第5話 公爵がきた!
公爵の従者の声が僕の寝ている部屋まで響いてきた。
「公爵のおなーりー」
父上が三男を連れて公爵の出迎えにいった。
僕は特に用事がないので部屋にいろと言われたのだが、父上がペコペコする相手の公爵とやらがどういう人物なのか気になって窓から庭園の様子を眺めていた。
バーンと領地内に続く門が開かれてそこから公爵一行が中に入ってくる。
公爵の隣にはまだ年端もいかないであろう少女が立っていた。
さりげなく窓を開けてどんな会話をしているのかを聞いてみる。
「おや?」
公爵がそう呟いて花壇の前で立ち止まる。
「どうしましたか?公爵」
両手を擦り合わせて媚びを売る父上の姿が目に入った。
情けない。
実に情けない。
「オジギバナか、私も好きだ」
「恐悦至極でございます。こちらは私の趣味でございます。心を込めて数ヶ月前から育てておりました」
よくもまぁ、サラリとそんな嘘を吐けるよね。
だから貴族になれたのかなぁ?
「育てた?」
「は、はい。それがどうかいたしましたか?」
「珍しいものだな。季節外れだぞ?今の時期はオジギバナは枯れてしまうものだ。どうやって育てたのだ?論文にすれば話題になるぞ?」
「え、いや、その……それはですなぁ……」
急に目をキョロキョロとさせる父上。
そこまで言い訳を考えていなかったらしいが。
僕に目を向けてきた。
「わ、我が息子ルビアスが育てたものでございます。おーいルビアス」
呼ばれた。
全部僕に投げるらしいぞ。
タッタッタッと半ば走るようにして家から出るとスグに公爵の前へ
「ご紹介に預かりましたルビアスでございます。公爵様」
僕の言葉を聞いて驚く公爵。
「その年で素晴らしい敬語だな。なぁ?リエルよ」
と、公爵は自分の横にいた娘らしき人物に声をかけた。
「そうですわね父上。この年でここまで敬語を話せるとは、驚きましたわ」
「ふむ。ルビアスくんよ。君はどうやってこのオジギバナを育てたのかな?」
父上は目線で誤魔化せと必死に訴えかけてきていた。
何通りか考えていた。
買ったと答えれば、どこで買った?連れて行け、と言われる恐れもある。
つまりここは勢いで誤魔化すしかない。
「公爵はフェドラフの植物育成論をご存知でしょうか?」
「ふぇ、フェドラフ?いや、知らんな」
僕が今適当に考えたそれっぽい人物の適当な育成論だ。知っている方がやばい。
「その育成論に書かれていた方法を実践したらこのように季節外れでも育ちました」
「ほう。それは興味深いな。その育成論はどこで見られる?」
「公爵。お言葉ですが、自分もそれを存じません。もっと幼い時に少し目を通しただけです。私自信もどこで見たのかを覚えていません。ですので記憶に残った僅かな情報を繋ぎ合わせてなんとかここまで育てました」
「ふむ。それは残念だな」
僕から視線を外す公爵。
次の興味の対象は父上に戻った。
よし、勢いで押せ作戦が通じた。
僕がそうやって内心ガッツポーズをしているとき、兄上が公爵令嬢に話しかけていた。
「令嬢、お、俺とお話しま……」
だがその言葉は続かなかった。
令嬢は僕を見てくる。
「ごめんなさいね?私はそちらの少年の方が興味を持ちました」
と僕を見てくる。
「ルビアス様でしたわね?私はリエル。私と少しお話しませんか?」
その言葉を聞いてガーンと顔を青ざめる兄上だったが父上の方は僕の肩に手を置いてボソッと呟いてきた。
「粗相のないようにな」
父上は公爵に目をやり、
「公爵。こちらへ」
そう言って歩いていく。
もちろん兄上も手を引かれて連れていかれた。
残された僕とリエル。
「ふふふ、公爵は騙せても私は騙せませんわよ?フェドラフなんて人はいない。そうですわね?」
確信をもっているかのように聞いてくる女の子。
僕は思わず驚きで素の話し方をしてしまう。
「な、なんでバレ……」
「ご自身からボロを出すのですね。ふふふ」
そう言ってリエルは自分の周りに精霊を呼び出した。
「私は精霊使いですわ。目の前の人が嘘をついているか、本当のことを言っているのかは分かります」
「な、なんでそれを公爵に言わなかったの?」
「種明かしをしてはつまらないでしょう?」
そう言ってどこかへ歩いていくリエル。
「ルビアス様年齢は?」
「5歳」
「私は7歳ですわ」
そう言いながら歩いた先は庭園の噴水だった。
そこに腰掛けるリエル。
「本当はあのつまらなさそうな、あなたの兄上と話すつもりでしたけど、あなたが来てくれて良かったですわ。ルビアス様」
そう言って彼女は僕の目を見てとんでもないことを口にした。
「あなたとなら婚約してもいいと思います」
「え?婚約?」
「私もあなたも貴族の子です。結婚相手は子供の頃から見つけるもの。私はあなたとなら結婚してもいい、とそう思います」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!」
ちょっと待ってくれ。いきなり結婚?
話がぶっ飛んでるよな?!
「あなたにとっても悪くない話だと思いますよルビアス様。私の家は地位が高い。そんな家の令嬢と結婚できるのです。あなたの地位も上がる、というもの」
別に地位なんて要らないんだけどなぁ。
そんな、会話をしているときだった。
ガサッ。
近くの茂みが揺れ、そこから黒ずくめの男が数人出てきた。
「公爵の娘を捕らえろ!」
(と、盗賊?!)
そいつらは僕を無視してリエルへと迫っていく。
「な、なんなんですの?!無礼な!」
(まずい!リエルを守らないと!)
後で父上に何を言われるか分からない。
この前作ったばかりの無双刀を手に取る。
(守らないと!)
その意思が伝わったのか、僕の無双刀が勝手に動くようだった。
「うわっ!」
ブン!ブン!
文字通り僕の無双刀が勝手に動いていく。
(ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!)
剣を振っているのではなく、僕は剣に振られていた。
しかし、そんな有様でも
「ぐあっ!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!!!」
僕はどんどん敵を倒していく。
バタリ。
またバタリと倒れていく盗賊たち。
そして残されたのは盗賊のリーダーっぽい男。
「な、なんだ、このガキ……子分が一瞬で2人も……」
ギリッ。
盗賊は歯を食いしばって剣を抜こうとしたがその前に、
ザン!!!!
僕の刀が盗賊を倒していた。
(す、すげぇ。これがSランク武器。倒したいと思うだけで最適な動きで盗賊を倒してしまった)
でも、同時に思う。
僕が自分の意思でこの武器を触れるようになればどれだけ、この武器は強くなるんだろう、って。
「り、リエル?!」
そのとき騒ぎを聞きつけたのか家の中から公爵と父上が出てきた。
公爵の顔から血の気が引いた。
「な、なんだ、これは……に、人間が倒れている?」
そうして僕の手に持っていた刀に目を向けてくる公爵。
「き、君がやったのか?ルビアスくん」
まずい。
常識的に考えてみろ。
5歳の僕が大の大人数人を一人で倒した、なんて信じられないだろう。
そんなことを話してしまえば、いずれ僕のスキルについても話さなくてはならないだろうが、僕のスキルは人前で出てこない。
話がこじれて面倒なことになるかも。
どうやって誤魔化そう。
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