第12話 モテモテだ


僕はサーシャの家の前で待っていた。


ガチャッ。


サーシャの家の扉が開いた。


「治ったよ。本当にありがとう、ルビアス」

「良かったぁ」


胸をなでおろした。

これで治らないとかなったら、アイテムを増やした意味がなかったし。


「あ、その。ルビアス?」


恥ずかしそうに声をかけてくるサーシャ。


「これから時間はあるだろうか?」

「いや、やる事があるんだよね」


ウェルのところに戻ってクリアしたことを伝えなくてはいけない。


これからもこの大陸に来て定期的に冒険者をやりたいと思ってるし、変にゴタゴタさせたまま帰るつもりはないかなー。


「そうか。もう少しルビアスと話してみたい、と思ってさ。暇ができたらたまにでいいからこうして会いに来てはくれないだろうか?」

「なんで僕なの?」

「そ、それはだな。ルビアスと話していると落ち着く、というかなんというか……ごにょごにょ」


後半急に声が小さくなるサーシャ。



まぁいいや。


「うん。分かった」

「ほ、本当か?私はだいたいギルドの方にいるから、顔を出して欲しい」

「うん。覚えとくね」


そう言ってギルドに向かおうとしたが、


「最後に」


サーシャが呼び止めてきた。


「指切り、してくれないか?」

「どうして?」

「スピリチュアルだろう?見えない糸が二人を結ぶみたいで、さ。私はこういうの信じてるんだ」


そんなスピリチュアルサーシャと指切りした。


変わった子だ。


「ふひひひ」


指切りしたらそう笑うサーシャ。

本当に変わった子だ。


それから僕に目を向けてきたサーシャ。


「これで私とルビアスの間には見えないスピリチュアルラインができた」

「そ、そうなんだ」

「またいつか絶対に会えるよ。私のスピリチュアルハートがそう言ってるから。そして私はルビアスと結ばれるだろう」

「え?うぇっ?!結ばれる?!」

「うん、単刀直入に言う。私はルビアスが好きになってしまった。付き合ってほしい」


単刀直入すぎない?!


ムードも何もない告白を今僕はされた。


でもOKしちゃうんだな。これが。


「いいよ!」


パァァァ。

顔が明るくなった。


「ほんと?!」

「うん。それはそうとさ。僕今から用事あるから、じゃあね」

「う、うん!また来てくれ!」


僕はサーシャの家を離れた。

ギルドに向かおう。



僕はギルド前に戻ってきて扉の前で立っていた。


「よし、いくぞ」


僕は意を決して中に入ると


「ギルド内の視線が僕に突き刺さった」


うげっ。

なんでこんなに見られてるわけ?


僕なんて見たってなにもいいことないよ?!


そんな僕を見てウェルは笑っていた。


「無様に負けて帰ってきたか。ははは。お前が出ていってから3時間も経ってないぞ?」

「ん?」


首を傾げた。

負ける?


「どういうこと?」


アイテムポーチから宝玉を取りだした。


それを見て


「はぁぁぁあぁぁあ?!!!!」


驚くウェルに近付いて、ゴトッ。

机の上に置いた。


「これだよね?取ってこいって言ってたの」


ベタベタ宝玉に触れて確認をするウェル。


「ほ、本物だ……これ」


僕の顔をマジマジと見てくる。


「そんなに見られても困るんだけど」


答えたのはウェルではなく、その隣にいたスキンヘッドの男だった。


「まさか、あのダンジョンから帰ってくるなんてやるじゃねぇかよ、新参。がはは」


このこのーっと肩を組んで僕の胸を突っついてくる。


「ウェルの野郎は無理難題押し付けたって言うのによぉ。大したもんだぜ」

「え?無理難題?」

「そうさ。あのダンジョンは長らく攻略されてこなかったダンジョンだ。何人もの冒険者が挑んで逃げ帰ってきていたダンジョン」


へー。そんなダンジョンだったんだ。


「だからな。ウェルは将来有望な冒険者が出る度にそこに向かわせて、新参の心をへし折ってんだよ。性格悪いだろ?ガハハ」


豪快に笑う男。


そして僕の周りには、女の子が集まってきた。


な、なに?!


みんな可愛い。

美人だったり美少女だったり。


「ルビアス様?!見たところソロ冒険者のようですが、所属パーティなどは決まっているのでしょうか?」

「私のパーティにぜひ来てください!」


聞いてみると僕をパーティ勧誘にきたらしい。


(僕のことを必要としてくれてる?ってこと?)


前世で僕はこうやって誰かに必要とされることなんて無かった。

だからこの世界で誰かに必要にされたいと思ったんだけど。


(僕は今必要とされてる。前世とは違う人生を歩もうとしてる)


その事にちょっと嬉しくなった。


でも


「ごめんね。僕はパーティに参加するつもりはないからさ」


僕は学園に入学する予定がある。

だから冒険者活動に全力を出したり、パーティに振り回されたり、というのはしたくない。


「残念だけど、さ。誘ってくれて嬉しいけど」


僕がそう答えると女の子たちは落ち込んだりはしなかった。


それどころか


「孤高の冒険者を目指してるってことですか?」

「か、かっこいい……」


キラキラー。


そんな視線を僕に飛ばしてくる。


「そ、そうかな?」

「はい。普通皆さんパーティを組みますから。それをソロ活動なんて憧れます!」


そう言って女の子たちは僕に話しかけてくるが、ウェルがやっと口を開いた。


「おいおい、待てよ。お前ら。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ?俺は信じてルビアスを送り出したんだよ。んでもって、ルビアスを育てたのは俺だ、そんな師匠の俺はいつでも勧誘を受け付けてるぜ」


親指で自分の顔を指し示すウェル。

しかし誰もそんな話を聞いていなかった。


「ルビアス様はどこかで冒険者生活をしていたんですか?!」

「ヒュドラ相手に一人で勝ってくるなんてほんとにすごいです!あこがれちゃいますぅ!」


ヒューッ。


ウェルの周りを冷たい風が吹いた気がする。


「……ふっ……真なる強者というのは常に孤独だからな……。ルビアス、お前は偽物の英雄さ……分かるか?頂点は常に一人、ということさ……」


肩をすくめてウェルがとぼとぼと歩いていった。


誰も話を聞いていないのに耐えきれなくなったようだ。


そんなとき、カウンターの奥から受付嬢が歩いてきた。


「話は聞きました。実力が本当、ということですので。ランキングはこのまま行こうという方針に決まりました。」


え?いいのかな?


僕は不正と呼ばれることをしたんだけどな。


なんだか、罪悪感に襲われてきちゃった。


謝ろう。


「ご、ごめんなさい!僕実はポイントをスキルで増やしちゃいました」


そう言うと受付嬢の女の人はニッコリ微笑んで言ってくれた。


「本来冒険者ランクというのは冒険者の腕前を表すためのものです。今回あなたは我々に実力を見せてくださいました。そしてそれは冒険者ランク一位の名にふさわしいものでした」

「で、でも」

「お気になさらず。この世界は実力主義なのです。実力があれば問題はありませんよ」


そう言って歩いていく受付嬢の女の人。


(実力や結果だけが求められる世界なのか)


そしてそれがあれば不正なんてものは帳消しにされる。


地球じゃ絶対に考えられなかったことだと思う。


(これが、異世界なんだ。ほんとに面白いな)


その後。


この大陸で僕は神出鬼没なせいで【謎のSSSランク冒険者】と呼ばれる存在になるのだった。


そしてサーシャはこのまま、ここで冒険者を続けてギルドマスターの座へと登っていくことになるのだった。




【あとがき】


次から学園編始めます。

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