第3話甲斐の誤算

おかやま内科クリニックは、涼しかった。

待合室には、お年寄りでいっぱいだった。院長の岡山直樹医師は、大学病院の元准教授だった。

「南川さん。診察室へ」

と、看護師の呼び声が聞こえた。

「じゃ、先に行ってくる」

と、南川は甲斐を残して診察室へ入って行った。

10分後、南川は暗い顔をしながら出てきた。

「南川、どうだった?」

「HbA1c《ヘモグロビンエーワンシー》が8.8あったから、来週から教育入院だってさ。糖尿病だとよ!」

「大丈夫か?」

「こんなん、直ぐに良くなるって!」

そうこうしていると、

「甲斐さ~ん。甲斐雄太さ~ん」

と、呼ばれ診察室に呼ばれた。


岡山医師は、

「だいぶ、血液検査の結果が悪いですね。ずっと下痢ですか?」

「下痢と便秘を繰り返しています」

「便の色は?」

「く……黒いですね」

「体重は?」

「最近、5キロ落ちてしまいました」

「そうですか~。一応、念のために大腸カメラ受けましょう。大学病院に紹介状書きますんで。必ず、今月中に大学病院を受診して下さい」

甲斐は不安になり、

「先生、何か悪い病気ですか?」

「まぁ~、あまり言いたくないけど、大腸が相当悪いと思います。便に血液が混じってる結果が出てるので。でも、その心配を解消する為にも、大腸カメラ受けましょうね」

「……はい」

甲斐は、診察室を出た。すると、南川が開口一番、

「甲斐、ガンか?」

と、明るく言うと、

「たぶん」

「おいっ、冗談は辞めろよ」

「大学病院で、大腸カメラだってよ!」

「変な病気じゃなきゃいいがな」

「うん。ま、とりあえずマイアミ行くか?」

「そうだな。オレも糖尿病でそうビールも飲めなくなるだろうし」

2人は、バスでマイアミに向かった。


残暑のキツい季節の、生ビールはやはりノーベル賞モンだ。

2人は1杯目はガブガブ飲んだが、甲斐の飲むスピードが落ちたので、南川も自然とゆっくり飲み始めた。

「甲斐、顔色悪いぞ!いいじゃないか?大腸カメラで何もなけりゃ、今までの生活続けられるんだから。オレは、糖尿病だから、もう、ビールは飲まないと決めたけど。これが、オレの人生最後のビアガーデンだ。もっと明るくいこうぜ!」

と、必死に南川は場を和ませようとした。

そして、甲斐がポソリと呟いた。

「大腸ガンだったら、どうしよう?」

「甲斐、今の大腸ガンは早期発見されれば、直ぐに良くなるって、カミサンが言ってたぞ!」

「そうなの?」

「うん。そう」

「じゃ、バンバン飲んじゃえ」

再び、2人はビールを浴びる様に飲んだ。

翌週の月曜日、南川は糖尿病の教育入院をして、甲斐は大学病院に向かって大腸カメラを受けた。

そして、消化器内科教授の水谷厚子から甲斐に病状の説明があった。

それは、衝撃的であったのだが……。

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