第8話 自白チート
「父上、ルゼルは違うよ!!」
僕の叫び声に答えたのは父上専属の執事だった。
「ルビアス坊っちゃま。盗み聞きとは趣味が悪いですな」
「き、聞こえてきたんだ」
「盗み聞きには変わりありますまい」
そう言って執事は僕の方にくると両脇を掴んできた。
「坊っちゃまには見せられません」
「は、離せよ!」
「離せません。これより広がるのは残虐な光景です」
僕を部屋の外へ連れ出そうとする執事。
振り払おうと思ったけど、思いっきり暴れればこの執事が無事かどうかが分からない。
そうなれば後々に響く、かも?
「ルゼル!なんで黙ってるんだよ!なにか言えよ!」
「いいえ、ルビアス様。私はこの家の塀が破損しているのを知っていて黙っていた罪があるのです」
「え?」
「その破損でできた穴から出入りしていたのを、執事に見られていたのです。内通者として疑われるのは仕方ありません」
で、でも違うと思う。
ルゼルは僕が夜歩いてるのを見て注意してくれるような子だもん。
父上が刀を振り上げた。
「退けよ!」
「がはっ!」
執事を力の限り振り払って拘束から逃れるとルゼルを抱き抱えて飛んだ。
「何しているルビアス」
「ルゼルが内通者なわけない、と思う」
「だが、穴から出入りしているところを見たものがいるのだぞ?」
「なにか別の用事があったと僕は思う」
それより、と執事に目をやる。
「なんであんたはルゼルが出入りしてるところを見かけたの?」
僕も破損していた穴の場所のことは知っている。
この前の一件以来関係者に知らされたからだ。
でもあんなところ、普通は見つけられるものではない。
この家の関係者が中々通らないような場所に開いた穴だったからだ。
「あんなとこ普通立ち寄らないよね?なんであんたは立ち寄ったの?」
「見回りですよ。坊っちゃま。そうしたら見つけた次第です」
なんとなく僕はこの男が嘘をついている気がした。
なんでこの男こんなに冷静なんだ?
疑われてるんだぞ?
なんでもっと否定しない?
【チート】
立ち上がるウィンドウ。
(自白チートを貸せ!相棒!)
【ほいさ!】
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Enter!
キーボードを押すと執事の口がもごもごと動き出す。
そして事の顛末を話し始める……
「大旦那様。私はあなたが今も座っている椅子に嫌がらせをした事がある。カッターで切りつけて中のクッションを抜いたのです。その事についてお詫びをしたいと、感じております」
土下座!
土下座した!
しかも嫌がらせがほんとにしょぼいな?!
でもさ、違うくない?!これ。
【間違えちゃった。これ懺悔コードだった!】
(この場面で何してるんだお前ーー!!!)
【正しいコードはこっちだ!】
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今度こそ!
Enter!
「そうだ。内通者は私だ」
この部屋の時間が凍った。
驚愕したのは僕達だけじゃなく、この言葉を発した執事もだった。
「ち、違いますぞ!」
必死に口を閉じようとするが、止まらない。
「大旦那のアホには愛想が尽きていた。大旦那を始末して綺麗さっぱり別れて自由になるつもりだったんだが。腕利きの盗賊に頼んだはずが、ガキに負けやがって」
「なんだ、と?貴様」
「ち、違いますぞ!大旦那様!」
否定してから笑い出す執事。
「ははは。全て真実。私が穴を開け、賊に穴のことを知らせ、大旦那を殺害させ、公爵令嬢の娘を連れださせるつもりだった」
全て白状した執事。
「ほう。なかなか挑戦的だな、貴様?」
父上の右手のひらが向けられた。
「パラライズ!」
父上の魔法によって痺れる執事。
これで動けなくなったらしい。
他の兵士たちを呼びつけて、後処理をしていく父上。
「ルゼル、すまなかったな」
ルゼルにそう謝ってから僕に目を向ける父上。
「なぜ自白したのか分からんが、よくやってくれたな。我が息子よお前のおかげだろう?」
頭をわしゃわしゃと撫でて僕とルゼルを置いて兵士たちと外に向かっていく父上。
「あ、ありがとうございます」
そうして礼を言ってくるルゼル。
「こ、殺されるところでした」
腰を折ってきちんと感謝してきた。
「あなたは命の恩人です」
何度も何度も礼を言ってくるルゼルを宥めてから聞く。
「穴から出入りしてたって、どういうこと?」
「理由がありまして、着いてきてくれますか?」
そう聞かれて僕は頷いてルゼルについて行く。
庭の片隅。
誰も来ないようなところにその穴は空いている。
しかし、この前の盗賊の一件以来そこには兵士が置かれるようになっていた。
僕はその兵士に事情を伝えて穴を通る許可を貰うとルゼルがしゃがみ込んで穴を通っていく。
僕もそれに着いていくとその先に広がるのはちょっとした森だった。
ルゼルがそこで少し待っていると
「ハッハッ」
どこからか子犬が走ってきた。
それがルゼルの前で止まって尻尾を振っていた。
それを撫でるルゼル。
「この犬?」
「はい。捨て犬らしいのです。ある日鳴き声が聞こえて、見に来たらやせ細っていたので、それでご飯をあげていたのです」
それで穴を通っていたのか。
でもそれじゃ疑われるよな。
「言ってくれたら良かったのに」
「申し訳ございません。お手数をおかけしたくなかったので」
とのことらしいが。
全然手数じゃない。
「父上に頼んでルゼルが飼えるように説得してみるよ」
「よ、よろしいのですか?」
「いつも世話になってるしこれくらいならいいよ」
そう答えて僕は穴から敷地内に戻る。
子犬を抱えて戻ってくるルゼル。
その景色を見ているとふと思った。
「ルゼルの子供みたいだね」
「私の子供、ですか?」
「うん。お母さんみたい」
「お父さんは誰なんでしょう?」
聞いてくるルゼル。
その後に顔を赤くして
「私はルビアス様だと嬉しいです」
そう言ってきた。
なかなかグッとくる言い方ではあった。
というより、もしかして今告白された?
「それさ。僕のこと好きってこと?」
恥ずかしそうに頷くルゼル。
「本当はいけないことです。ご主人様のことを好きになるなんて。でも気持ちを抑えられませんでした」
そう言って頭を下げるルゼル。
「ごめんなさい。不出来なメイドで」
僕はルゼルの頭に手を置いて撫でた。
「ルゼルはすごいメイドだよ」
顔を上げたルゼルに改めて伝えておく。
「これからもよろしくね。ルゼル」
「は、はい!よろしくお願いします。」
恥ずかしそうに先に早足で歩いていくルゼルの背中を見送った。
僕は思う。
あの小さな背中を守れたらなって。
(学園に入学して色んなことを勉強して、強くなって、僕はあの子を守れたら、いいな)
その前に、僕はチートスキルを思い出した。
なによりも先にもっとスキルの事を知らないとな。
今日から僕はチートスキルについて必死に学ぶことに決めた。
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