温泉旅行が当たりました11
作者より。
出来れば、夜読んで頂けると幸いです。
推奨BGM・Mrs. GREEN APPLE「hag」
☆☆☆
「そっち向いても良いかな?」
言った後の静寂がやたら長く感じた。
俺の言葉の後、数十秒たって小さく、
「良いよ……」
たえの声がする。無理してるよな。
本当は無理に急ぐ必要は無かったけど、今言わないと何となく二度と言えない様な焦燥感がして。
でも実際に良いと言われると、振り向くタイミングは何時なんだろう?とか余計な事を考えてしまう。
何故か振り向く時に目を瞑ってしまっている自分の律儀さに内心呆れながら、ゆっくりと目を開いた。
そして次の瞬間視線を斜め右下にそらすチキンっぷりに心の底から情けなくなった。
「よう」
「おう」それだけ言葉を交わして数秒の間二人して視線が定まらない挙動不審っぷりに、どちらかともなくプッと吹き出した。
「フフッ」
「フフフッ」
しばらく二人して静かに笑う。
お互いに笑って少し慣れた頃、
「エィ」
たえが指でお湯を弾く。
弾かれたお湯は、きれいに俺の顔目掛けて放物線を描き直撃。
「うわっ」
それをたえが2~3回続ける。
「ニャロ!!たえっ!!」
今度は俺がお湯を弾く。
何回もの間しばらくお湯弾きの応酬が続き、それが片手でお湯を掛ける様になり、それが両手になって笑いながらお湯をかけ合った。
「もうやだビショビショ」たえが笑いながら言い、
「お前が始めたんだからな」笑いながら俺も言い返す。
「だってまこと凄く緊張してるから可笑しくなって……」
「お前だって……そのゴメン」
少し落ち着いた瞬間にもろに、たえの姿を見てしまった。
白い肌がお湯を弾き大きいとまではいかないがそれなりの体格にあった大きさのハリのある形の胸、細いウエストの形の良い柔らかそうなヒップも……なんて、もういいや綺麗事は言わない。
胸のほら……先の所も普段、絶対見る事の出来ない下腹部も、もう全てが生々しくて……ヤバいな理性無くしそうで。愛おしすぎて……。
「まこと目がエッチだ」
「悪いのかよ?」
「別に悪く無いけど……お互い様だし」
「その……こっち来いよ」
「うん」
湯船の中、座った俺の両足の間で寄りかかったたえは後ろを振り返り、もう本日二回目になるキスをする。
「ようやく慣れたの……かな?」
俺の胸に寄りかかってくつろぐたえ。
お湯の掛け合いで、お互いに慣れたのか、ようやく寛げている。
たえの長い髪が俺の鼻先をくすぐる、
「良く考えたら小六まで一緒にお風呂に入ってたのよね」
懐かしむ様に微笑むたえ。
「そういや、そうだな」
小六の頃、急に成長し始めたたえを見て…。
「まことが恥ずかしいから、もうたえとは、お風呂一緒に入らないって言ったんだから」
そんな感じだ。
「あの頃さ背とか俺よりも、たえの方が大きかっただろ?」
「だから気持ちだけは大人ぶりたくてさ」
思春期って奴かな?
「ガキよね?」
「ガキだな」
静かに二人で笑い合う俺は、ゆっくりと後ろからたえを抱き締める。
そのままの体勢で夜景をながめていた。
「ねぇまこと、あれ!?」
急にたえが西の方向を指差す。
見れば、それはミドリ色に光っていた。
「あれは、ユーレイ!!なわけ無いな今日のランタンか?」
二人で覗いてみると、ベランダの柵に引っ掛かっていたのは、もう淡い色になりかけていたけど、ミドリ色に発光しているランタン祭りで放ったランタンだった。
「ここまで流されて来たんだ」
たえが近づいて行ってランタンをつつく。
「たえ、お前タオル!!」
大きいタオルを放り投げる。
たえはそれを綺麗に受け取った。
「流石、女子球技部のエース」
そう言って茶化すと、
「お互い様でしょ」
と言って笑う。
たえがランタンを持って戻って来た。
「ねぇまこと、これ」そう言ってランタンの短冊の部分を見せた。
短冊を見てから、たえを見ると恋人は嬉しそうに微笑んで、
「なんだって」
と言って俺にランタンを渡した。
「承りました」
俺は丁寧にそう言ってランタンを露天風呂の端に置く、そして二人でランタンに拝んだ。
明日、仲居さんに言って持って行って貰おう。
「何か忘れている様な……あっ!?」
緊張のせいで、すっかり忘れていたと慌ててワンカップを持ってくる。
「やった!!まこと飲もっ!!」嬉しそうに言うたえに、
「たえは一杯だけ俺は一口だけな」そう言って舌を出して笑うと、たえもとびきりの笑顔を見せてくれた。
☆☆☆
二つ並んで敷かれた布団の一つは使わずにその晩は過ごす。
「良いんだよな?」
「ずっと、こうなったら良いなって思ってたの」
「あぁ俺も……」
「あっあの私そのっ……」
「うん解ってる。いや良く解って無いかも、だからゆっくり丁寧にする位しか出来ないし、まぁ俺も情けないけど……」
たえは人差し指で俺の唇をふさいだ。
「本当に嬉しい」
経験値の無さは愛情で補えるのだろうか?
ただ今は君だけを見よう。
「ねぇ大丈夫かな?こんなに幸せ過ぎて……」
「まだ、こんなもんじゃ無いだろ?」
「格好良くて暖かくて優しくて……まことは、私のしあわせの形そのものなんだよ」
「あのな、それじゃあ俺にとってのたえは……幸せ過ぎて死んじゃうよ」
「バカ……」
俺は、それ以上たえが色々言えない様にキスで口をふさいだ。
夜中に、もう一度露天風呂を二人で使った。
少し二人で入る事に慣れてきたたえが嬉しくもあって少し残念にも思った。
そして、二人だけの夜が明ける。
カーテンが少し開いていて朝日が調度、目に入ってしまった。
少し眩しく呻くように俺は、目を覚ます。
少し左腕が痺れていて痛い。
大きな生欠伸をして、隣を見ると幸せそうな顔をして眠るたえがいた。
上半身をはだけ出して眠るたえを見て少し赤面し、そっと布団を掛ける。
時間を見て、まだ寝させてやろうとそっと布団から出た。
浴衣を着直すと、大きく伸びをして肩をほぐした。一人分の頭を乗せていたせいで腕か少し痺れている。
カーテンを少し空けて朝日を見る、露天風呂を見て後でもう一度入ろうかな?と考えつつ、端に置いたランタンを見た。
すでにLEDの灯りは消えていて少し寂しさを感じる。
ランタンの短冊には、たどたどしい文字で、
『このランタンを見た人たちがしあわせになりますように』
と書いてあった。
俺は一度たえを見た後、誰に言うでも無しに、
「もちろん」
とつぶやいた。
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