第2話助言

甲斐は、【要精密検査】と印字された用紙を本棚の上に、ポンッと置き出勤前のトイレに行った。

最近と言うかここ1、2年、下痢と便秘を繰り返し、この日の朝は下痢だった。

水様便の色は黒びている。

電車でまた、コックリコックリ舟を漕ぎ、会社に到着すると、喫煙所で南川がタバコに火をつけている瞬間だった。

「おはよう、南川」

南川は、煙を吐きながら、

「オイッスー」

と、返事した。

「この前の健康診断の結果届いたか?」

「うん。要精密検査だってさ」

「俺も。尿酸値と血糖値が高くてさ。明日は、病院行ってるくる。かみさんが病院へ行け行け、うるさいから」

「あっ、南川の奥さんは元看護師だったよな?」

「それがさぁ~、ガキが小学生高学年になって、手がかからなくなったから、小さなクリニックの看護師として、3ヶ月前から働いてるんだ。そこの、クリニックへ明日は、行くんだ」

甲斐はワイシャツの胸ポケットからハイライトを1本取り出し火をつけた。

「俺も要精密検査って書かれていたけど、おれは病院行かねぇよ。だいたい、検便で引っ掛かるって何なんだ。俺は下痢止めだけ飲んでりゃ問題ないからさ」

「でも、万が一があるから、明日俺とお前でかみさんが働くクリニック受診しないか?何にもなけりゃ、飲めるし。否、あっても飲むか?」

甲斐は、アイスコーヒーを飲みながら、

「明日、要精密検査を大義名分として一緒に休んで、ビアガーデンでも行くか?行くなら、マイアミがいいなぁ」

「マイアミ?いいねぇ。一年中、ビアガーデン開いてるからな。9月のビアガーデンも悪くない」


2人は翌日、精密検査を受ける理由で管理者に有休の申請をした。

上司の石本幸太は、ニヤニヤしながら、

「どうせ、お前ら明日休んで病院行って、コレだろ?」

と、石本は手で酒を飲むかジェスチャーをした。

2人は笑っていた。


帰宅した甲斐は、本棚の上に無造作に置かれた健康診断の結果票をバッグに入れて、シャワーを浴びた。

タオルで髪の毛を拭きつつ、体重計に乗ると5キロ体重が落ちていた。174センチの身長で、体重が59キロ。

甲斐は、また痩せた!だけの認識しか持たなかった。

第一、酒はうめぇし、良く食べる。

病気なら、食べれんだろう。これは『家庭の医学』と言う辞典に書いてあった。

グラスにマッカランを注ぎ、チビりと飲んだ。

やっぱ、ウイスキーはトリスが一番だな!

と感じ、テレビで天気予報を見ながら、そのまま寝落ちした。


翌朝は、晴れていた。残暑が厳しく、チノパンにTシャツ姿でクリニックに向かった。

『おかやま内科クリニック』

クリニックの入り口に南川は待っていた。サングラスに扇子をパタパタとしていた。

「おっす、雄太君」

「おはよう、南川。ちゃっちゃと、検査終らせますか~」

2人は涼しいクリニックの中へ入って行った。

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