出来たって本当ですか?5

「まこと……また昔の事思い出したんだね?」何故いつも、お前には分かってしまうのだろう?何も言ってないのに……。


「たえ……」


「何年、幼馴染みやってたと思うんですか?」たえの声が耳をくすぐる。


「悪い」自分でも情けない位、小さな声だった。


「足をケガした時も、教育実習が上手くいかなかった時もいつも一緒にいたんだからね」俺は、たえに抱き締められたまま、たえの腕、胸の暖かさに、少しずつ癒されていくのを感じていた。


「ちょっと昔の事思い出してた」


「でしょうね。教育実習の事でしょ?」


「……やっぱり、分かるか?」お前に隠し事なんて本当に出来ないよな。返事は、当たり前でしょ?と言わんばかりの俺の頭をコツンと叩く音。


 だよな。


「……ねぇ、聞こえる?私の心臓の音」


 俺の頭越しに耳に聞こえる小さな鼓動、その音に安らぎを感じながら「あぁ、聞こえるよ」そっと答えた。


「えへへ、ちょっと前までは、まことを抱き締めるだけで、鼓動が激しくなっていたのにね。最近は、逆に落ち着くの」ふふっと小さく笑う声が聞こえる。


「何だよ、もう慣れたのか?」ちょっとだけ憤慨した振りをする。多分、本当はどうでも良い。もうしばらくこのままが良い。


「全く、いつもお前には助けられてばかりだな」小さくため息をつく俺に「何言ってるの?」と言われて少し困惑する。


「あのね、いつも助けられてるのはこっちなんだけど?今日だって、そうだし。旅行の時だって、そうだし」先程と声色で、何なら呆れを混じった様な声に、


「そうか?俺、いつも助けられてばっかりだろ?」そんなに変な事言ったのか?と少し慌てる。


 あのな?と反論しようとした時だった。



『ゴール!!勝負は振り出しに戻りました!!』テレビの音が急に耳に入って来た。俺も少し心に余裕が出来たのかな?

 そっか、何とか追い付いたのか?少し、ほっとする。

「まこと」たえが笑顔で右手を掲げる。

 ん?あぁ。俺も右手を掲げると、


「同点イェーイ!!」と俺の右手に向かってたえの右手がパチーンと大きな音を立てる。


「やったね!!次は逆転だよ!!」明るい笑顔にやっと俺は笑顔を返す事が出来た。


「いや、そんな簡単にって……嘘!?」応援しているチームが同点になった直後、チームの外国人フォワードが相手チームのボールをインターセプト、鮮やかなカウンターからフォワードが相手ゴールキーパーと一対一、ボールを軽く浮かせるとキーパーの頭上を越え、ゴールネットを揺らす?揺らした!?


「えっ?えっ?えっ?ヤッターー!!」さっきまでの、悲壮感は何だったのだろうか?という位、大喜びで、たえと抱き合って喜ぶ。


「本当にたえの言った通りだ!!やっぱりお前は凄いよ!!」大喜びで、たえに笑い掛けると、

「イェーイ!!私凄ーい!!」興奮気味の恋人に、


「やっぱり、お前を好きになって良かった!!」もしかしたら出来てしまったかもしれない事、昔の教育実習の話、ついでだけど今のサッカーの事。色々な気持ちが、ごちゃごちゃに混じって頭をぐちゃぐちゃにして……、最後はシンプルに目の前のたえが愛しい。


「アハハ、私何にもしてないけど?」


「良いんだよ、お前女神だもん!!」自分でも何を言ってるのか解らない。でも、今はテンションが楽しくてしょうがない。


「もう意味分からないよ。あのね、まこと私は女神じゃないの。まことの恋人、そうでしょ?」膨れっ面で、不満そうに言うたえを見ていると、何となく悩んでいた事が、馬鹿馬鹿しくなってしまい膨れた、たえのほっぺたを指で、ブスッと指せばブシューと音をたててほっぺたがしぼんだ。


 怒ったたえとしばらくの間ほっぺた押し勝負をしてじゃれあっていると、たえのお腹がグーッと音をたてて。妙な沈黙が出来てしまった。真っ赤な顔のたえ、しばらく見つめ合った後、同時に吹き出して大笑いをする。


「ご飯食べようか?」お腹空いたもんな、たえ?

「終わった事、悩むのしょうがないけど、まことが一人で悩んだって、どうしようも無いでしょ?」あまりの正論に 、苦笑いしているとサッカーの試合はハーフタイムに入っていた。


 そうだな、悩み事もハーフタイムにしようか?「悪いな、一緒に悩んでくれるか?」と言う問い掛けに「もちろん」とたえが笑ってくれた。


 のんびり、かつ丼を食べながら見ていると、ピッチレポーターにテレビ局のアナウンサーがハーフタイムの状況と司会者に何やら、からかわれていた。


「ねぇまこと!!」おぉ、とたえが声をだして「このアナウンサー熱海の時の!!」


「えっ?本当?」画面を見れば画面テロップでピッチレポーター天野うさぎと画面に書かれていた。あぁランタン祭りの時のアナウンサーか?


 解説者から『ぴょんちゃんよろしくお願いしまーす』と言われ『ぴょんちゃん言うの、やめて下さーい』と軽く返す辺り、いつもの流れなんだろうな。彼女は両チームの状況、監督の話、今後の展望を的確かつ手短に話すあたり、良いレポーターであり、良いアナウンサーなのだろう。

「何か、知っている人感あって応援したくなるね」たえが何となく嬉しそうに言うと、

『はーい、ピッチレポーターは天野でした!!いつも通りに恋人募集中でーす。但し顔が良くて優しくて性格良い方限定でーす!!では、ありがとうございましたー!!』思わず、たえと顔を見合わせて笑ってしまう。


『はい、天野ぴょんちゃんのお約束が出た所で、そろそろハーフタイムが終了の様です』


『面白いアナウンサーさんですね』解説の元サッカー選手が笑いをこらえながら言うと、

『そうですね、少し前にお祭りのレポーターをした時に、レポートした美男美女カップルに当てられたらしく最近のお約束らしいですよ?』実況のアナウンサーが同じく笑いながら答える。ホームチームが逆転したからだろうかホーム側の実況も軽口をするだけの余裕があるのだろう。


「たえ、今のって……」苦笑いしながら彼女を見ると、

「誰の事でしょうね、性格の良いイケメンさん?」満更でもない顔で、ニヤニヤ笑うたえに、「誰だろー?心当たり無いなー?」と何となくニヤニヤしながら、かつ丼をかっこむ。お前だって、美男美女カップルに入ってんだぞ?たえ。



 サッカーの応援をBGMに二人でかつ丼を食べる。


「なぁ、明日病院行こうか?一緒に行くからさ?」明日は土曜日、午前中なら何とか診察できるはずだろう?産婦人科は、予約欲しかったかな?


「あぁ、良いよ行くなら、前の生理から一月ちょっと過ぎてからの方が良いらしいし、もうちょっと経ってからの方が良いし、その……検査薬買ったから、その反応見てからにしたいの」やっぱり気にしてたのか。


「いつ位から、反応でるの?」


「生理から四週間位だからさ……ギリギリで明日位から?」


「マジか?」


「うん」そう言ったたえの顔は緊張している様に見えた。そりゃ緊張するよな?もし子供が出来てたら……。


「なぁ、たえ?」


「なあに?」


「俺達、結婚しようか?」

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