見つめ合って……。
「何か可愛いカップルね?」ふと気になって見過ぎてしまったのだろうか?たえが、悪戯っぽく俺の方を見て笑う。
「だな?初々しいって言うか……」男の方が背負っているミニリュックにぶら下がっている拳よりも少し大きめのアヒルがブラブラ揺れている。
「あっ?アヒル小隊のアヒル隊長ね?可愛い、確かドイツの絵本だったかしら?」たえがニコニコしながら、絵本の話をしてくれた。現国の教師らしく彼女は本を読むのが好きで俺も良くオススメの本を教えて貰ったりしている。買い物かごがいっぱいになった頃、さてそろそろ帰ろうか?と話しているとスマホからの着信音にたえが慌ててスマホを取り出す。たえは少し面倒臭そうな顔をして、
「あー、お兄ちゃんからだ……何だろう?」
「どっちの?」たえには二人の兄さんと一人のお姉さんがいる、俺も顔馴染みで良く皆で遊んだものだった。
一番上がアカギ兄さん、で二番目がシマズ兄さん、三番目がゆえ姉さんで一番下がたえだ。彼女の家は漁師で農家もやっている。遊びに行っては、魚を釣りに行ったり野菜の収穫を手伝ったり、一人っ子の俺にとってはたえの兄さん達は本当の兄弟みたいなものだった。
「アカギ兄ちゃんからみたい、もしもし何?」素っ気なく出た、たえに憤慨したのだろうか?五月蝿そうにたえは、しかめっ面になった。
「……えー、何でいるのよ?本当に?今から、まことのアパート行く所だったんだけど?」明らかに嫌そうな顔をするたえ。俺の名前を出してるけど、何があったのだろう?
「うん、わかった連れてくね、うん……じゃあ後で」どうやら終わったらしく、スマホを耳から離してゲンナリした顔をしている。
「どうした?アカギ兄さん何だって?」
「アカギ兄ちゃん今、私のマンションにいるって」
「へっ?」
「お母ちゃんからスペアキー借りて来たみたい」膨れっ面のたえの頭をよしよしと撫でて慰めてやる。最近、帰郷してなかったからな抜き打ちで様子でも見に来たのか?
「キンメ持ってきたぞって威張ってた」どうやら魚を持ってきたらしい。
「まぁしょうがないな、今日はたえのマンションの方で家飲みしようか?」俺の言葉にたえはうんざりした顔をして一言言った。
「ゴメンね?まだ、まことと付き合い始めたの家族に言って無いんだよね」
……婚約の事じゃなくて付き合った事も言って無いの!?
「……マジか?」
これ、絶対に怒られる奴だな……俺はたえと見合わせて、大きくため息をついた。
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