第5話居酒屋にて

甲斐は余命3ヶ月の告知を受けた後、心の整理をするために居酒屋千代に向かった。

カウンター席に座る。隣に相棒の南川はいない。彼は今、糖尿病の教育入院中である。

まずは、生ビールと鯉の洗いを注文した。

不思議な感覚だ。

死を前にしても、ビールが美味しい。

店内は忙しいらしく、千代ばぁも、凛も厨房に立っている。

2人とも、調理師、管理栄養士の免許を持っている。


甲斐はハイボールを飲みながら、タバコに火をつけた。

この居酒屋は喫煙可である。

しかし、実感が湧かないのか彼女に末期ガンであることを伝える必要はないと考えた。

だって、余命数ヶ月で何年も生きているガン患者を何人もテレビで見たことがる。

余計な心配はさせたくない。

甲斐は手術は拒否した。

水谷医師がせめて、原発巣の切除を提案したが、甲斐は頑なに断った。

生きたいのか死にたいのか分からない自身を考えると笑える。

9月の半ば、戻りガツオの刺し身を注文した。ニンニクスライス多めで。

南川だけには、包み隠さず全てを話そう。彼だけは、理解してくれるであろうから。

その前に、明日は南川が入院している病院へお見舞いに行こうと考えた。

末期ガン患者が、糖尿病患者のお見舞い。

この、笑えない状況を南川は笑ってくれるだろう。

甲斐は、この日は泥酔状態になり、タクシーで帰宅し、ベッドに倒れ込む様に寝た。

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